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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
35/73

第35話 富永さんの過去

第35話を読みに来ていただきありがとうございます。

「多分色々聞きたいことがあるでしょうけど、順番に話していくわ」

「事件が起こったのはあの子が幼稚園を卒業する少し前のことね。もう聞いているかもしれないけど、その頃は何をするにしても笑顔で、よく笑っていて、どちらかといえば今の明里の方が人格としては近かったと思う」


 それは確かに聞いた。逆にそれがあったからこそ最初の主人格がどれだったのかがわからなくなっているはずだ。

 口には出さずに僕は続きを促す。


「毎日元気に過ごしていたある日ね、あの子が四十一度の高熱を出したの。ちなみに人は四十二度を超える熱を出したら高確率で死ぬと言われている。とにかくそれくらい危険な状態だったから、あの子の父親は会社で大事な案件があったにもかかわらず早退して病院に向かってくれたの。そして、その途中に事故を起こして亡くなったわ」


 もう、聞いているだけでも辛い。僕が母親なら娘が死にそうな高熱にかかっていて、旦那が事故で亡くなったなんて聞かされたらもうパニックを通り越してショックで自分も死んでしまいそうなくらい酷いシナリオだ。


「それで私も何が何だかわからなくなって病院内で気絶しちゃったわ、まったく役立たずよね、私って」


 あはは、と笑っていたが見るに絶えなかった。そうとう無理していることは一目瞭然だ。まだ、そのショックから完全に立ち直れていないのだろう。


「それで私が意識を失っているうちに、あの子の方はどうにか持ち直してくれて熱は下がって、幸い後遺症とかも残らなかったからそれは良かったのだけれど……」

「けどそこから大きく動き出したの。まず事故のことを知らされたあの子はその前後の記憶がなくなったわ。そのときお医者様に『事故のことが原因でこうなったのはほぼ間違いないから思い出すまでは父親のことを言わないようにしてあげてください』て言われた」

「だから、父親とは離婚してそれ以来一度も会っていないということになっているの」


 なるほど、だから明里さん彩香さんに言ってはいけないのか。それは確かに教えない方がいいだろう、経験上無理やり思い出させたりしたら大変なことになる。


「それから間もなくだんだんとあの子の性格が暗くなってきたの」

「その時にすぐに病院へ行かなかったのですか?」


 僕は率直に聞いてみる。


「ええ、まさか二重人格だなんて思わなかったし。それにこういう年ごろの子って、ちょっとした出来事で結構性格が変化したりするものなのよ。ああいうことがあったし記憶になくても無意識にそうなったのかなって、そのときは思ったの」

 

 まあ、ごもっともだ。二重人格なんてほとんどテレビや小説のネタであって、現実にそんなことが起こると知らない人もいそうなくらい、信じがたい物だし。


「それから二年後くらいかしらね、またあの子が急に明るくなったりしたのよ。そこでこれは流石におかしいと思って病院に連れて行ったら『解離性人格障害(かいりせいじんかくしょうがい)』すなわち二重人格と診断されたの」


 なんとなくわかった。だから誰が主人格なのかがはっきりしないのか。最初に二重人格の症状が起きたのがいつなのかが分からないから。

 

「とりあえず私が知っていることはこれくらいね。何か参考になればいいのだけれど」


 彼女たちの母親の話は終わったようなので自分の頭を整理するためにも今現時点での推測を話してみることにする。

第35話を読んでいただきありがとうございました。

余談ですが、解離性人格障害は実在する病気です。なるのは極めて稀ですけど、小さい頃とかに親から虐待を受けていたりすると、自分を守るために別の人格を生み出したりすることが本当にあるそうです。



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