世界の本当の姿
突然自分の管理する土地に知らない建造物が出来ていたら、当然確認するだろう。
俺の目の前で確認するために送り込まれた使者が逃げ出してから数日が経った。
俺が、これは争いになるなと思ったのだが新大陸では勝手が違った。
なんと、再び使者が送り込まれたのだ。
そして、勘違いであったという説明を受けて笑顔で使者は帰っていたのだった。
素晴らしいな、新大陸。
「話し合いで解決してしまった……」
「いや、戦いはこれからだ」
横で、驚きの声を上げているとひょっこり現れたトナンが言った。
何が始まると言うのか、自称守り神はプルプル震えながら説明し始めた。
「こうやって和解したように見せるのは新大陸じゃ当たり前なんだよ。表だって争ってみろ、恨まれるならまだしも誰が感謝する?問題は秘密裏に解決するのが普通なんだ」
「じゃあ、これから攻めて来るって言うのか?」
「恐らくな、悪い噂を流してくるぜ。それこそ、ここにいる奴らがみんな消えればいいなんて思う噂だ。そうやって大義名分を掲げて戦うんだよ。もしくは、暗殺者だ……新大陸の強者の殆どがモンクなのは暗殺しやすいからだ」
衝撃の事実である。
聖気は他者の信仰を元に発生している、つまり他人に信用されたり信頼される必要があるのだ。
だから、強い奴ほど人間が出来た奴であると思っていた。
そして、すぐに信用を無くすような事はしないのが新大陸の人々だと思っていた。
だが、本当の姿は助け合う世界ではなく騙し合う世界であったのだ。
「つまり、強い奴ほどヤバいってことじゃないか」
「アジダバだって無償で食料を提供してくれてる良い奴だよ。突如現れた、アンタの所のモンスター達の被害を受けた者達にな。まぁ、他の者達を救うためとか言って寄付を求めてたが……本当にそれが誰かを助けてるかは分からないがな」
「なんつうか、嫌な世界だな」
でもってトナンからの豆知識から分かったのだが、神様ってのは聖気の塊みたいな物だから大半が生み出した親を嫌うそうだ。
神様を作れるだけの信仰を集める奴は、誰かに信仰される分だけバレないように悪事を働いているのが直感で分かるからだそうだ。
「悪人が分かるとか神様ってスゲーな」
「だろ!そうなんだよ、俺ってばスゴイだろ!まぁ、内容までは分かんないけどな」
「何だ、所詮トナンかよ」
「人の名前を悪口みたいに言うなよ!神様なんだからな!」
随分と庶民派な神様である。
それから、俺達の手を加えた村に行商人や旅人など外から人が来たりして緩やかに時間は進んでいく。
来るたびに売り物が手に入る事から商人達は徐々に増えて行き、数か月経った今ではそれなりに有名な村となっていた。
「フッ、ハッ、トリャ!」
「違う、もっとこう踏込みと同時に搦めてだな……何て言うか力じゃないんだよ」
「力付くでしか出来ないのよ、仕方ないでしょ」
ある日の午後、村の外れに建てられたルージュの屋敷でトナンが稽古を付けていた。
勿論、相手はルージュである。
木造の家だらけな村で一つだけ石造りの巨大な城がポツンとあるので目立って仕方ない。
そして、当然のようにある中庭でジャージ姿のルージュとトーガを着たトナンが向かい合って近接格闘の訓練をしていたのだ。
因みにジャージは血で出来ていて、いつものドレスが変化した物である。
赤いジャージに金髪のポニテール、女子高生の体操着のような恰好のルージュが軽くトナンに投げられる。
それは重心を崩したり利用する技であるとトナンが言っていた。
それを教え始めて、かれこれ半日が過ぎた頃だった。
「ダメだ、才能ないよアンタ」
「何でよ!もっとちゃんと教えなさいよ、トナンの癖に生意気よ!」
「お前ら人の名前を悪口みたいに言うんじゃねぇよ!」
トナンが無理と判断した。
結果、喧嘩になったのだがちょっと待て、何故俺を見るんだ。
首を傾げていると、トナンは頭を掻き毟りながら深いため息を吐いてルージュに説明した。
「いいか、陛下のは全部力技何だよ。まるで筋力だけ強い素人みたいだ、身体の動かし方を分かってない。見た目以上の力は聖気を使えば分かるが、ここまで技術もないのに聖気を集められたっていうんだから不思議だ。もう、凄腕の聖職者が記憶を無くしましたって言われたら信じるレベルだ」
「いや、だから今は聖気纏ってないわよ。あっ、魔力で強化もしてないから素だからね」
「はいはい、その細腕じゃ物理的に無理でしょうが……」
トナンの言っている事は、じつは正しい。
いや、だって力が強い素人って指摘は正しいからな。
鍛えて強くなったわけで無くて、吸血鬼になったから強いだもん。
しかし、これは必要な事なのだ。
新大陸は俺達の所のように様々な職業があり、社会が形成されている。
そこで地位としては聖職者が貴族や王の役割をしているのだから、何かしらで彼らと争うのは必然だ。
