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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第50話 沈んだ心

第50話を読みに来ていただきありがとうございます。

 授業が終わると同時に僕はすぐに病院へ向かった。明里さん、彩香さんの病室に到着し、中に入ったがそこにはもう明里さんなのか彩香さんなのかわからないくらい酷く落ち込んでいる様子の富永さんがいた。


「えっと……彩香、さん?」


 どちらかわからなかったけど、目が覚めた時彩香さんになっていたと彼女たちの母親がメールで言っていたのでとりあえず彩香さんの名前を呼んでみることにした。


「明里よ」


 低くかすれた声でそう返ってきた。

 明里さんと知り合って一年くらい経つけど、こんな明里さんの声は初めて聞いた。それだけで、聞かなくとも今の彼女たちの状態の悪さが理解出来てしまう。


「とりあえず目が覚めたみたいでよかったよ」

「……」


 明里さんは何も答えない。

 無視しているとかではなく魂が抜けている、心ここにあらずという感じだ。


「体調はもう大丈夫?」

「……ええ」

「よかった、急に倒れたから心配したよ」

「うん……」

「いつ頃退院できそうなの?」

「……」


 そのあともいろいろ話しかけてはみたが、終始聞いているのか聞いていないのかよくわからない曖昧な返答をされた。今日はこれ以上ここにいても彼女の気が休まらないだろうと思い、帰ることにする。僕はそのことを明里さんに伝え、ドアノブに手をかけた時「ごめんね……」と消え入りそうな声で明里さんはそう呟いた。

 僕は言葉を返さずにそのまま病室を退室した。




 次の日、今日も僕は授業が終わったあと、明里さんたちのお見舞いに来ている。

 今日は彼女たちの病室に入った時は彩香さんだった。しかし、状態は昨日の明里さんとほぼ同じで、終始暗い感じであり、話しかけても曖昧な返答をする程度だった。

 まあ、無理もない話かと思う。明里さんは失われていた記憶についてかなり核心まで迫っていたにもかかわらず、思い出せない様子だった。つまり、それほど思い出してはいけない記憶だったのだろう。それを偶然とはいえ事故を間近で目撃してしまい、無理やり思い出させる形となってしまったのだ。あの日、彩香さんの父親が事故に遭った時に味わった記憶を失うほどの耐えられない思いを、数年の月日が流れた今、味わうこととなっているのだ。そんなもの、冷静でいられるわけがない。きっと僕が彩香さんの立場なら、頭がどうにかしてしまいそうになるだろう。


「じゃあ、帰るね」


 結局、今日もほとんど話せないまま、帰ることとなった。今日は帰り際に何も言われなかった。


「あら、英一くん……」


 ドアを開けたところでたまたま明里さんたちの母親と鉢合わせになった。


「あ、どうも」


 僕は軽い挨拶を交わしそのまま帰ろうとしたが、「よければ少し話さない?」と言われたのでそのまま、一階のロビーで話すこととなった。

 一階のロビーにはそこそこ人がおり、適度に周りからの会話が聞こえるので話をするにはちょうどいくらいの環境だ。

 適当に空いている椅子に座り、まずは僕が先に口を開く。


「あの、明里さんたちについて何かわかりましたか?」


 しかし、僕の期待していた回答は得られなかった。明里さんたちの母親は静かに首を横に振り、「残念ながら何も……」と答えた。


「英一くんも見ていると思うけど、あの子目が覚めてからずっとあんな調子なの」

「そうでしたか……」


 まあ、あの様子だったら、医者から何か質問しても、恐らく答えられる精神状態ではないだろう。


「お医者様が言うにはね、今は手のつけようがないから、もう少しこのまま様子を見るしかないですって……」


 明里さんたちの母親は悲痛な表情を浮かべて、そう語る。自分の娘がずっとこのままの状態になるんじゃないかと不安なのだろう。かという僕もそうならないように祈るばかりでかなり心配だ。また、以前みたいに楽しく笑い合える日は戻ってくるのだろうか。

 それは僕にも母親にも医者にもわからないだろう。多分、明里さんがそれを受け入れて、乗り越えられる強さを持っているか。それ次第だと思う。

第50話を読んでいただきありがとうございました。

正直、この小説を書き始めたころは50話までいくとは思ってもいませんでした。

これもこの小説を読んでくださっている皆様のおかげです、いつもありがとうございます!


物語は終盤に入っていて、恐らく70~80話前後で完結するんじゃないかなと思っています。

最後まで頑張って書ききりますので、これからもよろしくお願いします。



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