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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第56話  新たな門出を願って

第56話を読みに来ていただきありがとうございます。

 一ヵ月が経ち、夏休みに入った。

 あれから、明里さんと彩香さんは元気を取り戻して、いつも通り日常を過ごすようになった。

 けど、やはり思うところがあるのか一人になると時々悲しみの表情を浮かべていることを僕は知っている。まあ、そりゃ簡単に受け入れて切り替えられる出来事じゃないもんなと僕は思い、バスに乗りながら病院に向かっている。

 夏休みに入ってすぐ、明里さんと彩香さんは検査があるからと、また入院してしまった。だから、昨年みたいに、四人でミニ旅行に行くことは出来そうにない。今年もしようかという話にはなったけど、今年は富永さんの検査入院以前の問題で、僕ら理系の特進クラスは夏期講習があるので、どちらにせよ行けなかった。


 今日は話があるから一度来て欲しいと明里さんからメールを貰ったので、病院に向かっている。

 病院のひとつ前で下車して、僕は花屋に向かう。前回、冬にお見舞いに行ったときも花を持って行ったし、今回も必要かなと思ったので花屋に寄ることにしたのだ。

 前は店員に勧められるまま、ガーベラを購入したが、思わぬ罠が隠されてたので、今回はあらかじめ何を買っていくべきか調べてきた。

 店に入り、僕は店員に『スイートピー』の花はどこに置いてあるか聞いた。

 それを選んだのにはしっかりとした理由がある。スイートピーには『門出』という花言葉がある。過去の出来事を受け入れ、新たなスタートを切れるように思いを込めて、この花を贈ることに決めた。あわよくば、二重人格にも決着をつけ、新たなスタートを切れたらいいなとも思っている。


「あら、今回はガーベラじゃなくていいの?」

「いえ、この花で大丈夫です」


 なぜそんなことを聞くのか疑問に思ったけど、思い出した。このひとは確か、前におすすめの花を聞いたときにときに、ガーベラを勧めてきた人だったはず。また、この人のおすすめを買って言ったらろくな事がなさそうだから、今回は自分が選んだ花で十分だ。

 それにしても、毎日いろいろなお客さんが来ているはずなのに、よくたった一度来た客の顔なんて覚えていたな、と素直に感心してしまった。まあ、こういう商売だと人の顔を覚えるのは得意なのかもしれないな、と僕は一人で納得する。

 店員さんは少し残念な顔をしていたが、「お見舞いに持って行くならピッタリね、『早く退院して、新たな門出を迎えられますように』ってね。いいセンスしていると思うわ」と言ってくれた。

 正直少しこの花で大丈夫かなと不安があったけど、花屋からお墨付きを貰えたし、自信を持つことが出来た。僕はその店員にお礼を言って、店を出る。

「またいらっしゃい」と声をかけられたが「あ、また来るようなことがあれば、お友達の入院が長引いているってことだからもう来ない方がいいわね」と冗談めかして言われた。

 なので僕もそれに合わせて「そうですね、もう二度と来ないので」と笑って、花屋をあとにした。

第56話を読んでいただきありがとうございました。


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