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乗っ取りと裏切り

それはドラゴンであり、雷でもあった。

肉体を雷に変える、サンダードラゴンという奴だ。

俺はその存在を図鑑で知り、漫画とかでよくいるなと漠然とした印象を抱いた記憶を持っていた。

それが、目の前にいる。


エネルギーの塊であるサンダードラゴンに出会った場合の対処法も図鑑には書いてあった。

曰く、光の如き速さ故に諦めるべし。

今なら言える、奴に出会った今なら作者に向けてもっと頑張れよ、諦めんなよ!

そう言ったエールを送れる。


「クソが!」


俺は魔法を発動させて背後に礫を放った。

電気には地面タイプ、魔力は空中で石となり、固まった大きく鋭利な岩は奴目掛けて飛んで行く。

しかし、奴はその場にはいない。


「遅いな、遅すぎるぜ、俺には当たらないぜ兄ちゃんよ」


俺の隣にいつの間にか現れケタケタ笑う姿はなんと腹立たしい事か。

やはり、雷と言う速度には付いていけない。

ならば、と俺は全体攻撃としてガス状の毒のブレスを吐きだす。


奴は煙幕の様な紫のガスに包まれて姿を消す。

ガスに飲み込まれまれたのだ。

流石に生物であるのだから雷になろうとも影響はあるはずだ。

少なくともドラゴンフェロモンの効果は受けているようだからな。


「無駄無駄、俺は魔力でエネルギー体に変わってるんだぜ。今ならアンタがドラゴンイーターと同じ何かを発していたのが分かる。いいか、俺にはそれは効いてない」

「なん……だと!?」

「つまり、俺は……元からオスの逞しい身体が好きなんだ」


へ、変態だァー!?

