の、腹の中
茜は、老旦那の後妻として嫁ぐと決めた姉に抱きつき、肩口に顔を乗せる。
声を懸命に抑えようとすれば、身体がしゃっくりをした時のようにヒクヒクと痙攣した。
茜は声を抑えていた。
噴き出しそうになる嗤い声を。
(ぶわぁぁぁぁか……っっ)
誰からにも見えない茜の顔は、嘲弄に歪んでいた。
口端は深く吊り上がり、目は爛々と愉悦に輝いている。
本当、この姉は素直で単純で、なんと愚かなのだろうか。
(ちょっろ)
婚約者の勇一郎を奪われても怒ることも、取り返すような素振りも見せない。それどころか、三年前に許嫁関係になったというが、三年もあったのなら勇一郎を籠絡もできただろうに何もしていないとは。
(自分は品行方正だとでも言いたいのかしら)
虫唾が走る。
八つの頃に清須川家に迎え入れられて八年。
茜は最初から姉が嫌いだった。
自分が八年間生きてきた世界とはまるで違う、ぬるま湯の世界でのほほんと生きる姉が癪に障った。何も知らないからと許されるものではない。
だから、決めたのだ。
この家も、会社も、勇一郎も、華族との繋がりも……全部全部姉から奪って自分のものにしてやると。
(これは、あんたの不幸の幕開けよ)
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