取り敢えず征服してみよう
目が覚めた、気付けば時間は夜になっていた。
視線を周囲に動かすと、すぐにルージュは見つかった。
どうやら焚火をしていたらしく、体育座りで寝ている。
いったい、どうしたのだろうか。
俺は直前までの記憶を思い出す。
一度思い出そうとすれば、後はすぐに思い出せる。
俺はナオキと戦っていて、何だか急にアイツに苛立ちを覚えた。
其処からは、まぁ記憶が曖昧だが自分が何をしたか何となくだが覚えている。
「暴走って奴か……」
何回か経験している為、その言葉がしっくりくると思った。
ドラゴンとしての本能に流されてしまう感じである。
酒に酔ったら気が大きくなったり、自分でも抑えが利かなくなるそんな状態だ。
「んぅ……」
俺の呟きに反応してか、ルージュが膝の間から顔を上げて俺を見た。
おはようと言えば、コクリと軽く頷いて返事をする。
寝起きで頭が回っていないのだろう、どうやら目元が腫れてるので泣き疲れて寝ていたみたいだ。
「どういう状況なんだ?」
「ヤンヤンが墜落して……夜になるまで起きなかった」
「魔王はどうしたんだよ」
「知らない」
軽く欠伸をしながら、ルージュはそう答えて再び膝の間に顔を埋める。
おい、ちょっと待て二度寝をするんじゃない。
俺が慌てて起こそうとするが、鬱陶しそうにするだけで相手にしてくれない。
もしかしたら、魔力切れによる疲労感でもあるのかもしれない。
俺としてはこれからどうするか話したかったのだが、結局翌朝になってからという事になった。
朝、俺達は太陽の眩しさに目を覚ます。
それから俺達はどうするか話し合った。
魔王が現在どのような状況か分からず敵対勢力は弱体化している。
だったら、占領すればいいとルージュは早速帝国へと応援を要請した。
そして、俺達は帝国軍が到着するまでに暇なので制圧するためにテラへと出発するのだった。
目と鼻の先にあるテラまで、飛行すれば難なく進むことが出来た。
巨人対策の巨大な壁が目の前に見えると何だか懐かしく感じる。
まぁ、それは飛んでいるから何の意味もないのだけどな。
「敵だ、敵が来たぞ!?」
「敵襲、敵襲ー!」
声が聞こえた。
大方どこかの見張りの物だろう。
魔法が壁から放たれてきたが、ルージュの魔法障壁の前に何の意味もなさない。
「何だか、虚しいわね」
「取るに足らん相手だからな」
何だか不完全燃焼な感じで、俺達は王都の中に空から入る。
依然と攻撃はされているのだが、ルージュを包む魔法障壁によって無効化されている。
ルージュの半径数メートル圏内だけ、ぽっかりと空間が開いているのだ。
「何としても止めるんだ!」
「行くぞぉぉぉ!」
重装備の兵隊達が、俺達の前方から隊列を組んで突撃してくる。
しかし、それは魔法障壁のせいでルージュの前で制止する。
「な、何だこれは!押せ、押し切るんだ!」
「ウオォォォォ!」
兵士達が声を張り上げて、阻もうとした。
しかし、ルージュが軽く一歩踏み出すと押し返される。
ルージュはつまらなさそうに、ただ歩くだけ。
何度も阻もうと突撃する兵士は押し返されるだけ。
不毛な行為が行われていた。
「はぁ……」
つまらない、相手にならないと言った表情でルージュは歩く。
テラに来たのには何か目的があったわけではない。
寧ろ目的がなくなってしまったから、何をすればいいのか分からなくなったから来たのだ。
何となく、テラに来れば変わるかもしれないと思ったのだ。
その結果、国の為に戦う兵士達に絡まれたのだが生物としての格が違い過ぎて相手にならなかった。
過去の自分が羨む程の高度な魔法も、今では片手間で出来る。
屈強な戦士も、指先一つで圧倒できる。
ナオキを倒した後では求めた強さも虚しいだけだった。
「つまらないわね、誰も障壁を破れないなんて……」
「取り敢えず、エルフの至宝でも回収しよう。あと、王様でも殺すか」
これからどうするか、勝てないと思うが魔王にでも挑むか。
多分、保身に走ってそんな無謀な事はしないだろうけど暇になったな。
ルージュの気持ちを察するなら、カンストしたキャラクターでゲームを遊んでいるような感じだろう。
チートでカンストしたらつまらなくなった、そんな感じだ。
今はチートを使った事を後悔する様に、吸血鬼になった事を後悔しているかもしれない。
いつしか兵士達は戦う事を止めていた。
それどころか、武器を投げ捨て頭を垂れて降伏したのだ。
それを視界に入れずにルージュは歩いて王城へと向かって行く。
何度も色々な兵士達が攻めて来た。
騎馬兵から魔法使い、使い魔を編成した部隊。
どれもが等しく、無力な存在だった。
そして、最終的には最初の兵士達のように降伏するのだ。
王城に入ってくると、命乞いをして戦おうとする者が減った。
誰もが太っており身なりの良い者達だ。
一目で貴族と分かる者達が、命乞いをしているのである。
当然ルージュは無視して通り過ぎる。
そして、他の扉よりも豪華で兵士達が集まって警護している部屋が見えた。
恐らくここが最後の部屋だろう。
