第37話 記憶を取り戻す方法
第37話を読みに来ていただきありがとうございます。
「それじゃあ改めて聞くけど同じ経験をしている佐々岡君から見てどう思うかしら」
どう思うって言われてもさっき話した通りだ。これ以上のことは僕にはわからない。ただ一つ気になっていることといえばあのことだ。
「良くも悪くも事故前後の記憶がないことが、今の事態をややこしくしているんじゃないかなと思います」
ふむふむそれで? と僕が二重人格だと知ってから、まるで先輩にアドバイスを聞く後輩のような態度で僕に先を促す。
「実はさっきの仮説は記憶があったら、成り立たないんですよ。三つとも事故の後、彩香さんが誕生したり、彩香さんの性格の変化があったりしますよね。けれどもし事故の後の記憶があればその後の心境の変化がわかるのでそれらの変化が二重人格によるものなのか性格の変化によるものなのかがわかります。そうなれば恐らくもっと核心に近いところがわかるんじゃないかなとは思います」
「でも、危険だから記憶を蘇らせるわけにはいかにと」
彼女たちの母親が僕に続いてそう言った。
「はい、それは経験上絶対におすすめできません。僕も以前僕の副人格が消した記憶を無理やり思い出そうとしたことがありました。けれどそのときすぐに副人格へと入れ替わり、元の人格に戻った時は『二度とそんなことするな』と注意書きが書かれてあったことがあります。恐らく僕らが思っている以上にとんでもなく危険なんだと思います」
「そうなのよね、その抜け落ちた記憶があるからこの二重人格はわからないことが多いってお医者様も言っていたわ」
彼女たちの母親はがっくりと肩を落とす。
「もう、あとは医者に頑張ってもらうしかないと思います。僕たちは専門家ではないですし、勝手な行動をしてより悪化させるのが一番危険だと僕は思います」
彼女たちの母親と長話しているうちに、とうとう明里さんが検査から戻ってきた。
「ただいま~、もう、検査長すぎ疲れちゃった~」
ぐったりとした様子で明里さんが帰ってきた。
「お疲れ様、検査どうだった?」
明里さんの母親はベッドから立ち上がり明里さんに聞く。
「疲れたから明日でもいいでしょ?」
明里さんはすぐにベッドにダイブして寝転がってしまった。
僕が「お疲れ様」と声をかけると「ああ、いたの?」と素っ気ない返事を返されたくらいだから相当疲れているのだろう。
時刻を確認するともう夜の六時を過ぎていたし、今日は明里さんをゆっくり休ませてあげたかったので帰ると明里さんと明里さんの母親に伝える。
「わざわざ、検査終わるまで待っていてくれたのにごめんなさいね」
明里も謝りなさいという表情で彼女の母親は明里さんの方を見ている。
「うん、せっかく待っていてくれたのにごめんね」
「気にしなくていいよ、検査大変だったでしょ? ゆっくり休んで」
僕と彼女の母親が話していたように、恐らく明里さんと彩香さんの二重人格はかなり複雑だ。だったら検査が長引いて大変なことになるくらい容易に想像できるので全く責める気にはならない。
「また初詣の時にでもゆっくり話そうよ」
僕がそういうと明里さんは顔を赤らめてこくりと頷くだけだった。
僕がコートを着たりして帰り支度を済ませ、ドアを開けようとしたところでこの前のようにまた母親に止められる。
「今日はいろいろありがとね。佐々岡君と話せてよかったわ」
「こちらこそ、貴重なお話ありがとうございました。おかげで、もやもやしていた部分が少し晴れました」
今日は明里さん達の母親の方に一度向き直して一礼してから病院をあとにした。
第37話を読んでくださりありがとうございました。




