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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第9話 佐々岡真二と富永彩香

第9話を読みに来ていただきありがとうございます。

 話が一段落したところで、今度は俺の方から明里に向かって自分たちのことを説明した。


「なるほどね、真二君たちは記憶を共有できないんだ」

「うん、英一の記憶は俺にはあるが、俺の記憶は英一にはない。だから何か英一に内緒で話しておきたいことがあるなら今聞いておくぜ?」


「いや、大丈夫よ。またそのうち何かあれば言わせてもらうわ」


 明里は少し考えてからそう返してきた。

 俺の思い過ごしじゃなければ、明里も英一のことを好いているはずなのだが、やはり同一人物とはいえ別人格にそんなこと相談できないか。


「わかった。これで説明は一通り終わりだけど、このあとどうする? 出来れば一度彩香に会ってみたいんだが」


 俺がそう言うと、明里は少し考えている様子を見せる。今頭の中で彩香と明里が頭の中で会話しているのかもしれない。

 もしそうだとしたら、意外に便利なんじゃないかそれ。俺は英一になにか伝える時、いちいち紙に書いて残さなければならないし、正直少し羨ましい。


「そうね、お願い。彩香も会ってみたいだってさ」


 どうやら頭の中での話し合いが終わったらしい。


「今から入れ替わるから少し待っててね」


 そう言って明里は机に顔を伏せる。数十秒もたたないうちにさっきとは全く違う表情をして顔を上げてきた。恐らく彩香に入れ替わったのだろう。しかし、人格が変わるだけでこんなに表情が変わるものなのだろうか。俺も見たことないだけで英一と俺の表情も全然違うのだろうか。


「あ、あの」


 俺がいろいろ考え事をしているうちに先に彩香の方から声をかけられた。彼女はかなり緊張しているのか声は上ずっているし、表情も強張らせている。


「ごめん、考え事してた。富永彩香さんだったかな? 初めまして、佐々岡真二です」

「......」


 返答がない。聞こえなかったか? それとも喋るのは苦手なんだろうか。


「よ、よろしくお願いします」


 うん、とりあえず俺と喋る気がないとか無視している訳ではないようだ。

 俺は内心ほっとして胸を撫でおろす。


「話すのは苦手なのかな? そんなに気負わなくてもいいよ」

「.....」


 また、なかなか返ってこない。どうやらかなり話すことを苦としているようだ。

 しかし人には得意不得意があるし、話すのが苦手なら彼女のペースに合わせてあげればいいだけだ。


「はい、普段誰かと話すときは明里が出ていて、私が話すことはないので……」


 数秒経ってから返答が返ってきた。まだ声は上ずっている。まあ、協力するといった以上途中で投げ出したりはしないけど、ちょっと会話のテンポが悪いな。


「でも、このまま明里にずっと頼っていくわけにもいかないですし。私自身消えるのは、その、嫌なので、ここらで少し、その、頑張ってみようかなと、はい」


 正直驚いた。勝手な想像だが外の世界は明里に任せてしまって、自分は完全に引きこもる。その結果、消えてしまっても別にいいとか考えるようになる。明里はそれを知っているからこそ無理やり外の世界に引っ張り出そうとしていたのかと思っていたが、全然違った。

 この子はしっかりと自分の今の状況を理解し、前向きに進もうとしている。


「うん、偉いね」

「へ?」


 俺がそう言うと明里は素っ頓狂(すっとんきょう)な顔をしてこちらを見ている。


「恐らく過去になにかあって今の状態になってしまったんだろ? それでも、トラウマを乗り越えて前に進もうとしている。そういうものと向き合うのはかなり勇気のいる行動なんだ。もっと自信を持ちなよ、きっと君は君が思っている以上に強い心を持っているよ。そして俺でよければ、その前へ進む手助けをさせて欲しい。」


「うぅ……」


 彼女の目が少し潤んでおり、赤くなっていた。


「ありがとう……今までそんな風に言ってくれる人なんて、誰もいなくて……」


 無理もないだろう。トラウマは本人にしかわからない恐怖。本人がどれだけ怖い思いをしようと、他の人は何をそんなに恐れているのかすらも理解されないことだってある。専門家などで相談でもしない限り一人で戦わなければならないのだ。恐らく彼女の周りにはそれを理解し、寄り添ってくれる人がいなかったんだろう。


「慌てることはないよ、少しずつゆっくりと頑張っていこう」


 俺は優しい表情を浮かべ、柔らかい口調でそう言った。


「うん……ありがとう……」


 彼女はだいぶ落ち着いたようだ。表情こそまだ少し硬いものの、先ほどよりはましになっているし、気付けば声の上ずりもなくなっている。


「それじゃあ今日のところはもう明里と代わりなよ、彩香も久しぶりに人前に出たから疲れただろ?」

「うん、ありがとう。あ、あの」

「うん?」

「これからよろしくね」


 彩香は最後に晴れやかな笑顔を見せて入れ替わった。その笑顔は今まで見てきた誰よりも純粋な表情に見えた。



「どうだった?」


 再び明里へと入れ替わってすぐに彼女は心配そうに聞いてきた。


「うん、大丈夫そう。あの様子ならそんなに問題ないと思うよ」


第9話を最後まで読んでくださりありがとうございました。


今回感想でいくつか気になると指摘されたところがあり、それらを意識しながら書いたのでいつもと少し違うところがいくつかあると思います。

これからも少しでも良い話を書けるように頂いた意見は参考にさせていただきますので今後ともよろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 二重人格の主人公とヒロインの掛け合いが良いですね。 それぞれの副人格も良い感じだし、 主人格をサポートする為に色々動いてるところが、 自分であって自分じゃない、みたいな感じでカッコいいです…
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