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君と、もう一度。  作者: れんティ
林間学校編
15/126

林間学校:其の三

 絹を裂いたような女声の悲鳴に次いで、何かが崩れるような騒音と、男声の悲鳴が重なる。一瞬でも身構えてしまった自分の反応に笑みが零れる。どうやら、あいつらが報いを受けたらしい。自業自得と言う奴だ。

 だが、何も知らない千鶴はそうもいかない。今にも缶を放り投げて悲鳴の源へと駆け出して行きそうだ。それを阻止するために、千鶴の左腕を掴んで制止する。

 慌てて振り向いた千鶴は、俺の表情を見て目つきを和らげた。

「どうしたのよ」

「行く必要はないだろうからな」

「どういうことよ。何か知ってるの?」

「ああ、まあな」

千鶴の視線が、「早く言え」とばかりに俺を貫く。口を濁すような話じゃないから、言われずともそのつもりだ。ただ、少しばかりの罪悪感と気まずさは覚えるわけで。

「たぶん、覗きが見つかったんだろ」

俺の言葉に含まれた、女性からすれば嫌悪の対象でしかない単語。それに耳聡く気づいた千鶴は、その視線を疑問から軽蔑に変えた。当然といえば当然だが、関与していないのにそんな視線を向けられるのはいささか不満を禁じえない。

「なるほどね。けど、黙認したのだから同罪じゃないかしら?」

「俺一人では止められなかったんだよ。逆に主犯にされる可能性もあったし」

言い訳がましく言い募る俺に侮蔑を滲ませた顔で答えた千鶴は、不意に頬を緩めて小さく笑った。

「別に、それを責めるつもりはないわよ。それに、ほら、事態の収拾は先生方が図ってくれるもの」

千鶴の視線を辿ると、丁度男女一人ずつ、先生が駆けつけるところだった。少々遅い対応とも言えるが、二人が建物の反対側にいたことを考慮すれば一概にそうとは言えない。ちなみに、他の先生は係生徒と共に肝試しの準備中だ。タイミングが悪い。

 浴室の中で、突入した先生に対する状況説明、あるいは弁明が行われているのが耳に届く。不明瞭でくぐもったそれが男女重なることで、聞き取ることはほぼ不可能に近い。ただ、男が声を荒げているのが聞き取れた。おそらく先生だろう。

 「じゃあ、俺らは部屋に戻るか」

お互いの缶が空になったことを確認してからの、提案。現にそろそろ八組との交代時間で、後三十分ほどは部屋待機になる。

「そうね、そろそろ時間だもの」

「ああ、じゃあまた三十分後、肝試しで、だな」

何気ない会話に潜んだ、禁句。それが千鶴の顔を、一瞬にして凍りつかせた。

「……え、ええ。そうね、肝試しのときに」

ぎこちない態度で占めた千鶴が、踵を返す。数歩歩いてから、戻ってきた。

 首を傾げる俺を余所に、唇の端を引き攣らせた千鶴は階段を上がって行く。どうやら、方向を間違えたらしい。

 千鶴が完全に階段の向こうに姿を消したのを確認して、俺も自室へと足を向けた。

「……あ」

そういえば、良樹は同士ただろうか。何も考えずに戻ってきた配意が、弁護くらいはした方が良かったか。いや、関わった事実は変えられないし、そもそも抜けようとすれば俺のようにできた。自業自得と言うことで、しっかり反省してもらおう。

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