林間学校:番外
「あさ兄ちゃんたち、今頃何してるかなぁー?」
二人減って、妙に人口密度が低くなった気がする部室。その中でいつもの席に座りながら、あたしは意図せずしてそんなことを呟いていた。それがちょっと未練がましかったのは、気のせいだと思いたい。別に、一緒に行きたかったなんて思ってないし。きっとあさ兄ちゃんはちづちゃんと二人で楽しんでるんだから、そこに割って入ったらあたし嫌な奴みたいじゃん。そんなことしたらあさ兄ちゃんに嫌われちゃうよ。
「二日目の、夕方だから……螢、私たちは去年何をしてたかしら」
「……二日目は、丸一日班でハイキングじゃなかったか?」
「あ、そうだったわね。懐かしいわ」
「班ってことは……やっぱりあさ兄ちゃんとちづちゃん一緒だー!」
「もうしょうがないよ。あの二人が同じ班なのは今更どうこうできるわけもないんだから」
栄介君の正論にぐうの音も出ない。ただ、反論できないからと言って文句が収まるわけでもなく。発散できない鬱憤は胃の辺りに沈殿した。今度あさ兄ちゃんにカラオケでも一緒に行ってもらおう。でも歌うのがあたしだけなんだよなー。ちょっとつまんない。
「――――で、二人とも構成は決まったの?」
無言で栄介君と顔を見合わせる。
「「あ、あはははは……」」
二人同時に乾いた笑いを漏らす。その反応だけで、亜子先輩は進行状況を見抜いたみたいだった。ううむ、鋭いんだね。
「はい、がんばってね」
「美味くいかないなら、とりあえず思いついたキーワードとか全部書き出してみるといいぞ。その中から使えそうなのを取り出してつなげればいい。
「はい! ありがとうございます!」
それから時計の針が半周した頃、あたしは机に突っ伏していた。
「……出尽くしたよ……あたしの頭は捻りすぎてねじ切れちゃったよ……」
「そんなわけないから。ほら、今度はこれをつなげないと」
淡々とあたしの発言を訂正した栄介君が、シャーペンの尻でノートを叩く。そこには、箇条書きで書かれた、あたしたちのアイディアが一ページ分縦に連なっている。ざっと三十個。良くこんなに出したと思う。やっぱりあたしの頭はねじ切れたんじゃないかな。
「へぇー、一杯出したなー。ジャンルはどうするんだ?」
「これからです。ネタを踏まえて、書けそうな物を」
「なるほどな」
後ろから覗き込んでいた螢一郎先輩が、納得したように自分の席に戻って行く。様子を見に来ただけみたい。ご苦労様です。
「じゃあ、どんなのが書きたい?」
「ラブコメがいいなー。けど、栄介君はどんなのがいいの?」
「僕は、何でも。主にやってるのはファンタジーとかSFとかだけど、恋愛物もやったことはあるし」
「じゃあ、ファンタジーでいいよ。けど、短めの方がいいよね」
「そうだね。ファンタジーなら、この『魔物』とか使えるんじゃないか?」
「あ! じゃあ、この『冒険』とか『お化け』とかもじゃん」
頭の半分で栄介君との創作に興じる間、もう半分では別のことを考えていた。
――――あさ兄ちゃんたち、今頃何してるかな




