何かをしてくれる、それが先生と呼ばれる職業だ
冬も近付き里帰りしてから半年が経った。この半年で領地は多かれ少なかれ変化している。
例えば、お抱えの騎士団を減らして代わりに孤児を拾って英才教育を施したり、原理も分からないのに領地改革を行って負債を抱えたり、何だかんだで楽しく過ごしている。
メアリは少し背が伸びて、不健康な顔立ちになった。ルイスがやらかしたことに対するフォローで日に日に痩せて目に隈を作っているのだ。最近、休みが……なんて呟いて虚空を見つめている。色々ヤバいかもしれない。
ルイスは領主という仕事をすべてメアリに丸投げしてぶっ飛んだ行動をするようになった。
結果、各方面の貴族に喧嘩売ってしまいメアリの負担を増やしている。金食い虫のニート野郎だ。
そして、俺の領地での役割は治安維持と教師の二つになっていた。どうしてこうなったのかと言えば、大幅な人員削減による戦力の低下と孤児達に魔法を教えられるのが暇な俺だけだったというのが理由だ。
「平和だねぇ……」
寿命まで楽しむことを目標にしている俺は、平凡でつまらない日常を噛み締めていた。
野生からかけ離れているドラゴンですが、何かとでも言いたげな生活だ。
ドレッド領の農村、そこには今は古く使われなくなった牛舎がある。
そこに俺は眠っていた。
巨大な翼には羽毛などなく蝙蝠のようであり、その体はそこらの馬車と同程度で五メートルはあるだろうか。
長い尻尾は規則的に揺れ、その表面は青銅か鉄かそれとも宝石かお世辞には綺麗と言えないステンドグラスのような鱗で覆われていた。
もうメアリに抱っこ出来ない大きさになってしまった俺は屋敷から追い出されてマイホームを手に入れたのだ。
「ヤンヤーン!」
「平和だなぁ……」
「おい、無視しないでくれ!大変なんだよ、また事業に失敗したんだ助けてヤンヤーン!」
何処かで俺を呼ぶ声がした、煩わしいと思いつつ目を開ければ前足の傍にちっこいニートがいた。
泥だらけになったルイスである。
「何だ人間の勇者よ、王の器を求めるか?」
「何意味わかんない事言ってんだよ!それより紙だよ、羊皮紙に変わる紙を作りたいんだ!噂通りに作ったのにうまくいかないんだ!」
「愚かな、自らの使命を忘れたか……」
「ねぇ、いつまで続けるの?ねぇ、おいってば」
「煩いな、俺は不思議なポッケなんて持ってないんだよ。面倒だから来んなよ、俺は子供たちに慄かれるキャラ作りで忙しいんだよ」
「それって中二病って奴だろう、知ってる!知ってるよ、それ!」
俺は足元で喚くルイスを見ながら昔を思い出す。
あぁ、昔はダンディだったロリコンルイスはもういないのか。
……いやそれっていい事じゃね?つか、もうオッサン自重しろよ。
「聞いてるのか、ヤンヤン!早くしてくれ、結果を出さないと隣の貴族が――」
「はいはい、またジャイアンに虐められたのか。しょうがないなぁ、ルイスは……」
「流石、先生だ!」
俺は紙の作り方について思い出す。一時期ネット小説を読み更けていたから覚えているのだが、それにしてもナオキは色々な事に対して知識を持っているなと思わざるを得ない。普通、そんなの覚えてないってのに。
「紙と言えば、繊維の多い植物をアルカリで煮て叩くんだよ」
「植物から作るの!?噂と違うよ!」
「アルカリだからな、灰でも入れんのかな。乾かせば出来るはずだ」
「出来なかったらどうしよ……」
「知るか、どっちかと言えばコンクリとか橋とかが専門なんだ。俺に紙作りなんか聞くんじゃねぇよ」
大方、紙を作るって公言しちまったんだろう。そのまま実行できなくて、その分メアリが苦労するんだろうな。パピルスの作り方なら分かるから、パピルスを作らせようか?
