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変わりゆく状況

そこは海のような場所だった。光の射さない深海のような場所だ。


「ここは……」


気付いたらそんな所にいた俺は混乱する。

俺はいったい、確か……


「そうだ、雷に当たって……その後が分からないな」


うーんと唸りながら悩んでいると、いつしか深海の様なその場所で光を見た。

赤や青など様々な色の、雑多な光だ。

星のように煌めくそれは、ただ一つとて同じ物はない。


「スゲーな、海にでも落ちたのかな?」


其処で俺はふと気付く、何故呼吸が出来るんだろうか。

触ると俺の首にはエラは存在しない。

あるのは柔らかくて暖かい皮膚だけだ。

……いや、待て何で鱗が無いんだよ!?


「おい、つうか手があるって!あれ、俺の身体じゃない?いや、いやいやこれ!」


顔を触る、そして足を見る。そこにあるのは脛毛の生えたオッサンの足だ。

腕もあるし、ちょっとメタボな体があった。中年のだらしないボディーだ。

そこには俺の前世の身体が、人間の身体があった。


「どういうことだよ、俺の身体!?」


意味が分からない、そんな状況に俺は慌てる。海の中で人間の身体になっていたのだ。

……もしかして、俺が今まで見ていた現実は酸素不足が原因の幻覚だろうか?

いや、呼吸できてるじゃねぇか!じゃあ、ドラゴンから人間になった?いや、それも可笑しいか。

あれか、何かの幻覚空間的に閉じ込められてるとか。そう言う能力を使うドラゴンがいても不思議じゃない。はたまた、雷で死に掛けて幻覚を見ているとか。これが一番有力か。


「で、本当いろいろ考えて落ち着いてきたけど、どういうことだー!」


当然返事は帰って来ず、俺は暇になったので泳いでみる。

意外と泳げており、光ってる物に触れたりしてみる。

光るクラゲみたいな塊はそのまま俺の手を通過した。

まるで、立体映像に触れたみたいな感じだ。


「触れないのか?やっぱり幻覚空間とか」


記憶にはないが、もしかしたら雷に当たった後に他のドラゴンに攻撃されたのかもしれない。

精神を幻覚の世界に引き込むとかだったら、人間の状態である理由になるからな。

憑依してるんだったら精神は人間だと思うしな。

つまり、パワーアップとかするための精神世界的な奴にいる筈だ。

あぁ、じゃあここは俺の精神世界なんだろうか?

なんか髭面のオッサンとか白い俺とか出て来るんじゃないんだろうな?


「なーんてな……誰もツッコミ入れてくれねーよ!誰かいないのかよ!」


本当に誰もいないんだろうか、もう暇過ぎて仕方ないんだけど。

早く迎え来いよ、パワーアップ的な感じなんだろ?それとも閉じ込められてるのか、じゃあヒロイン連れてこいよキスして現実に戻るから!


『相変わらず、変な奴だな』

「お、おぉ!電波来た、怪しい電波だ。誰かいるのか!」

『騒がしい奴だ』

「お前は何を言ってるんだ。あー神様か!もしかして、神様か!」


謎の天の声が聞こえた。

間違いない、俺がどういう状況か知っている奴だ。

そこで俺はピンと来た、もしかしてこういう状況で話し掛けるってことは神様なんじゃないかと。

しかし、騒いでも返事は帰ってこない。騒いだり泳いだり、意味が分からない事をしても返事はない。


「おい、まさか幻聴だったのか?」


良く分からないけど、先の見えない真っ暗な空間の中で人の声が聞こえたので元気が出た。

正直な話、謎の光は小さすぎて全然照らせてないし、変に騒いだのも暗闇に恐怖を抱いたからだ。

目を開けても開けなくても同じような暗さ、いかにドラゴンだった時の視界がすごかったかが分かる。

少しだが気が狂ってしまいそうだった。


どのくらい過ぎただろうか。

海は終わりが見えなかった。

相変わらず景色は暗く、所々に漂う光のみ。

静寂だけの世界、これが俺の精神とやらなら随分と寂しい世界だ。

徐々にだが恐怖が募る。俺は一生このままなのか?


「おい、聞こえてんだろ!出てこいよ!」

『孤独に耐えきれなかったのか?』

「お前は誰だよ!もう一人の俺的な奴なのか?パズル解いてないけど、そうなのか?」

『当たらずも遠からずと言った所か』


謎の声は、愉快であると姿を見せずに笑う。

今は唯一の情報源であるソレに、俺は質問するしかない。

何か喋っていないと自分が自分じゃなくなる気がしてくるのだ。


「ここはどこだ」

『ここは胃袋だ』

「胃袋だって?じゃあ、あの光るのや俺は餌かよ?」

『あぁ、餌だ』

「えっ?」


冗談交じりに笑いながら俺がそういうと、ソレは肯定しやがった。

おいおい嘘だろ、と思わず慌てる。

だが、何故俺は慌てたのだろうか?

いや、慌てる事は当たり前だろう何かが可笑しい。


『俺からも質問する、お前は何だ?』

「俺か?知ってるんだろ、さっきもう一人の俺とか言ってたじゃないか」

『ヤンヤンと言う名前ではない貴様はなんだ?』

「そりゃ……何だ?」


俺と言う存在は、自分の前世という奴はどんな名前だったのか。

まったく思い出せなかった。

そんな筈はないのだ、さっきまで覚えていた気はするのだ。

声は加えて問うて来る。


『ヤンヤンとなってから何を覚えている?』

「何を覚えているだと。俺は……」


俺は生まれてからアイツと出会った、えっと……そうメアリだ。

それから学園に行って、俺はナオキを召喚したんだっけか?多分。


『出会った使い魔達は、本の精霊は、勇者を召喚した女は覚えているか?』

「それは……」


言われてふと思い出す、そう俺は学園で他にも色々な者に会った。

何故、本の精霊やペトロを忘れていたのだろう。

記憶が曖昧になってる?


