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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第8話 二重人格

第8話を読みに来ていただきありがとうございます。今日はいいところに切れるところがなかったので普段の倍くらいの長さですがよろしくお願いします。

 日曜日、今日は富永さんと会う約束をした僕は喫茶店へと来ている。


「単刀直入に言うわ、あなたも二重人格よね?」


 富永さんと集合し、飲み物を注文するや否や、いきなり本題に入ってきた。


「やっぱり、バレてたんだね」


 あの時富永さんと話していたのは真二の方だったがそのあと入れ替わる前にメッセージで、今日富永さんと二重人格について話し合うことになった、と書いてあったので大まかな事情はわかっている。


「正直、つい最近までは半信半疑だったわ、でももう一人の君に指摘されて確信が持てたわ。だって、あんな自信満々で二重人格を指摘できるのは、その人自身が二重人格でない他には考えられないもの」


 もっともだ。そもそも僕も薄々気付いてはいたのも、真二が気付いたのも僕らが二重人格で、その特徴を知っているからだ。


「自分が二重人格だと相手が隠していても、ちょっとした仕草とかで薄々わかるもんね」

「うん、それで改めて説明するね。今出てるのは富永明里(とみながあかり)、一応私はサブの方でメインは富永彩香よ」

「え、富永さんが副人格なの? ずっと出ているからてっきり主人格だと思ってた」


 これには驚きのあまり目を見開く。副人格が主人格よりも長く出ているなんて、よほど主人格の方は出てこれない理由でもあるのだろうか。


「まー、そこはいろいろあって。というかややこしくなるから出来れば名前で呼んで欲しいな」

「あー、ごめん。」


 そこから彼女の二重人格について話を聞かせてもらった。明里さんと彩香さんは自由に入れ替わることができ、別の人格が出ているときでもその記憶があること。彩香さんがほとんど出てこず明里さんが長時間出ているのは、単に彩香さんが外に出たがらないだけで、何か問題があるわけではないこと。そして驚いたことに、明里さんが誕生したのは友達が出来ずに寂しい思いをしていた彩香さんがその寂しさを紛らわすために自ら作り出したらしい。


「なるほど、大体わかったよ」

 

 僕はコーヒーを一口飲んでからそう答えた。


「うんそれでね、ちょっと踏み込んだ話するよ?」

「う、うん」


 今この状況が十分踏み込んだ話をしている場だと思うんだが、いったいこれ以上何の話をするというのだろか?


「別にこのまま二重人格のままで過ごしたとしても何の健康被害もないとお医者さんからは言われているの。だから私たちが望むなら、このまま二重人格のままで過ごすこともできるんだって」

 彼女は眉を寄せて、今まで見たことのないような真剣な眼差しで話している。


「でもね、同じ二重人格の英一君ならわかると思うけど、やっぱり私たちは一つの人格に戻りたいの。いくら健康に問題がでないにしても、一人の体の中に二つの心があっていいわけがないの」

 

 うん、確かにわかる。僕も真二が永遠にいたとして、何か大きな問題が起きるわけではないけど、やはり一つの人格でいたいと常々思う。他人に二重人格だからと同情されたり、変な目で見られるのは嫌だし。

 それに、とさらに彼女が続ける。


「これはあくまで私の感覚なんだけど、最近、彩香が全然出てこずにほとんど私が出ているの。このままだと彩香の存在意義がなくなり消えてしまって、私がメイン人格としてこれからずっと過ごしていくことになってしまいそうなの。そんなの絶対だめ。私の存在意義がなくなって本来の彩香一人に戻るならともかく彩香が消えて私が主人格になるなんて絶対にあってはならないの」


 確かに二重人格は片方の存在意義がなくなると消えてしまい、元の一人に戻るとは僕も医者から説明を受けたことがある。けど主人格が消えてしまうってことなどありえるのだろうか。


「だからお願いがあるの、お互い二重人格のことをよく知っているからこそのお願い。彩香と友達になって欲しいの。彩香と友達になって、いっぱい遊んで、そして私の中に引きこもっている彩香を外の世界へと導いてあげて」


