第72話 真二と彩香の結末
第72話を読みに来ていただきありがとうございます。
英一に両親の記憶を返してちょうど二ヵ月が経った。
その間、英一の中で、精神状態を観察してきたが、これといって大きな問題は起きなかった。あいつはこの一年でかなり強くなった、もう俺の出番はないだろう。やっと俺が誕生してから待ち望んでいた英一と一つに戻れる日が来る。俺はそう確信した。
ただ最後に一つだけやり残したことがある。彩香にことを伝えなくてはならない。
彩香がずっと前から俺のことを好いてくれているのは知っていた。英一がしっかりしてきたころから俺が出てくることが減っていったが、彩香は顔色一つ変えずに英一と接してはいた。だがきっと心の中では俺と話したいと思っていただろう。そのことを知りながら黙っていなくなることは出来ない。最後にちゃんと伝えるべきだ。それに彩香が残ったら、あのことを話すと自分で決めていたから。いいタイミングだし、ここでしっかり話した上で、お別れの挨拶もしておこう。
ということで、俺は彩香と遊びに行く約束を取り付け、駅の前で待ち合わせをしている。彩香と待ち合わせの連絡をしていたのは英一だから彩香は英一から呼び出されたと思っているはず。そこで俺が出ていたらあいつ驚くだろうなとそんなことを考えながら彩香を待っていた。
しばらくして彩香がやってくる。彩香は今出ているのが俺だと分かると、いかにも嬉しそうに声をはずませていた。
それから目的地に着くまでいろいろな話をした。彩香と会って話すの自体が一年以上前なのもあって、話題が途切れることはなかった。
「そういえば、最近英一君目の色変えて勉強してるわよね、何かあったの?」
「ああ、あいつもやっと自分のやりたいことに気付いたみたいだぜ。それで今までの遅れを取り戻すとか言って必死にやってるみたいだ」
「来年受験だもんね、良いところに行くならそろそろ気合入れ始めないと間に合わないものね」
「だな、彩香はどうするんだ? 数学者になりたいのは知っているけど、もう具体的な志望校とかは決まっているのか?」
「ええ、決まっているわよ。既に勉強も始めてる。まあ、厳密には数学者になりたかったのは私じゃなくて明里なんだけどね。でも、私も明里も同じ富永だから、あの子の意志を継ごうと思って」
「そっか、まあ頑張れよ」
「ええ、もちろんよ」
それから少しして、俺たちは目的に到着した。
「あれ? ここって……」
「ああ、昨年のクリスマス前、英一と明里がデートスポットにしたあの遊園地さ」
「え? じゃあ今日呼びだしたのって」
「俺はデートのつもりだったけど?」
恥ずかしさのあまり顔が赤くなってしまったかもしれない。やはり慣れないことはやるべきじゃないな。
「……そっか」
あれ、思ったよりリアクションが薄いな。もっと喜んでくれると思ったのに。もしかして俺が出ていないうちに好きな人でも出来たかな? まあ、それならそれで構わないが少しだけ寂しいな。
「ん? 何をしているの? 早く中に入りましょ!」
「あ、ああ」
どうやら遊園地が嫌いなわけではなさそうだ。俺は彩香に促されるまま園内に入っていった。
中に入ってから数時間が経過し、外はだんだんと薄暗くなってくる。昨年、英一と明里が嘆いていたように、今年も大勢の人がいて、ほとんどまわることが出来なかった。
まあ、でもそれでいい、アトラクションはあくまでおまけだ。ここを選んだ一番の理由はあのイルミネーションを見るためだし。
そう考えながら俺は彩香と共にイルミネーションをしている広場へと向かう。
ちらりと彩香の顔を見てみる。
「ん? どうかした?」
「いや、何でもない」
彩香は普通に楽しそうにしていた。遊園地の入口で見せた一瞬曇った表情はいったいなんだったのだろう。
そうこう考えているうちに、イルミネーション広場に到着した。昨年と比べても負けず劣らずのギラギラと光り、目がおかしくなってしまいそうなほど眩しい光景がそこにはあった。
「わあ、綺麗」
彩香が目を輝かせながらそう言う。
「ああ、綺麗だ」
昨年、英一と明里が同じものを見ていたから記憶にはあったが、記憶で見るのと実際に見るのでは全然違う。これは、実際に見に来てみて本当によかった。そう思わされるほど、実際に見たイルミネーションの景色は輝いていて、見ている人皆を幸せにする。そんな不思議な力を肌で感じた。
