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やる気のない皇帝と侵略者

帝国歴五十八年、新大陸から先遣隊と思わしき者達がやって来た。

戦闘の意志を確認した帝国は新大陸からやって来た者達を侵略者と断定、上陸される前に殲滅する事を決定した。




俺達の眼下に帝国軍部の姿があった。

今ではほとんど戦争を体験したことのない素人ばかりの軍隊だ。

推測では三日ほどで奴らがやってくるとされており、帝国はその間に迎え撃つ準備を始める。

後方支援として陸軍からは戦車隊という二百ほどの魔導戦車からなる中隊が派遣された。

遊撃として空軍からは鎧のような物を纏った翼を持つ種族からなる強襲部隊が派遣された。

そして、メインとなる海軍からは小型から大型まで様々な艦隊が所狭しと海上に派遣された、その数五百ほどである。


「壮観だな……でも、無駄なのよね」

「これで全部じゃないよな?軍備縮小とかしてるらしいけど……」

「例えたくさんいても、奇跡の前に魔法は効かないわ。法則が違うんだから、偉い人はそれが分からないのよ」


俺達は、ちょうど港町の上空にいた。

魔法で用意した黒で統一されたテーブルとソファーは、空中に固定されている。

そして、ソファーには優雅に紅茶を飲むルージュがいた。

赤いゴスロリ服を纏った女王。

それは金の髪と病的に白い肌を持ち、人形のような顔立ちで美しくも恐怖を呼び起こす整い過ぎた顔立ちの我が主人だ。

ルージュは顔を歪めながら愚かだと眼下の軍隊を見て言った。


その横ではルージュの作った眷族の執事が紅茶を淹れている。

名前は知らないし、たくさんいる奴等の一体で元は死刑囚だ。

当然、肉体を弄れるのでイケメンの執事である。

俺達は見えない床でもあるかのように空中を普通に歩いて、これから始まる戦いを観戦しようとしていた。


「遅いわね、っていうか熱い。誰か、誰か来なさい」

「ハッ、御前に」

「風魔法で涼しくして、後BGMも欲しいからオーケストラも来なさい。ついでに誰かマッサージして」


ルージュが呼びかけると、影からメイド服を纏った吸血鬼が現れる。

他にも眷族である者達が影から現れ、空中に集結した。

彼らはルージュによる魂の操作により、完全な状態として作られた太陽を克服した吸血鬼達である。

俺は彼らをデイウォーカーと克服できていない者と区別して呼んでいる。


そんな彼らはあっという間に各自の仕事を始めた。

ソファーの周囲にはメイドが集まりルージュをマッサージし、その背後では総勢百二十を超えるオーケストラが何か適当な曲を演奏している。

何故か空中にルージュの快適空間が出来上がっていた。


「何て言うか、暇ね……」

「いつの間にかスゴイ数だな」

「死に掛けたら、みんな吸血鬼化してたから。あっ、でも太陽を克服させるのは手間が掛かるからほんの数千ほどよ」

「世界が終わる。ラスボス級が数千とか、勝てる気がしない」


しかも、そんな恐ろしい集団が年々増加していくのだから困ったものである。


「いいのよ帝国は私の物、そこに所属した全ては私の物なんだから。でも、アレはダメね。私から独立するなんて生意気だもの。そのままやられてしまえばいいのよ」

「なんてジャイアニズム」

「ルージュ教徒はみんな吸血鬼化したから、私を拝めるなら助けてやってもいいとは思うけどね」


そう言って、拗ねたように文句を言った。まぁ、それも仕方ないのだ。

独立を謳って、帝国議員どもが帝国を奪ったと思っているからだ。

まぁ、本人は自分がいれば国なんて勝手に出来るから自分を崇める奴らだけ助けようという考えらしい。

ほっとけというならほっといてやるのだ。


さてそんな理由もあるが、何故ルージュ教徒を眷族にしているのか。

実は新大陸が関係している。エルジアや新大陸の技術。

奇跡、神聖魔法、聖術、色々な呼び名はあれど信仰を糧に使う技術。

それをルージュは習得しようと自分を信仰する教徒を増やしているのだ。

それが魔王を倒す切り札になるからである。


実は世界の法則が魔法と異なる為か、ある特徴があったのだ。

魔法で作った物を破壊するのに必要な魔力を一とした場合、奇跡では数倍の力がいる。

逆に、奇跡で作った物を破壊するのに必要な奇跡を一とした場合、魔法では数倍の力がいる。


互いに相性が悪く、効率で言うならば魔法には魔法を奇跡には奇跡を使わないと無駄なのだ。

つまり、魔法しか使えない魔王への大きなアドバンテージになる。

その為、ルージュは習得しようとしている。

だが、信仰を集め神聖なオーラのような物を感じる事が出来たのだがルージュはそれを奇跡にすることが出来なかった。魔力があるのに魔法が使えないような感じである。

何かが足りない、そう感じていた矢先に新大陸の人間だ。

エルジアは引き籠って調べられなかったけど、アイツらは調べられるからルージュ的には嬉しいだろう。


「まぁ、だから今回の帝国軍じゃボロ負けだろうな」

「エルジアに週一でメテオぶつけてるのに防がれてるのよ。魔法じゃ奇跡に対抗できないわよ」

「最悪、ごり押し……はルージュ以外じゃ魔力が足りないから無理か」


可愛そうに、万に一つの可能性すらないのだ。

