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君と、もう一度。  作者: れんティ
夏休み編
30/126

夏休み:其の二

 「どう組み合わせても、男女部屋ができるだろ」

俺たちの予想に反して、真澄はけろりと言い放った。

「ああ、そんなこと。大丈夫だよ。あたしはあさ兄ちゃんとおんなじ部屋でいいもん。むしろウェルカムだよ!」

「ダメだ。いくら小さい頃から一緒とは言え、そういうことはしっかりしないと」

「何? あさ兄ちゃんはあたしと一緒だと大変? 興奮しちゃうの?」

「しないよ。お前は妹みたいなものだしな。けど、お前、帰ったら絶対親に言うだろ」

「もちろん!」

「じゃあややこしくなるからダメだ」

確か、一度真澄の家に泊まったとき、耳にたこができるほど言われたからな。二度と同じ轍は踏まないと決めたんだ。

「えー! じゃあ言わないから!」

「お前、嘘がつけるのかよ」

「……それは、ちょっと難しいかも……」

「だろ? だから、ここは先輩方二人にお願いしよう」

もう、傍観者四人の中では、なんだかんだ言って俺と真澄で決定らしかった。いきなり飛び火した火の粉にびびって、二人とも腰を抜かしている。写実的に表現するなら、口をパクパクさせて金魚のまねだ。

「あんまり上手くないですね、金魚のモノマネですか?」

「違うわよ! いきなり言い出したからびっくりしたんじゃない!」

「そうですか。でも、先輩方なら大丈夫ですよね? 幼馴染ですし、そういう経験はあるでしょう?」

「それは、確かにある。それなら、安倍さんや柏木さんでもそうだろ?」

言葉に詰まる。見事なブーメランだ。そこまで考えていなかった俺の浅はかさが出たということだろう。そして、引きずり込まれることを半ば予見していたような顔で、千鶴が参戦する。それはもう、心底うんざりした様子で。

「それはまあ、確かにそうですね。けど、私が朝陽の家族事情を知らなかったみたいに、そこまで踏み込んでいたわけでもないですよ。事実、朝陽が家に泊まりに来た一度か二度、同じ布団で寝たことがあるくらいで」

「そういうことです。それを言うなら、螢先輩たちは相当深い付き合いがあると思いますけど?」

が、まあ、そんなことは関係ないのだろう。現在、相手を恋愛対象としてみているか否かが今のポイントだ。そして、その場合俺は特に、ということになる。

「けどまあ、気まずいならそれでいいですよ。俺が真澄と千鶴のどちらかとなればいい話ですから。じゃあ、そういうことで。奥の部屋、使わせてもらいますね」

どちらが俺と一緒かについては、俺が口出しする必要も無いだろう。おそらくじゃんけんでもして決めるはずだ

 荷物を担いで奥の部屋に入る。二人部屋、と言われていた通り、二人には少し広いくらい、三人だと狭いくらいの大きさだ。

 「あら、海が見えるのね」

遅れて入ってきたのは、千鶴だった。どうやら、今度は千鶴が勝ったらしい。

「相方はお前か。色々面倒だとは思うが、よろしくな」

「真澄ちゃんの可能性を潰したのはあなたでしょ。それに、あなたと一緒なら面倒じゃな

いわよ」

「そうか? まあ、男女の違いがあるし、面倒なものは面倒だろ」

そういう意味で言ったのだが、なにやらため息を吐かれてしまった。何かおかしなことを言っただろうか。いや、言っていないはずだ。

「そうね、そうかもしれないわ。それと、荷物を置いたら、水着を持って集合だそうよ。このまま海に行くって言ってたわ」

「了解。荷物はその辺にでも置いてくれ」

 「あさ兄ちゃーん! 早くー!」

扉の外から、真澄の急かすような声が聞こえてくる。わざわざそうするってことは、他の四人はもう準備できたのか。早いな。

 扉から出て、四人と合流する。そのまま、旅館を飛び出し、道路一つ挟んで向こうの砂浜へと駆けだした。

 「じゃあ、着替えるか。男子はこっちな」

手馴れた様子の螢先輩に先導されて、脱衣所に向かう。女子はがわら先輩がつれてどこかへ言った。

「部長、来たことあるんですか?」

「ん? ああ、かなり前に、一回な。亜子の家族に連れられて。あの旅館ができる前だから、柴田さんとは面識がないけど」

なんだろう、小笠原家に関わりの深い海なんだろうか。砂浜のある海は、他にもあるはずだが。特に深い理由は無いのだろうが、そう思わずにはいられない。

「一回来ただけで、覚えてるものなんですね」

「まあ、亜子と旅行したのは、後にも先にもそれくらいだからな」

「以外です。部長たちって、結構そういうことも一緒にだと思ってたんですけど」

「いや、その後辺りから亜子の両親が忙しくなって、家にもあんまりいなくなったからな。時期がなくなったんだよ」

「八神先輩は、そういう旅行とかないんですか?」

「いや、家は親があんなだし。旅行は空想上の産物だと思ってたぐらいだぞ。だから、あの町から出たのが今回初めてだ」

千鶴が行ってきた旅行の話とか聞いたとき、驚きすぎて腰が抜けそうになったこともある。

「へぇ、そうなんですか」

「……ここだな。じゃあ、それぞれ着替えて、この前に集合だ」

「了解です」

「分かりました」

狭苦しい個室で、もそもそと着替える。男子の着替えなんて数分かからない。水着に着替えて海を見ていると、柄にもなく気分が高揚してくる。目の前は海で、夏休み入ってすぐだからか人とは少ない。凪いだ海をぼんやりと眺めていると、生まれて初めて神原町の外に出たと言うことが、実感として湧き上がってきた。あ、個人的な旅行でな。

 「朝陽、手伝え」

「ああ、了解です」

脱衣所に程近いところで、ビニールシートを引き、パラソルを立てる。どうやらここを拠点にするらしかった。そして、持って来たクーラーボックスや、着替えなどを置いている。俺は、二つ目のパラソルを立てる手伝いだ。

 この炎天下。水着だけとは言え少し動けば汗が手垂れてくる。そんな時。

「おっ待たせー!」

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