それから一時間ほどこの光景に釘付けになったころ、彩香は突然口を開いた。
「ねえ、真二」
「どうした?」
「そろそろ本当のことを話してよ。今日呼び出したの、これを見るためだけではないでしょ?」
そっか、気付いていたのか。まあ、隠すつもりはないし言うか。
「うん、わかった。もうじき俺は消えて英一と一つになる。その前に彩香と話がしておきたくてこうやって呼び出した」
「そんなことだろうと思ったわ」
彩香は目線をこちらには向けずにそう言う。
「気付いていたのか?」
「なんとなく、ね。今まで用事がないからと言って、全然出てきてなかった真二がいきなり出てきた辺り、そういうことじゃないかなと察していたわ」
「そっか……」
「それで話って? 今の感じからして、もうすぐ消えるという報告だけじゃないんでしょ」
彩香に促されるまま、俺は話し始める。
「俺、かなり前から彩香が俺のこと好いてくれいていることを知ってたんだ」
彩香の眉がピクリと動く。
「俺も、彩香のことは好きだった。でも、当時明里と彩香はどちらが残るかわかっていなかったが、俺らの方は英一が残ることは絶対だった。だから、気持ちを伝えて、付き合ったとしても必ず別れることになる。そうなったら彩香を悲しませることになるから、あえて気付いていないふりをしていた。彩香には別の人のことを好きになって、もっと幸せな生活を送って欲しかったんだ。そのことだけでも言えたらよかったけど、それを伝えてしまうと、今度彩香が生きる希望をなくして、一つに戻るとき明里に人格を譲ろうとするんじゃないかと考えてしまって、それすらも伝えられなかった」
ここで、これまで黙って話を聞いていた彩香がこちらに振り向いて口を開く。
「私ね、知っていたの。真二が私に好意を持ってくれていたということは。それでも私が真二のこと好きアピールすると、いつも急に気づいていないふりを始めていたからどうしてなんだろう、と考えていたの。そっか、そういう理由だったんだね。私のこと好いてくれていたのは知っていたけど、そこまで大切に想ってくれていたのは知らなかったなあ」
「ずっと、彩香に伝えたかった。だから彩香と明里の二重人格が終わって、一つの人格に戻った時、彩香が残ったらこのことを伝えると決めていた。今日ようやく達成出来たよ」
「私も、真二がそういう態度を取っていたことに何か理由があるんだろうと思って、これまで伝えられずにいたけど、今日やっと伝えられる」
「大好きだよ真二。これまでも、これからも」
ああ、英一を支えるためだけに存在していた俺が、こんなことになるとは想像すらしてなかったな。もう思い残すことはない。俺は俺で納得したまま消えることが出来そうだ。
「俺も、彩香のことが好きだ」
俺も彩香も顔が真っ赤になっている。けれどこの夢は終わらさなくてはならない。
「だけどごめん。その気持ちに応えることは出来ない」
そう、俺は間違いなくもうじき消える。どんなに両想いになろうとも彩香の気持ちに応えられないんだ。
しかし、そう言った瞬間、彩香は俺に向かって抱き着いて来た。
「ちょっ、彩香」
「分かってる。でも今日はデートなんでしょ? じゃあさ、それらしいことしようよ」
「……わかった」
俺と彩香はそのまま唇を合わせる。真冬の夜だから、かなり気温は低いのに、それでも彼女の唇は暖かい。気付けば、俺も彩香も涙を流していた。涙が顔を伝ってお互いの口に入り、キスが急にしょっぱい味に変わった。
「ありがとう、真二」
唇を離して彩香がそう言う。
「ふふっ、明里と英一はしてなかったから、これが佐々岡と富永のファーストキスね」
彩香が唇に指を添えて言いながらいたずらっぽく微笑んだ。
俺は最後にもう一度彩香を抱きしめてから、彩香に別れを告げた。
第72話を読んでいただきありがとうございました。長くなってしまってので分けようかなとも考えましたが、もう完結に近いですし、一気に読んでしまいたいかなと思ったので一つにまとめました。
真二が彩香が残ったら伝えると決めたシーンは第25話、明里さんと英一のクリスマスデートのシーンは第27~28話にありますので、気になる方は戻って読んでみてください。
次回いよいよ完結します!多分文字数も今日みたいに多くなるので18時に投稿できるかは分かりませんが、出来るだけ間に合わせるように頑張りますので最終話もどうぞよろしくおねがいします。




