第52話 加速
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六月に入り、梅雨の季節となった。
窓の外を見ると今日も雨が降っている。いい加減雨が続くのもうんざりしてきた。そもそも雨が降ったら傘を差さないといけない。単純なことだけど、それだけで片手一本使えなくなるのが嫌だ。
「佐々岡、授業聞けよー」
僕が窓の外を眺めながら考え事をしていたら、先生に注意されてしまった。
ふと、明里さんの方を見てみると、彼女も下を向いてなにか考え事をしているように見える。
あれ以来、明里さんも彩香さんも笑顔を見せることが無くなった。話しかけたら普通に受け答えはしてくれるけど、凄く無理しているように見える。
相当思い詰めているんだろうな。あれから更に不自然な入れ替わりが増えているし、現にこうして考え事をしている間にも明里さんから彩香さんへと入れ替わっていた。
ここのところ、かなり不安定に見える。彼女たちは一体どうなってしまうのだろう。もしかして僕が思っている以上に終わりが近付いているのだろうか。
このとき僕が抱いた不安は当たってしまうこととなる。
「三ヵ月以内だって」
「え?」
放課後、彩香さんに話したいことがあると言われ、誰もいない教室で待っていると、彩香さんが入って来るや否や衝撃の事実を聞かされた。
「私たちの二重人格が一つに戻るのはもう三ヵ月以内なんだって」
困惑している僕のために、彩香さんはもう一度同じことを言う。
早すぎる。少し前に聞いたときは一年以内と彼女は言っていた。確かに一年以内に変わりはないけど、正直ほぼ一年かかるものだとばかり思ってた。なのにまさかこんなにも早くなるなんて。
「多分、あの出来事で記憶がはっきりしたから、それが原因で急激に加速したんだと思うの」
僕の表情から言いたいことを察したのか、僕が聞きたかったことを先に話してくれた。
「まって、それじゃあもしかして、もう全てのことを分かっているの?」
「ええ、分かっているわ。なぜ私たちが二重人格になったのかはもちろんのこと、どちらが主人格だったのかもね」
そうか、もう全て分かっているんだ。まあ、記憶が戻ったんだから、いつかはっきりするだろうとは思っていたけど、既に知っていたとは驚きだ。
「でもごめんね。まだ話せそうにないの」
「いや、いいんだよ。無理に僕に話す必要はない。落ち着いて、僕に話しても良いかな、と思える時が来たならその時に聞くから言って」
「うん、わかった……」
彩香さんは申し訳ななそうに下を向きながらそう言った。
しかし、三ヵ月以内か。今から三ヵ月というと九月だけど、多分もっと早いだろう。
どっちが主人格なのかは僕にはわからないけど、彼女の父親の事故が原因なのは間違いない。だとしたら、その傷を乗り越えた時点で、副人格は必要なくなる。そうなった瞬間、二重人格は終わる可能性が極めて高い。だから彼女たち次第では明日にでも終わる可能性だって十分にあり得る、そんな気がする。
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