 そのお願いにはもちろん協力していいと思ってはいるがある疑問が浮かんでしまった。そしてその疑問が本気で協力出来ない致命的な疑問となってしまった。


「明里さんはそれでいいの?」

「ん? 何が?」

「だって彩香さんは友達が欲しいっていう理由で明里さんを作ったんだよね? じゃあ僕が彩香さんと仲良くなったら明里さんは存在意義がなくなって消えてしまうんじゃないの?」


 僕のこの指摘に明里さんは悲しんでるような、笑っているような何とも言えない不思議な表情を見せた。


「やっぱり、二重人格の人に隠し事なんて出来ないね。うん、英一君の言う通り、もしかしたら私は消えるかもしれない」

 

 明里さんの発言に僕は心臓が飛び跳ねる。


「明里さんは本当にそれでいいの?」

「うん、いいよ。私はもともと彩香を支えるための人格。その私が彩香の立場を奪って主人格になるなんてあってはならないことなの」


 そういう明里さんはどこか寂しさを併せ持ったような笑みを浮かべている。

 恐らく嘘だ。その一言、仕草に若干の違和感がある。しかし、その違和感が何なのか酷く混乱している僕にはわからなかったので口に出すことは出来なかった。


「だとしても僕は嫌だよ、協力できない」

「え?」

「僕からすれば明里さんが主人格だよ。ずっと出ていて、僕と親しげに接してくれて、時に冗談を言い合ったりして。そんな日々が本当に楽しかったと思っている。それが僕の中では当たり前の日常なんだ。僕がいて明里さんがいるから成り立つもので。本当は彩香さんが主人格かもしれないけど僕からすれば明里さんが主人格で……」


 僕はいったい何を言っているんだ? 本人が彩香さんが主人格で自分が副人格だと言っているんだから、嘘をついていない限りそれで間違いない。むしろ僕が決めることじゃない。何を勘違いしているんだ?


「ありがとう。私のことをそんな風に思っていてくれてたなんて本当に嬉しいよ。でもごめんね、やっぱり私は彩香が幸せになって欲しいの。主人格である彼女が。大丈夫、きっと彩香とも仲良くなれるわ。そしていつか私が消えた時、英一君と彩香が笑って私の話をしてくれれば私はそれだけでうれしいよ」


 彼女はどこか儚げな表情だった。しかし今の僕にはそれすら気づけないほどに混乱していた。


「僕は……それでも君に、明里さんに……」


 ダメだ、声が上ずっている。だんだんまともな思考も出来なくなってきた。あー、僕はなんて酷いやつなんだろう。同じ仲間としてお願いされているのに、それを聞き入れずに、それどころか自分のことばかり考えて。謝りたいけどもう駄目だ間に合わない、意識が遠のいていく......。


「英一君?」


「……やあ」

「あ、真二君になったのね」

「ああ、英一は少しお休みだ。すまなかった、英一があんな態度をとってしまって」

「いえ、いいのよ。いきなりそんなとこまで話して驚かせてしまった私が悪いのよ」


 明里が目を伏せて申し訳なさそうに佇んでいる。


「それで、その彩香に友達を作る件だけど、とりあえず俺が引き受けるよ」

「え、いいの?」


 驚いた表情で俺を見つめている。

 俺としても同じ境遇にある明里たちには協力したいと思っている。それに、何より英一がこんなことになってしまったならもう俺がやるしかない。


「当たり前だ、そもそも俺も主人格をサポートする立場にあるしな。だから明里の気持ちはよくわかる」

「ありがとう」


 嬉しそうに明里が微笑んでいる。


「礼なんていらないよ。しばらくは俺が引き受けるがタイミングを見て英一とも友達になってもらう。あいつさっきは取り乱していたが本来凄くいいやつだから絶対協力してくれるさ」

「うん、わかってる、英一君が本当は優しいことは。わがまま言ってごめんなさいね」

「最終的には俺らは佐々岡英一として、君らは富永彩香として一人の人格に戻れるよう頑張っていこう」

「うん、よろしくね」


 なぜだかわからないが、その時の明里は凄く苦しそうにしている気がした。

第8話を読んでくださりありがとうございました。

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