「来たぞぉぉぉ!」
一番身なりの良い騎士が抜刀してルージュに剣を向けた。
次の瞬間、様々な魔法がルージュを襲う。
だが、それも魔法障壁で無効化される。
「魔法をやめろ」
ルージュが一言、ただ睨みを利かせれば誰もが攻撃をやめた。
それどころか、恍惚とした表情で腰が砕ける者すら出た。
魅了の瞳でも使ったのだろう。
「何て言うか、張り合いが無いわね」
「弱すぎる……戦っていた奴らが強すぎたのかもしれない」
恐らく、城の中は貴族の者しかいないのだろう。
戦う覇気のある兵士が一人もいない、ただの案山子である。
よくもまぁ、これだけのトーシロを集めた物である。
扉を開けると、内側から扉を押していたのか泣きながら逃げ出す者達がいた。
見れば、扉の内側には色々の家具が所狭しと置かれている。
内側から物や人で開かないようにしていたのだろう。
そして、俺達の視線は中央に向けられた。
部屋の隅に逃げ惑う貴族たちと違って、優雅に紅茶を飲みながら豪華な椅子に座って見下ろす長い金髪の女。
正確には女に見えるほどの美しい男、テラ・マルクス・16世だ。
「よく来たね、お嬢さん」
「始めましてね、テラ国王」
相手はただ微笑み、ルージュは無表情で言葉を返す。
俺としては、逃げ出さないし命乞いしないだけマシな王様に思える。
えげつない手口ばかりする食えない奴だがな。
「まさか、魔王と手を組まれると思わなかったよ」
「そう」
「せっかく娘を殺したのに無駄になってしまった、勿体無いと思わないかい?」
「今からお前を殺す、何か言い残す事は?」
奴は屈託なく娘の死を笑っていた。
訂正しようどうやら、マシな王様ではなかったようだ。
まともな神経をしていないようだ。
「一応無駄だと思うが、命乞いをしてもいいかな?」
「ダメだ、お前は殺す」
「そうか、それは残ね――」
ルージュが指を弾いた。
デコピンの要領で、人差し指を弾いたのだ。
その瞬間、テラ国王、マルクス16世の首から上が消滅した。
内側から爆発して、周囲に脳髄を撒き散らしたのだ。
「竜殺しって言っても脆いのね……」
怯える貴族達が悲鳴をあげた。
そんな中でルージュの声が消え入るように聞こえた。
それから、しばらくは勝手気ままにルージュは居座った。
王都では自棄になった者達が暴れたり、自殺する者も現れた。
当然城の中はもぬけの空であり、外の事など知らないと言った感じだ。
帝国軍を待つ間、ふと学園に行く事を思いついた。
結果、征服後に最初に行ったのは国王が持っていた本を持って王都から出る事だった。
後は勝手に帝国の者達が制圧するだろうから、旧友に会いに行く事にしたのだ。
そう、学園にいる本の精霊だ。
王都から空を飛んで、学園都市に向かう。
流石、学園都市。凄腕の魔法使い達がいるせいか、ルージュの魔法障壁が壊された。
ほぉ、と感嘆の声を上げて壊されるたびに障壁を重ねたら最大で七枚も障壁を壊す魔法使いがいた。
まぁ、流石に八枚も障壁を展開されたら壊せる奴はいなくなったけどな。
学園都市の巨大な門、それをルージュは素手で押し開いた。
自身の何千倍の質量なのに、普通に開けたのだ。
これには中にいた人間達は降伏するしかなかった。
格の違いを見せつけられたのである。
中にはあり得ない物を見たと言った顔の者達すらいた。
そう言う奴はエルジアの奇跡を放った奴らだ。
弱点を克服した吸血鬼だと分かる知識のある者達は、何名か気が振れたのか自爆魔法で特攻してきた。
その度に面倒そうに、自爆する奴を障壁で包んで爆発の威力を最小限に抑えるルージュが大変そうだった。
学園の図書館には貴族の子供達、ルージュの後輩に当たる者達が籠城していた。
まぁ、ルージュが開けるように言ったら怯えてすぐに従ったので情けない者達である。
そして、俺達は目的の人物に邂逅する。
貴族の子供達が逃げ出した大図書館。
そこで、ルージュは適当な椅子に座った。
そして、祈るように魔力を放ちながら呼びかける。
「お久しぶりです精霊様、再び姿を見せてくれませんか」
「おぉ、お前達だったのか……」
床からゴーストのように現れた、長いフードを被った隠者のような爺。
俺に魔法を教えた、本の精霊である。
「久しぶりだな、爺」
「誰だお前?」
「俺だよ!ヤンヤンだよ!」
「おぉ、姿が変わっていて分からんかったわ!」
俺達の様子に、しばらく無表情だったルージュが久しぶりに笑った。
懐かしい旧友の前である、笑顔になるのも仕方ない。
「お久しぶりです、精霊様」
「あぁ、君が学園を去ってから十年だか二十年ぐらいか。時間の感覚が曖昧だが、君の今までの行動は見ていたよ」
「そうですか、流石は本の精霊ですね」
「君の目的も、私の存在理由も読むことで知った。私は本来、君の持つ本に宿っていたのだろう。まぁ、何が起きるか分からないのだから少し話そうではないか」
そう言って爺はフードの下でニヤッと笑った。
悪役のような笑顔である、言ったら怒られた。
俺達はそれから、何日か互いの話をしたのだった。