俺は思わず、身を震わせた。

コイツはただのドラゴンじゃない、ノンケでも構わず喰っちまう本物のドラゴンだ。

そこら辺の魅了されて狂ってるドラゴンとは違う、最も恐ろしい物の片鱗を味わった瞬間だった。


奴は目を離してもいないのに一瞬で移動していた、例えるならばコマ送りの映像を見ているようである。

俺が消えたと感じた瞬間、既に奴は行動を終えていた。

身体に巻きつく奴の身体、それは雷である。


「ッ!?グァァァァァ!」

「フフフ、良い声で鳴く。俺は気絶できない程度に苦しめるのが好きでね、痛いけど我慢できなくはないだろ?」

「あ、悪趣味な野郎だ!ぐっ!」


前身に針を突き刺された気がするほどの痛み、まるで熱したフライパンに触れてしまったような熱さ。

俺自身は反射的にその脅威から逃げ出そうとしている、だが奴が絡みついているためにそれは出来ない。

俺は自分でも分からないうちに色々と試す、抗うために生きるために努力する。

しかし、その悶え苦しむ様は奴にとっては楽しみの一つでしかないのだろう。

石化は効かず、魔法も効かず、念力も毒も効かず朦朧とする意識の中で残っていたのは斥力と引力だけだった。

そして、俺が斥力を使った瞬間。


「この力、まさか!?」


初めて奴の驚愕する声が聞こえた。

その刹那、俺は身体が軽くなったのを感じた。

落ちて行く身体、それは無意識に修復されていく。

上手い事煮え切った頭が元に戻って、意識がクリアになっていく。

そして、俺は奴への対抗手段に気付いた。


「テメェ、ブラックドラゴンを喰っていたな!出来そこないのキメラ風情が!」

「そうか、そうだったな。奴は最強、つまり奴の力はドラゴンに対しても最強と言う事か」

「調子に乗るなよ!能力の差が戦闘力の差ではないんだからな!」


怒れる奴の攻撃は苛烈、速度を生かして分身のように残像を残す。

いや、エネルギーの片割れである残像は実体のある残像という奴だろう。

分身で無く、分裂という訳だ。


「魔力が尽きるまで攻撃してやるさ、お前のそれは常に使える訳じゃないからな!」


輝きを増すサンダードラゴン、恐らくは電力が上がったと見て間違いないだろう。

そして、俺の斥力も使い続けると威力が落ちていき魔力を消耗していく。

奴の魔力が切れるか、俺の魔力が切れるかの勝負だ。




空中戦が繰り広げられていた。

仲間諸共、引き裂く雷光。

それを退ける、不可視の波動。

黒い渦の先端で、発光しながらぶつかるそれは巨大な生物の目玉のようでもあった。

それはゆっくりとエルジア聖教国連邦へと向かって行く。


そんな俺に焦った声でルージュから声が届いた。

念話による声だ。


『ヤンヤン、ヤンヤン!』

『何だ、今はそれどころじゃ……クソ、すばっしこい!』

『今すぐ戻って、テラが攻めて来た!』


それは俺に少なくない衝撃を与えた。

その瞬間、数秒だが斥力が切れてしまう。


「しまった!?」

「貰ったァァァァァ!」


ジグザグに曲がりながら、奴が俺の胸目掛けて飛び込んでくる。

それは射殺す矢でも貫き通す槍のようでもあった。


「抱きしめて、俺と言う存在をなァァァ!」

「だが断――」


雷が、俺の心臓を貫いた。




ルージュは声が途切れたことに違和感を感じた。

同時に不安が生まれる。


「ヤンヤン!」


皇室の中で思わず叫び、立ち上がった。

床にはガタンと椅子が倒れ、いかに慌てているのかが分かるだろう。


現在、ルージュ帝国はテラ大王国から宣戦布告されて戦争の準備に国民が大慌てであった。

しかも、その宣戦布告はある事実を孕んだ物だった。


数時間前、実験的運用がされるようになったテレビという最新の魔道具により遠距離の映像を映せるようになったルージュ帝国。

それの初披露は、国家の重鎮や国民が固唾を飲んで見守っていた。


高い、天にも届くかと思われる建造物。

その名もビル、という最新鋭の技術が投入されて作られたそれには巨大なテレビという魔道具が入っている。

巨大な塔に映像を映し出されるというのだから、噂は広がり首都に国民は集まっていた。


飛行できる者達が幕で隠されたビルに近付き、ルージュがこのテレビの小型版を普及できる準備があることを発表して、いよいよという時だ。

隠されていたテレビが露わになった瞬間、想定外の事態に皆が慌てた。


本来、式典を開いている皇帝や重鎮。

そして、ビルの前にいる彼ら国民が移されるはずだった。

だが、そこに写されていたのは本を持った聖人のような高貴な偉丈夫。


「あ、アレは!?」

「どういうことだ、どうなっている!」

「責任者は何をしているんだ!」


混乱が広がり、国民たちもざわざわとする。

何故なら、写っている人物こそ教科書に載るほどの人物。


「テラ国王……なの?」


ルージュは震えるように声を出した。

奴の似顔絵は教科書にも載せている、テラ大王国の立役者。

長い金髪の女のような顔立ち、しかしその体は細身に関わらずドラゴンに匹敵する。

竜殺しの王、テラ・マルクス・16世の姿があったのだ。


『諸君、他国の諸君。この映像は一方通行であるので私の方から勝手に話を進めるが聞いて欲しい』


悠々と、語り掛けるような言葉を全ての者が聞き逃さんと耳を傾ける。


『我々、テラ大王国は王女殺害の報復としてルージュ帝国、初代帝王ルージュ・カオスに宣戦布告する!』

「な、何ですって!?」

『また、我らがドラゴンの強奪。それを利用してのエルジア聖教国連邦襲撃との戦争を誘発するような悪行、見逃すと言うのは義に反する事だ。だから我々はエルジア聖教国連邦と一時的な同盟の元に諸君たちへ宣戦布告をする』


ハメられた、ルージュはそう確信した。

考えれば分かる様な嘘、王女の殺害など出来るはずがない。

しかし、国民の前でそれを言われたら誰か一人が信じるだろう。

それは広がり、国家の不信へと繋がる。


自分たちの技術に介入する時点で、同じかそれ以上の技術力を持っていることまで頭が良い者なら気付く。

この式典の日程も、技術も、全てが奴の知っているという事実。

もしや、内通者がいたというのか。


「今すぐ放送を消しなさい!何してるの!」

「は、はい!」


慌てて動く部下、しかし映像は甘い毒となって帝国を蝕む一言を発した。


『なお、早期に降伏した帝国に囚われし小国は我々が保護しよう。誰一人とて傷付けぬ保証をしよう。ルージュ・カオスの身柄を引き渡せば、我々は戦争をやめる事を辞さない所存だ。英断を――』


途中で真っ黒な画面へと変わる映像、しかしそれは遅かった。

その一言は瞬く間に広がり、国民に動揺が走る。

誰かが言った、皇帝を引き渡せ。

誰かが言った、この不敬な者を捕まえろ。


それは小さな火種だった。

動揺した国民と言うオイルに引火する不安という種火。


「やられた、クソ……」


その出来事は印象が強すぎて、瞬く間に広がっていく。

首都で内乱が発生した。




皇室の一角で、ルージュは数時前の出来事を思い出していた。

内乱は扇動しているであろう者と煽られた国民の死で、沈静した。

しかし、それは反帝国感情を抱かせる愚策だった。


そして、同じくして念話をしていた相棒であり使い魔の存在。

無事だが念話が出来ないような状態であったならいいが、何かあったのは間違いなかった。

何かをされた、そう考えるのが妥当か。


不安に煽られるルージュ、その皇室の扉を勢いよくぶつけるように伝令の者が開け放つ。


「皇帝陛下!陛下!」

「何事ですか!」


余りに礼の欠けた態度に怒りを露わにしながら、ルージュはドアの方を向いた。

そこには、倒れるように床に這いつくばる伝令兵の姿があった。

顔からは尋常でない汗が出ており、火急の用であることが分かる。


「辺境伯並びに諸侯の者、数名が寝返りました!」

「何ですって!」


それは、予想外の内容だった。

速すぎる裏切り、戦争が始まろうと胎動した瞬間だった。

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