勝てるとしたら奇跡が使える奴らだろうが、新大陸の天使たちの方が扱いに長けているだろうから難しいだろうな。

勝利するとしたら船から出て来た奴らを物理で挑んで、奇跡が使えなくなるまで過剰攻撃するしかないだろうな。


「あら、始まるみたいよ?」


白い箱舟、敵である奴等の正面に陸軍の部隊が集結した。

海上では両側面を艦隊が囲み、後退しか出来ないように軍は囲んだ。

空中では空軍の部隊が敵が出てこないかと待ち構えている。


その全てが無駄なのだから不憫だな、そう俺が地上を見ていると陸軍に動きがあった。

戦車達が港から射程距離に入った白い箱舟に向かって砲台を向け出したのだ。

砲台は敵に標準を合わせると、発射準備に入る。

魔法陣が砲台正面に現れ、それは回転しながら外側から前方に向けて動き出す。

砲台から敵に向けて円錐形になった魔法陣、それは発射の声と共に解放された。


「おぉ、撃ちやがった!」


俺が驚きの声を上げると同時に、魔法陣から特大のビームが放たれた。

何処かの魔砲少女の必殺技のような攻撃である。

それに続くように、射線上と垂直に並列していた海軍から炎や雷などの魔法が放たれる。

空中からは爆発魔法の込められた筒が、投下されていく。

敵の白い箱舟が、一斉に攻撃に飲まれたのだ。


「何か、微妙だな」

「おい、一斉攻撃の浪漫が分からんのか!」

「いや、どうせやったか?とか言って無傷なパターンだと思うわよ」


そう言ったルージュの視線には、攻撃による余波で蒸発した水蒸気に包まれる奴等の姿があった。

そして、その水蒸気が晴れて無傷で浮上した状態で現れた奴等の白い箱舟。

それを見て、やっぱりと言った感じで鼻で笑った。


「うわぁ……」

「慌ててバラバラに攻撃しだしたわ。上からだとよく見えるわね、本当滑稽だわ」

「やっぱり、不憫だな……」


ゆっくりと陸に近付く箱舟と、必死に攻撃する軍隊。

戦いにすらならない光景だった。


「さて、敵の戦力はどんなかしらね?」


今度は敵の番だった。

陸に近付いた箱舟は、お返しとばかりに攻撃を開始した。

それは奇跡による攻撃、箱舟の長方形がまるでハリネズミのように刺々しくなったのだ。

そして、その尖った部分は一斉に軍隊に向けて飛ばされた。


「アレは、よく見る光の槍か?」


戦車を貫き、戦艦を大破させ、空中にいる者達を墜落させる。

白い箱舟から断続的に光の槍が投降されていた。


「どうやら全滅ね、半分は死んだみたいだし」

「戦力を見る為だけに見殺しにされて可哀想な奴らだ」

「そろそろ助けてあげるか……」


もう満足したのか、それとも絶望してる所で助けて信仰を集める為か。

ようやくルージュは重い腰を上げて、地上に向かって飛び降りた。




空を天使達が飛び交い、逃げ惑う帝国の残党兵を空中から光の槍を投げて殲滅している。

そんな戦場の遥か上空から、何かが降ってきた。


「おい、何だアレ?」


そう呟いたのは沢山いるうちの一体の天使だ。

その声に周囲の天使達は空を見上げる。

落ちて来る物、それは新手の攻撃か。

否、それは人型の化け物だ。


「何だアレは!女だ、空から女が落ちてきた!」


認識すると同時に、それは地上にクレーターを作りながら着地した。

赤いゴスロリ服に金の髪、白い肌に細い肢体。

それは帝国の人間が誰もが知っている人物だ。


「ルージュ様……ルージュ様だ!」

「陛下が、陛下が来た!」

「皇帝陛下が助けに来たぞ!」


一人、また一人と帝国兵が歓喜する。

それは彼らが待ち望んだ最強の存在の登場だった。




ルージュは地上に降り立って、何やら煩いと感じた。

何か自分の名前が呼ばれたよう気がしたので、助けに来たとでも思っているのだろう。

まぁ、結果的には自分の望んだ結果になりそうだなと思いながら敵を見た。

敵は、此方を警戒する天使の群れだ。

これが新大陸の奴らか、と眺めていると不意に光の槍が自分に突き刺さった。


「何をしている、攻撃だ!」


その声に従い、周囲の天使が一斉に光の槍を投降した。

それは、一点に向けて飛び交いそして目的を貫く。


「ハッ、なんだと思えばただの雑魚ではないか」


その声は攻撃を指示した天使の物だ。

それに同調する様に周囲から笑い声が漏れる。

彼らは完全に油断していたのだ、これで終わったとそう思ったのだ。


「最悪、一回死んじゃった……」

「えっ?」


声がした。

綺麗な透き通るような、残念そうな声がした。

その発信源、それは光の槍が墓標のように突き刺さった場所だ。

そこから、赤黒い液体のような物が光の槍から滴っていた。


「何かが、何かが集まっているぞ!?何が起きているんだ、今の声は何だ!」


声は液体から聞こえた。

液体、そう思っていたそれは血だ。

血が槍と槍の間から零れだし、一つになっていくのだ。

天使に指示をしていた男の前で、それは正体を現した。


「な、何故生きている!貴様は死んだはずだ!」

「見れば分かるでしょ、復活したのよ」


そうそれは、呆れた感じで再生したルージュだった。

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