第46話 迷った末に
第46話を読みに来ていただきありがとうございます。
「やりたいことか……」
自室の椅子の背もたれにもたれかけ、天井を見上げて呟く。
ほんと僕は何がやりたいんだろうか。信也は、『自分の周りを見つめなおしたら見つかる』って言っていたけど、それはどういう意味なんだろうか。試しに部屋を見渡してみたが、何かあるわけどもない。あるものといえば、ベッドに、勉強机、本棚に数冊の小説と漫画など。そのほか特に目立ったものといえば、小学生の頃に習字で入選した『夢』という一文字を部屋に飾っているくらいだ。
夢か……。そういえば、小さい頃僕にはなりたい職業があった。それが何だったかは覚えていないけど、何か凄く大事なことだった気がする。これはただ単に忘れただけなのか、それとも意図的に忘れさせられたのか……。
夢と言えばもう一つ。寝ていたときに何度も見た夢は結局のところなんだったのだろう。今となってはなぜ思い出した時に取り乱したのかもよくわからなくなった。あれ以来同じ夢は見なくなったけど、たしか『選んで』だっけ? 今も、ちょうど進路を選んでいるけど、もしかしたら進路選択で困ることになるという予知夢だったりするのか?
でも、なんかそれは違う気もする。まあ、今そんなことを考えていても仕方ないか。
夕食を食べ終わり、入浴中また同じことを考えていた。よくお風呂やトイレで考え事をすると良い案が思いついたりすると聞くが、今のところ何も浮かんでこない。
そもそも自分の周りを見つめ直すとはどういう意味なんだろうか。僕の周りにはいつも明里さんと彩香さん、信也、九条さんなどがいて、毎日楽しく会話している。けど、それは関係ないよな……。
それから僕は寝るまでの五時間の間ひたすら悩み続けた。悩み続けた結果、一つの結論を導き出した。
決めた、僕は明里さんと同じ理系の特進コースに行く。理由は僕が考えられないと言った友達が行くから僕も行くというやつだ。
けれどそれは、あくまでいつまでも友達でいられることが前提の話だ。明里さんと彩香さんは一年以内に一つの人格に必ず戻る。つまり、時間は有限だ。一方で、僕のやりたいことを見つけ出すにはまだ少しだけ時間がある。一年も経てば、やりたいことを見つけて、それに合わせた志望校を探さないといけないけど、それはまだ一年先だ。
それなら、よりタイムリミットが近い明里さんの方を優先したいと思った。もちろん、一つの人格に戻った時、それが明里さんだったら最高だが、そうなるとは限らない。彩香さんが残る可能性だって十分あるし、そうなってもおかしくないくらい彩香さんも自分が残るために頑張っているのを僕は知っている。だからあと一年しかないと考える。残りの一年、明里さんと楽しい時を共有したい。そして、万が一明里さんが残らなくても悔いのないようにしたい。それが出来るのは明里さんと同じ理系の特進コースに進むことだ。
多分、別のコースに行ったら、時間割とかも大きく変わるし会う機会がかなり減るだろう。もしかしたら、知らない間に一つの人格に戻っていたなんてこともあるかもしれない。それを想像した時に、嫌だなと思った。やっぱり、最後はどっちが残ろうとその前に別れの挨拶をしたい。
それに幸い、特進コースに進んでおけば、あとでやりたいことが見つかった時に対応が出来る。進学コースだと九条さんのように、やりたいことがあってもそのまま進学する大学にやりたことを学べる学部がないという可能性もある。けれど特進ならそれがない。
だから、僕は理系の特進コースを選ぶ。残り一年、後悔がないように過ごすために。明里さんと彩香さんが一つに戻るときまで、一緒にいるために。
もう、迷いはない。僕は進路希望の紙に理系特進コースに大きく丸をつけて提出した。
第46話を読んでいただきありがとうございました。
次からは二年生に進学します。信也と九条さんとはクラスが別々になるので出番が減ると思います。