これから起きる被害を抑えるために、午前中はパピルスの作り方と実証実験で潰れることになった。
午後くらいになると、煩いルイスを放置して俺は農村の奥へと進んでいく。
農村の奥、村のはずれには俺の知識によって作られた掘立小屋があった。
簡単に言えば木材を薄い鉄で補強した、日用大工で作れそうなプレハブ小屋だ。
「えい、やぁ!」
「ファイアー?ファイヤー?どっちだ?」
「ふははは、喰らえサンダーボルト!うわーやられたー!勇者は勝利した!」
プレハブ小屋の前では総勢十名の孤児が遊んでいた。
一人は木の枝でチャンバラをしており、一人は黙々と呪文の復習に勤しみ、一人は魔王と勇者の一人二役をやっていた。
自由である、そして最後の子は何て不憫なんだ。
「あ、先生だ!?」
俺が近づくと、そんな子供達の一人が気付いて近づいてきた。
何を隠そう、俺はコイツら餓鬼共に魔法を教えている教師なのだ。
「ほら集まれ、タダ飯ぐらいの餓鬼ども。明日の飯が欲しけりゃ、魔法を覚えろ」
「おい、早くしろ!授業始まったぞ!」
俺の言葉に大慌てで餓鬼どもが集まってくる。彼らは自分達がどういう境遇か分かっているのである。
働きもせずに飯が貰える。その対価として俺達が求める物を教えた結果、彼らは否応なく理解したのだ。
自分たちが私兵として鍛えられていると。
青空教室と呼ばれる戦時中に屋外で行った授業形態で俺は色々と教えている。
魔法は多岐に渡り、歴史や文字を語り聞かせたり、地面に書かせて覚えさせる。
そして、火が何で燃えるのか?このような単純な事を理解するだけで威力が上がる様なので現代知識も教えている。
「今日は魔法を倒れるまでブッパしろ。魔法使いなんか開幕ブッパしてたら勝てんだからな」
「先生、余力を残すのが兵士だってアンドレのオッチャンが言ってた」
「それは戦場だからな。魔法は使えば筋肉みたいに限界値が伸びるんだ。お前たちは魔法をバンバン使えるように鍛えるから普通の訓練じゃ足らないんだよ、やれ」
そう言って、サボろうとした生徒の一人を睨みつける。
アンドレと言うのはもう一人の先生で、主に騎士道とか体術、剣術を教えている。
男の子受けが良く、俺とは反りが合わない奴だ。
俺は生きるか死ぬかの世界に美学なんて求めないタイプなんだがアンドレは正に騎士。
だから意見の食い違いが発生しているのだ。
「ハァハァ……オォォォ!」
「オラァ!あれ?ドヤァ!あれ、でねぇ……」
大量の汗を掻きながら、絞り出すように声を上げて餓鬼どもは魔法を放つ。
最初は魔法が使えるようになって調子に乗った奴らがいたが、半殺しにしてから言う事を聞くようになった。
正直コイツらの立場なら逃げ出したくなるような訓練ばかりだが、他人事なので厳しくしている。
「出しながら聞け、魔法の使い方だ。魔法はイメージだから、自分に合った魔法も作れる。俺が実際に基本しか見せてないのは自分たちのイメージで魔法を作って貰いたいからだ」
「「「はい、先生!」」」
「実際に様々な応用がある。例えば火力が足りない火魔法も、範囲を広げれば全身火傷させる事が出来る。魔法使いは消し炭にするほど威力を上げたがるが、効率よく殺す事だけ考えれば火力もそこまでいらない」
他にも顔を水で覆う、突風で視界を塞ぐ、地面を鋭利な棘に変える、そういう方法もある。
だが、この他の発想を出来るように俺はメアリとかが習ったカリキュラムと別の物を教えているのだ。
そんな風に生徒たちを教えていると、農村の方から村人が走ってきた。
「先生、先生ー!出番ですよ、先生!今度はトロールが現れただよー!」
「何だと、今日の授業は終わりだ!明日までにオリジナル魔法を考えとけよ、宿題な!」
俺は慌てる村人を口で掴んで、農村の方に向かった。
もう一つの仕事である治安維持、村の外から侵入するモンスターの駆除だ。
こうしていつも通り日常が終わっていく、この時はまだそう思っていた。
「ここが噂の領地か?むっ、アレはドラゴン?」
ドレッド領のどこかで、怪しい黒ローブの人物が呟いた。
「ふむ……面白くなりそうだ」
「だ、誰だおめぇ!?」
「ハッ!?こんな所に村人だと……逃げなくてわ!」
その日、村に変な旅人が現れたとか現れなかったとか……




