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君と、もう一度。  作者: れんティ
夏休み編
31/126

夏休み:其の三

 声の元を辿ると、手を振っている三人。女子も着替えが終わったのだろう。

 人が少ないとは言え、見回せば数人は視界に入る。そんな中で、遠慮も萎縮もしていない大声、声音も相まって、上げたのは真澄だと知れる。

「螢、パラソルありがとう」

「いや、力仕事は俺らの仕事だろ」

「けれど、全部任せてしまったしね」

真っ先に螢先輩の元へと歩み寄ったがわら先輩が、何か物欲しげな目でちらちらと螢先輩を見ている。まったく、気が利かないな。とはいえ、当の螢先輩はといえば、顔を赤くして真っ当な受け答えが精一杯だから、一概に責めるわけにもいかないが。

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど」

その様子に、助け舟と冷やかしのどちらもを出そうか迷っていた俺は、突如耳元で響いた声に、

「うわっ!」

飛び上がった。慌てて振り返った先には、俺の耳に口を寄せた格好で俺の驚きに驚いている千鶴の姿。当たり前だが水着で、目のやり場に困る。

「何よ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「悪い、ちょっとぼーっとしてた」

「で、あの二人って両思いなのかしら」

「だろうな。それ以外考えられない。後は、どっちかが一歩踏み込むだけなんだけど、な」

「まあ、その一歩が難しいってことね。じゃあ、私たちが背中を押してあげようじゃない」

「あんまり露骨にやるとばれて怒られるのが鉄板だからな」

「分かってるわ。さりげなくね」

 俺たちのそんな会話など知る由も無く、螢先輩達の会話は続いている。が、がわら先輩の方が少し不機嫌みたいだ。

「何で、がわら先輩不機嫌そうなんだ?」

「たぶん、水着のこと何も言われなかったんじゃないかしら。『似合ってる』の一言でも、嬉しいものよ」

話の流れで、何となく千鶴の水着に目が行く。落ち着いた色のビキニにパレオを巻いたその姿は、やはり目のやり場に困る姿だ。でも、この話の流れで黙っているわけにもいかない。一度唾を飲み込んで、口を開く。

「お前も、似合ってる」

たったそれだけ、二文節、三単語。なのに声が震えて、あれほどまでの決意がいるのは、何故なのか。人の服を褒めるって、そんなに大変なのか? いや、ただ単に俺がヘタレなだけだろう。

「遅いわよ。言われてからなんて」

「悪い、でも、その割には嬉しそうだな」

「言ったでしょ。『その一言でも嬉しい』って」

そう思ってくれるなら、勇気を振り絞った甲斐があったというものだ。

 「もー、海なんだから、泳がないと! ほら、行こうよ!」

そんなことはいざ知らず、騒ぎ出したのは、さっさと波打ち際まで行っていた真澄だ。隣には清水も見える。

「分かっているわよ。ほら、螢、行きましょう」

「ほら、朝陽も安倍さんも、早く来いよ」

「今行きます!」

そう言っておいて、四人の興味が俺たちから逸れた隙に、千鶴を引っ張って荷物の元へ駆け寄る。かなり膨らんだそれには、俺の見間違いで無ければおそらく――――――あった。

「それって……」

「ほら、お前も。奇襲するぞ」

攻撃力の高そうな二つを取り、そのうち一つを千鶴に押し付ける。なにやら分かっていなさそうだった千鶴も、俺の言葉を聞いて理解したらしい。これからやろうとしてることを。

「ええ、分かったわ」

柄にも無く、二人でにやりと笑い合い、地殻に設置された水道から、『それ』のタンクに水を詰め込む。何気ない様子を装って、波打ち際で騒ぐ四人の背後に忍び寄り、俺は螢先輩を、千鶴は真澄を狙って、躊躇無く『それ』――――――水鉄砲の引き金を、引いた。

「うおっ!?」

「きゃあっ!」

二人分の悲鳴が生まれ、背後から奇襲を受けた二人が現状を理解できない、といった顔で固まる。その隙に、俺たちは勢い良く振り向いた二人の首元を狙って、再び引き金を引く。発車された細長い水が勢い良く二人の首元を打ちつけ、衝撃を生む。

「わわっ!」

「うひゃうっ!」

面白いぐらい綺麗に、奇襲成功。思わず頬が緩む。四人はまだ、驚愕が抜けきっていない。隣で同じようにイタズラ成功の興奮を噛み締めているちづるとハイタッチをかわしたところで、ようやく四人は自分たちがはめられたことに気づいた。

「あー! ひどーい! 二人して!」

「びっくりしてしまったわよ。いきなりなんだもの」

「まさか、朝陽に背後から襲われるとは。まったく、上手くやりやがって」

「凄いですね。思いっきり引っかかりました。けど、やられっぱなしは性に合いません」

「よく言った。俺たちも、奇襲部隊にやり返してやらないとな」

「やられたらやり返す、当たり前よね?」

「倍返しだー!」

なにやら、不穏な空気が漂い始めた。ただの悪ふざけが、しっかり自分に返ってこようと

しているような、そんな雰囲気。

「どうするのよ、これ。集中攻撃よ」

「ヤバイな、俺たちは元々暗殺者で、兵士じゃない。奇襲はできても、この人数差で戦闘はきついぞ」

「変なこと言ってないで。せめて一人くらい味方にできないかしら」

「そうだな。……真澄、俺たち幼馴染だよな?」

「そんな見え透いたものに引っかかるわけ無いでしょ!」

先に仕掛けえたのは俺たちの方、俺だってそんなことでつれるとは思っていない。ただ、やってみないことには可も不可も分からない。

 しかし、予想に反して、

「分かってるって! だいじょぶだよ、あさ兄ちゃん! ちづちゃん!」

大分色好い返事が返ってきた。あいつには、復讐の概念が無いのだろうか。

 そんな訳で、三対三の、フェアな状況が出来上がった。

 準備が終わり、それぞれが睨みあう。開戦前の、ピリピリした雰囲気が生まれる。

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