『貴様は主と地方に帰り、何をした』

「子供達を……いやその前にアイツの婚約者が……クソ、思い出せない」


孤児の名前は何だ、騎士や村人、それにアイツの婚約者の名前は何だ。

思い出せない。


『眷族達や自分の仲間はどうだ?』

「分からない」

『ダンジョンのパーティーには誰がいた?』

「分からない」


聞かれる質問に、俺は答える事が出来ない。

覚えている筈なんだ、うっすらとだが顔は思い出せる。

ただ、名前が出てこないだけなのだ。


『お前はここに来るまで何をしていた?』

「それはドラゴンと……ドラゴンと何をしていたんだ?」

『お前はドラゴンだったか?』

「俺がドラゴン?何を言っている」


待て、そもそもここはどこだ。

いや、さっき聞いたはずだ。やはり記憶が曖昧、いや失われている?

だが、俺は何を忘れた?そもそも最初からここにいたんじゃなかったか?

何も忘れていないはずだ。いや、何かが可笑しい。


「お前は、誰なんだ……」

『最後の質問だ、主人の名前は何だ?』

「俺の主は……ルージュだ」


金髪の女の子、赤い瞳、白い肌、鋭い犬歯、皇帝。

アイツはルージュだ。


『チッ、主人の名前は何だ?』

「だから、ル……ルージュだ!」


ヤバい、何がヤバいか分からないが名前が出てこなかった。

いや待て、誰だよルージュって!でも、忘れちゃダメなんだ。

忘れる?忘れるって何だ、いや待て何か可笑しい。

いや、何がしたいんだ俺は……俺ってなんだ?

可笑しいぞ、この状況は可笑しい……よな?


『まぁいいだろう』

「ルージュは存在するはずだ。妄想なんかじゃい、そう存在するんだ」

『消えかけの記憶に縋るのか』


何かの音が聞こえた、しかし理解は出来ない。

さっきまで理解できていた言葉が分からない。

ただ、ルージュという言葉だけが胸に引っかかった。

ルージュだ、俺にはそれしか残ってない事だけは分かった。

ルージュって何だっけ?何かの名称だったはずだ。

これだけは、何となく忘れてはいけない気がした。




帝国が戦争に突入してから一月が経った。

現在は降伏しないことに苛立ちを覚えた小国が攻めてきているだけで、テラ大王国は動かない。

言うなれば唆された自国民だった者達の内乱だ。


軍部の人間が使う会議室にて、ルージュは報告を聞きながら指揮を執る。

大まかな方針を決めて、後は現場に任せる。現場の事は現場の者が一番理解しているからだ。

報告では、ほぼ全ての殲滅が完了した。

小国の奴らは帝国の兵器を持っているからと調子に乗っていたが、そんな物は吸血鬼を何名か送るだけであっという間に始末できた。

問題はやはり、聖職者達だ。


今の所、光を束ねた槍、奇跡を込めた物を四方に設置する結界、浄化魔法が判明している。

光を束ねた槍はアンデットだけでなく獣人を貫き殺したという報告から物理的な攻撃であるようだ。

結界と言う奴は、定期的に整備している事から長く使うには補給が必要な方法らしくアンデット以外には壁があると感じたようだった。

強度も強く、兵糧攻めする以外方法はない。まぁ、結界の内側から攻撃は出来ないようだったので空間を隔てるような物だろう。

そして、浄化魔法は汚れや病気、毒などの状態異常を治す効果がある。

地下水に毒を混ぜたり、遠距離からの呪いなど、すぐに治せることが分かっている。

知ってはいたが、やはり対応するのは骨が折れる作業だった。


「エルジアの方の斥候部隊から連絡はあった?」

「ハッ、まるで何もないとの事です」


ライオンの顔をした獣人が、報告書を叩き付けるルージュに頭を下げながら報告した。

彼は密偵から連絡が無い為に、帝国から調べに行く斥候部隊の責任者である。


「無い訳ないでしょ!あんだけのドラゴンがどこに消えるのよ!テラのドラゴン全てがいない現状、ヤンヤンが何とかした筈なのは明白、もっと探しなさい!」

「しかし、このままではエルジアに近付きすぎます」


チッ、と不機嫌そうにルージュは舌打ちする。

エルジアと言う場所のせいで命令なら何でも聞くアンデットは使えず、かと言って異種族ではやはりある程度の反抗がある。

誰だって死ぬと分かって危険に首を突っ込みたくないのだ。


「やはり、エルジアが動かないのはおかしい。もしかしたらテラの嘘かも知れないが、だとしてもエルジアの密偵から連絡が来ないのはおかしい。何かがやはりあったのよ、これは危険だとしてもやらなければならないわ」

「分かりました、志願兵を集めてみます」

「死ぬかもしれない任務だから、危険手当は出すわ」

「……ありがとうございます」


渋々、と言った形で下がるライオンの獣人に使い勝手の悪さを感じながらルージュはソレイユを見た。


「どんな感じ?」

「精霊通信で連絡があった、どうやら直接会いたいそうだ」

「距離的に無理でしょ、間にはテラがあるのよ」

「アチラには転移と言う技術があるそうだ。此方の技術提供次第では、アチラも魔法を提供する準備があるらしい」

「そう、アチラの魔法技術は素晴らしいからいい話し合いが出来そうだわ」


ルージュはそう言って、再び報告書に視線を戻した。

宣戦布告から一月、ようやく本当のテラ大王国との全面戦争が始まろうとしていた。

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