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負けたくない、ドラゴンの本能

俺が食事を終えるのには時間は掛かった。その長い間、放置されていたメアリはいつの間にか起きていた。彼女は視線が定まっていないのかフラフラしており、時折ブツブツと言葉を発しては泣きだしたりしていた。

麻薬と言う物は酒や煙草よりも中毒性は低く、服用後に気分が沈んだりする物があるらしい。恐らくそれの症状ではないだろうかと俺は思っている。とはいえ、前世の小説の記憶なので事情は異なるのだがな。


「帰ったら、爺に聞くか。まぁ、ヤバいのじゃないといいけど」


しかし、このままと言うのも頂けない。ずっとこの場にいたら衛兵が来るそうだからだ。

一応、虫達を食べたことによりそれなりの毒は手に入った。撃退も難しくないだろう。

しかし、この都市はほとんどが魔法使いだ。数で責められたら勝てる気がしない。


「おい、大丈夫か?」

「うるさい!来るな!」


恐いよ、大きな声出さないでくれます?困ったことにまだ薬が抜けてないのか行動が直情的というか、幼い子供を扱ってる気分だ。

杖を振り回しながら、適当に魔法を乱射しており軽く危険だ。まぁ、使える魔法は弱いために脅威ではないんだが。音のせいで、魔物が寄ってくるわと迷惑である。もしこれで注意するよう言われた熊が出たら目も当てられない。


だが、悪い事ばかりでもない。魔物、つまりモンスターと言う餌が豊富なこの場所は俺の成長への効果が高い。

生きているモンスターを食べたり、死にたてを食べてるからなのか、肉体の成長が実感として圧倒的に早いのだ。


俺が食べた物は現在、芋虫、飛蝗、蝙蝠、キノコなどだ。

特に飛蝗と蝙蝠を重点的に狙っている。前世の特撮で知ったのだが飛蝗の脚力は人間サイズにすればビルをも飛び越える程に強力だ。

また鳥類に匹敵するほどの完全な飛行能力を有するのは哺乳類全体でもコウモリだけであり、何としても飛べるようになりたい。


人間、やはり一度は飛んでみたいと思わないだろうか?それ以前に俺はドラゴンである。

ドラゴンと言えば、空を飛んで炎を吐くイメージだ。飛べないドラゴンなんて蜥蜴なのだ。

また、野菜としてキノコも食べている。種類によって味覚も変化するのか多種多様でおいしい。

辛い物や口が痺れる物、恐らく猛毒や麻痺毒なのだろう。この森は毒キノコが多いようだ。

これらは冒険者達も加工して使ってることが採取依頼からして分かる。

つまり、俺は冒険者の使う毒を混ぜて作った解毒不能の劇薬を体から分泌できるようになったのだ。


何か背中が痒いと思ったら小さな羽が生えて来ている事や、足がさっきより固くて強靭そうになっていたりと、目に見える変化もやる気が出てくる要因かもしれない。こんな気持ち初めて、今なら何でもできるよ。ハハハ、もう何も怖くない。


「グラァァァァァ!」

「な、なんだ!?」


獣の声が響いた。それもそう遠くない場所でだ。今まで気づいていなかったが微かに甘い香りがする。

そして思い出す、甘い香りに気を付けろと言われたこと。

……まさか、熊のモンスターか!?


熊、それは可哀想などと言われて駆除されている動物。しかし、奴らはとても凶暴でライオンの首を一撃で叩き折る打撃力をもっている。さらに熊は100メートルを6秒で駆け抜ける、危険な猛獣だ。

それがファンタジーの補正により強くなっていることを考えるとまずい事になってしまった。

まだ、出会っていないのに背中に嫌な汗が流れる。


「畜生、ついてないな」


このような状態で俺が選べるのは二つ、それは生き延びるために逃げるかリスクを負いながら戦うか。

昔の人は良く言った物だ、生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。


まずは魔法を使ってメアリを拘束する。気乗りしないが戦闘になったら一か所にいて貰いたい。その方が守りやすいだろう。

イメージと基本の詠唱、というか完全自己暗示だと思われる呪文を唱えた。その瞬間、泥の手がメアリを包んでいく。メアリは抵抗するが数秒足らずで顔以外を泥で埋もれさせた。


「っと、クラクラするな。MPでも切れたか?」


まだ感覚的には何かを捻りだせそうであるが、魔法には頼らない方がいいかもしれない。

もし熊が現れたらヒット&ウェイで戦おう。

何故、熊が現れたのか。それは嗅覚に優れている熊が虫達の死骸の匂いに釣られたのかもしれない。

だから、メアリは泥で出来るだけ匂いを消そうと思う、何もしないよりはマシだ。

冬も近く、餌を探して徘徊していたのかもしれない。理由は分からないけど近づいてくることは分かった。


雄叫びは徐々に大きくなっていた。どんどん近づいてくるのが手に取るように分かるようであり恐怖を煽られる。何で助けようと思ったのかなと今更ながら後悔してくる。それほどに野生の獣は恐ろしかった。


「グラァァァァァ!」

「来た!来た来た!何だアレ!?」


俺が目にした物、それは熊と虫を足して割ったような化け物だった。

光の入らない森に適応したのか、頭部には虫のような長い触角が複数あり、ウネウネと動いていた。

目は顔に一体化しており、口と頭部の触覚だけの顔だ。

敵を捕らえる為か腕は異常に細く長い。

触手の生えた手長猿のようで、熊と言う見た目ではなかった。


……いけるか?

案外弱そうな印象に、俺は魔法を使おうと行動する。イメージするのはカマイタチだ。本来なら風を圧縮して刃を作るそうだが、俺は原理を知っているため一部だけ出来た真空を運ぶ風を想像する。

意味不明だがこの表現が適切だ。魔法のお蔭か、作った真空は空気に触れているのに真空状態を維持するのである。それは風などで流すことが可能だ。


真空波とでもいうべき攻撃は、無音で近づいて行く。そして、その首を刈り取るように近づく風は敵の首を捉えようとしていた。


「グルゥ?グアァ、グアァ!?」

「なっ!?」


急に上半身を上げて周囲を警戒したと思ったら、ソイツは腕を振り上げる。

その腕は、紫の光に包まれて見えない筈の俺の攻撃を叩き落した。


「魔法?奴は魔法を打ち消したのか!?」

「グルァァァァァ!」


空気が振動した。震えるように地面は揺れ、暴風のような咆哮が俺の顔に当たっていく。

簡単な威嚇行動、ただの鳴き声、敵を発見した時の行動だ。

こんな物、ゲームで知っていた物とは違った。だが、


「煩いだけで、やっぱり怖くないな!」


ドラゴンになったせいか、元々そういう性格なのか、少なくとも恐怖よりも先に戦いたいと思った。


「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「グラァァァァァァァ!」


俺以外に魔法を使えるモンスターはいないと思っていた。少なくともこんな人間の住む場所に近いなら低レベルのモンスターのみだと思っていた。熊の魔物、奴は少なくとも俺よりも強敵だ。そんな奴を倒してみたいと思う。いや、違うな。


「俺はお前に勝ちたいんだ」

「グルァァァ!グオォォォ!」


強敵に悔しいのかもしれない。自分より強いなんてズルいと思ってるのだろう。負けたくないと思うのだ。


ゴリラのように胸を叩き、やる気十分に駆けだす敵。

俺は、強化された足で走り出した。早さは足りないが、小回りは効く。

負ける気がしない。


俺の戦いが始まった。

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