大魔法と強大な敵
ルージュに捕まって俺はぶらーんとしていた。
媚を売る為に子猫になったのだが、メイドとイチャイチャしてたのが気に喰わないようだった。
意外と独占欲強いよね、お前。
「はぁ、遅い」
「何だその言い草は、デートの時の彼女ですかお前は?」
「子猫なのに、オッサンみたいに喋るな」
「許してニャン」
俺はそのままベッドにフルスイングで投げられた。
畜生、子猫らしい言葉使いの何が気に喰わんのだ。
許してニャンだぞ……あっ、イラッと来る。
「ハァ……」
「悪かったよ。色々あったんだよ、こっちは」
「知ってるわよ、こっちも色々あったわ」
俺の横に飛び込んで、ルージュはベッドの上で俯せになった。
何かとゴロゴロと怠けるのは良くないと思う。
ルージュは俺の身体を持ち上げてジッと見つめる。
「小っちゃい、質量とかどうなってるのかしら?」
「そこ、気になるのそこかよ!」
いや、まぁそこは俺も分からないしファンタジーな補正なんだと思う。
魔法があるんだから、そういう不思議な事があっても可笑しくないだろ。
そんな感じで持ち上げられているとふと、俺は気になった事があった。
「おい、お前結構のんびりしてるけど戦争はどうしたんだよ?」
「アレはソレイユと魔王様に任せたのよ」
「ソレイユと魔王様に任せたって……魔王様?」
おい、魔王ってお前アレか?
死に行く者こそ美しいとか言っちゃうアレか?
お前、それラスボスなんじゃないか。何で知り合いみたいに言ってるんだよ。
「何難しい顔してるのよ……あー、そう言えば言って無かったけ?」
「軽いな、結構すごい事口走ってるぞ!」
「魔王様って子供だからね、人間の腸よりケーキが好きなんだって」
「スイーツ好きかよ!俺の魔王のイメージがカリスマブレイクしてるんだけど!」
それからルージュは何があったのか事細かに説明してくれた。
どうやらソレイユは魔王と一緒にテラに攻めているらしい。
一番驚いたのは、太陽を克服したという報告だった。
「つまり、究極生命体になったと……」
「うん?良く分からないけど久しぶりに太陽の光を浴びたわ」
「お前に勝てる奴いないだろう」
それこそ、宇宙に飛ばされない限り弱点がないじゃないか。
俺の言葉に苦笑いでルージュは答える。
「流石に無理でしょ、魔王様の魔法とかスゴイからね。これなんかその片鱗だけどさ」
そう言って、ルージュは掌を向けた。
これから少しだけ教わり、まだ中途半端にしか出来ない魔王の魔法とやらを見してくれるらしい。
掌は天井に向けられていた。
その天井と掌の間、そこに小さな石が発生した。
石同士は互いにぶつかり合って、少しずつ大きくなっていく。
それは掌の上で石の塊を形成していく。
「今はこんなだけど、時間があれば星が出来るんだって。信じられる?一瞬で、月を落とせるんですって」
「うわー、それは倒せないわ」
「肉体が完全に消滅したら復活できないしね」
他にも時間を止めたり、空間ごと壊したり出来るらしい。
何だそれは、もうチートじゃないですか。
「もうすぐ戦争は終わるわ。帝国の兵が撤退してから、少数精鋭で挑むことになってるから」
「何に挑むんだよ」
「勇者と守護者よ」
それは、ナオキ達へと挑むと言う事だった。
一度負けた相手へと再挑戦する。
俺達に出来るのかそれは分からない。だが、戦いの日は近い。
全軍の撤退が完了したのは一ヶ月後だった。
この世界では異例の速さである。問題は撤退する俺達を追撃してくる奴らのせいで、被害が出て不満が爆発しそうである。
テラ大王国を見渡す事が出来る丘の上。
そこは一晩で造られた小さな山だ。
地形すら自由自在とは流石魔王である、目の前のチンチクリンな幼女でも魔王はスゴイのだ。
俺の目の前には銀髪のツインテールに金の瞳、フハハと尊大に笑う白いワンピースを着た子供がいた。
信じられるか、これでもコイツは魔王なんだぜ。
「お前が使い魔か、オッサンに憑依されるとは子猫なのに可哀想にな?」
「お前は何を言ってるんだ?」
「おぉ、喋るのか。猫又やケットシーみたいで気に入ったぞ」
ちょっと頭が緩そうな幼女が俺を撫でまくる。
やめろ、下手くそが!痛いじゃないか。
「魔王様、そろそろ」
「うむ、ソレイユの囮も無駄になるからな」
ソレイユが横に来て一言いうと、魔王は俺から手をどけてテラ大王国を見た。
その眼下、遥か後方には突如できた山に攻撃する人間の部隊と応戦するアンデット軍団がいた。
もう見つかってしまったようだった。
「見よ、日が昇る様を。今から起きる我が威光を遍く全ての者が目に焼き付ける事だろう」
魔王は、そのプニプニの手を空に掲げた。
すると、そこから幾何学的な魔法陣が発生、射出される。
撃ちだされた魔法陣は先に打ち出された物から順に巨大化していった。
世界が、黒い魔法陣で覆われるのではないかと言う程に大きな魔法陣だ。
それは、空を覆う。まるで天蓋のように上空で展開される。
魔法に疎い者でさえ、恐ろしい程の所業だと理解できた。