対抗する手段が必要なのだ。
俺達の軍隊は牽制にはなるが決定打になる事は無い。
それこそ、飛んでるだけのトナンならまだしも聖気を纏って戦うモンクが魔力の弾にやられる事は無い。
聖気には聖気にて対抗しないといけないのだ。
「こう、簡単な技とか教えなさいよ!アンタそれでも神なんでしょ!」
「うぐぅ……じゃあ、聖気を一点に集中させて部分的に強化するとか集めて投げるとかあるけど」
「なんかダサい、私もアチョアチョ言いたい!」
「アチョアチョって……」
無理難題だとトナンは喚いた。
だが、ルージュの言っている事は分からなくもない。
俺も前世では気を集めて手から発射できないか練習したもんだ。
結局、そんな物は漫画の世界だけと絶望した物である。
そう、多分そういうのがやりたいお年頃なのだ。
拳法を見て、自分もやってみたいとか思ってるんだ。
一子相伝の暗殺拳とか使いたいのかもしれない、俺も練習した物である。
温かく見守っていこう。
「えっ、時間差で爆発?無理だよ、体の中に聖気流したら瞬間的に爆発するんだから」
「それじゃ、決め台詞が言えないじゃない!使えない神様ね!バーカバーカ、脛齧りの自称神!」
「決め台詞なんか言ってる暇なんて戦ってる時ないだろ、バーカ!」
何て低レベルの喧嘩なのだ。
その後、夜になるまで投げたり投げられたりの取っ組み合いの喧嘩が行われた。
一応、聖気を纏えば互角に戦えるのだから腐ってもトナンは神様なんだよな……
こうして俺達の生活は過ぎて行く。
戦いたいのに信仰を集めたいから自分から攻めれずルージュの不満が溜まった度に特訓に付き合わされるトナンがボロボロになってきた頃合い。
新大陸に来て一年ほど経過した頃だった。
「最近は寒くなって来たわね」
「もう冬だからな、そう考えるともう一年経つのか」
「あっという間だったわね」
体中を不自然な方向に曲げられて、拘束されたルージュと間接技を掛けるトナンが懐かしむように言った。
あれから、トナンはルージュに適した技を会得した。
それは関節技からの人体破壊である。
「だから、寒いって言ってんのよ!人の顔を地面に押し付けてんじゃないわよ、この脛齧りが!」
「俺は、お前が謝るまで、関節技をやめない!」
「関節技って言うか、全身の骨折れてんだよボケナスが!」
泥だらけの顔で、半泣きでルージュは訴えた。
昔は魔法を使う際に指先を切るのすら躊躇ったのに、骨折程度なんて慣れてしまうのだからルージュの痛み耐性とかスゴイと思う。
もう、腕を折られても無表情だからお前どこのスパイだよって言いたいくらいだ。
「おーい、飯の時間じゃないか?」
「チッ、もうそんな時間か」
「大丈夫かルージュ?」
スタスタ先に中庭から屋敷に入っていくトナンを睨みつけながら、俺の目の前で液体化してから復活を果たしたルージュがいた。
最近、上下関係が逆転してきたと思うんだが……本人が何だかんだ今の環境が好きみたいだから、別にどうでもいいかなと思う今日この頃である。
「今日はオークの肉が入ったぞ。最近、魔物を食べるの風習が増えてきたから手に入ったらしい」
「あぁ、オークはアンタの好物だったわね。食う物に困って魔物を食べるなんて、余所は切羽詰まってるわね」
「あと、出入りしてる商人から聞いたんだが巷じゃ吸血鬼が暴れて村を壊滅させたって噂が出回ってるらしい」
吸血鬼、それは魔王の配下でもあり新大陸でも脅威となっている存在だ。
まぁ、殆どパンチ一発で爆発しているらしいのだが村程度となると別だ。
村レベルでは太刀打ちできるような奴はいないに等しいからである。
「一応、手打ちとして資源を寄付してやってるけど裏じゃコソコソしてるからね……」
「アジダバの奴、部下を使って噂を流そうとしてたからな」
「不味いわね、何かやらかされそうだわ」
今まで、自分達が不利になるような噂を流した奴は俺の分身を使って始末していた。
魔王に対抗する為、信仰が欲しい俺達の邪魔をコソコソ裏からする奴の工作活動は未然に防いでいたのである。
しかし、吸血鬼の噂は厄介だ。
魔法の説明が面倒だったから何でもかんでも、吸血鬼だからって村人にルージュが言ってたからだ。
ルージュに対する悪評でなく、吸血鬼の悪評。
これは利用されるだろうな、村人は吸血鬼だって知ってるし外に情報が洩れていてもおかしくない。
そして数日後、俺達の予想は見事に当たった。
「た、大変だー!」
「どうしたのトナン、朝から騒がしいわよ?」
「宣戦布告だ!アジダバの奴が大義名分を掲げて攻めに来るぞ!」
我が守護する土地にて侵略する悪鬼を討つ。
その宣言より、周囲の村から集めた義勇兵とアジダバの教徒が攻めて来る。
総勢、五千の軍隊とルージュが衝突する機会が迫っていた。
「まぁ、紅茶でも飲んでリラックスしなさい」
「何で落ち着いてるんだよ!」




