表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
71/73

第71話 英一の過去

第71話を読みに来ていただきありがとうございます。

 三日後、今日遂に真二から両親の記憶を返してもらえる。現在の時刻を確認すると十一時五十五分。真二は十二時ちょうどに記憶を返すとメモを残していたからあと五分だ。

 待っている間に考え事をする。記憶が戻るのが楽しみである一方不安もあるのだ。もし、両親が僕のことを全然大切にしていなかったらどうしよう。もし、亡くなった原因が彩香さんのように自分自身にあったら……。もし、今の僕が考え付かないような絶望の過去だったら……。

 考えれば考えるほど不安が募る。あのとき、ろくに考えもせずに、簡単に記憶を取り戻したいと言ったことを少しだけ後悔する。


 十二時になった。テレビなどでよくある、自分の周りが光に包まれて記憶を取り戻すとか想像していたけど、そんなことは起きない。ただ、自分でも驚くことに、両親のことを考えるとそのことが僕の記憶にあった。まるで、もともとあるのが当たり前のように、記憶を失っていたのが嘘かのように。


              ***


「ねえ、お母さん! 今日の晩御飯はなーに?」

「今日は英一の大好きなカレーライスよ」

「やったー! 僕カレーライス大好き!」


              ***


「沢山食べて大きくなれよ英一!」

「うん! 僕もお父さんみたいな立派な医者になる!」

  

              ***


「そうだ、こんどの週末久しぶりに休みが取れそうだから、三人で遊園地でも行くか」

「やったー! 三人でお出かけだ!」


              ***


「英一、おまえはまだこっちに来てはいけない」

「なんで! 僕もお母さんとお父さんと一緒にいきたいよ!」

「ダメだ来るな! お前は生きるんだ」


              ***


「ねえ、おばあちゃん。どうしてお父さんたちは目を開けないの?」

「僕、もっとお父さんともお母さんとも沢山遊びたい、早く目を開けて欲しいなあ」

「英一、お父さんもお母さんも、もう目を開けることはないんだよ……」

「どうして? 昨日まであんなに仲良くおしゃべりしていたのに」


              ***


 そうか、そうだったのか。もともと記憶にあった感覚だから思い出したという感じはそこまでしないけど、とにかく分かった。

 僕は両親に凄く大切に育てられていた。夫婦仲も良くて、父さんは仕事で忙しそうだったけど、それでも休みのときは惜しみなく僕とお母さんのために時間を使ってくれた。それこそ理想の家族像だったと思う。

 けど事件はあの日起きた。父さんが久しぶりに休みを取れて家族三人で遊園地に行った帰り、僕たちは信号無視の車に衝突されて命を落とした。

 あとで、祖母から聞いたことだけど、僕も本当は両親と一緒に死ぬ運命だったらしい。でも、父さんが自分の大怪我を後回しにして、傷だらけの体で必死に僕の応急処置をしてくれたおかげで僕だけはなんとか一命を取り留めた。夢だったのか現実だったのかは覚えていないけど、僕が両親に着いて行こうとしたときお父さんに「来るな」と言われたことだけは覚えている。

 それからのことはよく覚えていない。記憶がまだ完全に戻っていないとか、そういうことではなく、ただ単に、覚えていないだけだと思う。きっと、僕の世界は百八十度変わってしまったのだろう。僕の怪我がある程度治ってから葬式が執り行われ、親戚が話し合った結果、父方の祖母に引き取られることになった。そこから記憶は全然なくて、気付いたら二重人格になっていて今に至る。

 これは僕の予想だけど、人間の脳はなにか刺激的な出来事でも無ければ時間と共に忘れていく。そこから記憶がないのは何も思い出がないからじゃないか。きっと受け入れられなくて、死人みたいな顔をしながら毎日生きていたんだろう。やがて限界がきて真二が誕生し、僕の記憶を奪っていった。多分こんなところだろう。


「ふう……」


 記憶を整理し終えると、遅れて涙が出てくる。でもこれは悲しいからではない、嬉しかったからだ。

 僕はちゃんと両親に大事に育てられていた。それどころか、お父さんに命も助けてもらっていたなんて。今まで通りすがりの親子や富永親子の愛情を見る度に、僕の両親に愛情はあったのかと不安になっていたけれど、僕の両親にも特大の愛情があった。それがわかっただけで無性に嬉しかった。

 むしろ、一瞬でも二重人格になる子によくある虐待とかが原因ではと、考えてしまったことを申し訳なく思う。


「ごめん、父さん母さん。ありがとう」


 僕は涙を拭い、天国にいる両親に向かって、そう言った。

第71話を読んでいただきありがとうございました。

完結までの段通りを決めました。あと2話で、第73話で完結させます。

残りわずかとなりましたが完結までどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