「三割程か……さぁ、防いで見ろ勇者よ!メテオシャワー!」
詠唱は破棄され、ただ呪文名だけが宣言された。
それは大幅に威力を落とすのだが、それでもその脅威は威力を落としていようが関係ない程の脅威だった。
魔法陣が光り輝いた。
紫電を発生させながら、ドーム状の赤い岩が現れる。
それはゆっくりと大きくなりある所から全体像が見えてきた。
魔法陣の少し離れた所に、巨大な星が生まれたのだ。
表面はマグマに覆われた燃える星。
それは一つではない、数えるほど億劫となる程の数だ。
まさに、魔王に相応しい絶望である。
「さぁ、星達よ!発射せよ!」
その声に呼応するように、星はゆっくりと確かに動き出した。
地上に向けて赤い尾を描きながら到来する星々、勝てる訳がない大魔法である。
「今回は見た目重視だ、スゴイであろう」
「…………」
魔王の問いに、俺達は口を開けてポカーンとするしか出来なかった。
チンチクリンが崇められる理由が分かった。
格だ、格が違うのである。
世界が、空が燃えていた。
赤く染まり、絶望が塊となって落ちていた。
そして、遂にそれは地上へと着弾する。
着弾した瞬間、激しい光と共に爆発が起きた。
膨れ上がる球体は周囲を吹き飛ばしながらクレーターを作る。
テラの傘下にある属国、小国一つが消滅した。
しかし、それは雨のように降り続ける。
一撃で粉砕せず、執拗なまでに何度も地上へと降り注ぐ。
まさにオーバーキル、審判の日と言われるならば信じても疑わない。
しかし、テラ王国だけは尚も残っていた。
周囲がデコボコの、それこそ荒廃した荒野へと成り果てようともそこだけ切り取られたかのように以前と変わらぬ姿をしていた。
それは異常な光景ではあったが、魔王は当然と言った風にふむと軽く言葉を漏らすだけだった。
魔王は確信する様にテラを見ながら、俺達に指示を出す。
「どうやら、勇者はあの国のようだ。魔法を防がれてしまったからな」
「何なのこれ……」
「どうも余は細かい作業が苦手でな。すまんが、小国は跡形もなく消えたのでやれんな」
悪い悪い、と軽い口調で魔王は謝ってくる。
数秒前に、何万と言う人間を一瞬で殺したにも関わらず何でもないようにだ。
事実、何でもないのだ。所詮は勝手に増える虫だとしか思っていないからだ。
価値観が違い過ぎる、これが生物なんだから疑わしい。
「さて、敵はあそこのようだ。何を呆けているのだ、臨戦態勢を取らんか」
魔王が空に向かって俺達から視線を移した。
視線の先、空中であるそこには一体のドラゴンがいた。
テラを覆う程の大きさの竜である。
俺達にはドラゴンが乗っているようにしか見えないが、あの上に人が二人乗っているらしい。
そして、魔王はドラゴンを見据えて言った。
「どうやら奴等、ジャイアントドラゴンを残していたようだ。アレだけの個体は数百年じゃ育たぬぞ」
「そんな、ドラゴンは全滅したんじゃ」
「いや、多分地下に眠っていたんじゃないか?隔離されていたなら、ドラゴンイーターの奴も使えんからな」
巨大なドラゴン、その名の通り大きなドラゴンだ。
黒光りする鱗に覆われて、その腕は翼と一体化している。
翼を持った蛇、少し前の俺のような身体である。
だが、大きさは遠くに関わらず首を動かさないと全体像を見る事すらできない。
山がそのまま動いているようだった。
しかし、俺は恐怖よりも先にイラつきを抱いた。
何だ、その傲慢な態度は……図体がデカいだけの癖に偉そうな奴だ。
自分でも分からないが、何だか無性に奴を叩きのめしたくなった。
そう、まるで何時かの熊のモンスターの時のように、何だか倒したいと思うのだ。
闘争本能とかいう奴かもしれなかった。
今なら脳筋と馬鹿にしていた奴らの気持ちが分かる、あんな敵がいたら戦いたいよな。
「ヤンヤン?」
「なぁ、一つ聞くが別にアレを倒してしまっても構わないんだろ?」
「えっ?」
俺の様子に気付いたルージュが声を掛ける。
ルージュが声を掛けている瞬間、俺の身体は風船のように膨れ上がっていた。
肉体の改造である。
最も硬いドラゴンの皮膚は黒く、固まった溶岩のようにデコボコとした物だった。
鉱石を食べて、肉体を鉱石で覆うドラゴンの物だ。
最も鋭いドラゴンの尻尾は、一本の剣だった。
その尻尾その物が一流の武器として扱われる、尻尾を武器とするドラゴンの物だ。
最も素早いドラゴンの羽は骨以外が透ける程の半透明の翼だった。
見た目に反して嵐を巻き起こすほど力強い翼、魔法を纏ったドラゴンの物だ。
最も力強い腕は、胴体と同じ大きさでありながら二倍近く長い腕だった。
先になる程太くなっていくハンマーのような腕、掴むことを放棄し殴る為だけに指が存在しない進化をしたグローブのような腕を持つドラゴンの物だ。
俺の肉体が変わっていた。
火山岩のような肉体、背中には骨だけの翼、尻尾には鋭い長剣。
腕は大きく、ハンマーのような拳。
もはや、戦う以外頭の中には無かった。




