第32話 富永(母)との対面
第32話を読みに来ていただきありがとうございます。
「あー、入院て体が悪くないとやることないからほんと退屈!」
帰る前にせっかくだから最後に明里に挨拶して帰ってあげて、と彩香さんが気を利かせてくれたので今は明里さんが出ている。
「検査なんだから仕方ないよ。今は我慢して二重人格の問題と向き合いなよ」
明里さんがあまりにもむっとした顔をしているので、困ったなと少し考えた後に僕はある誘いを思いついた。
「そうだ、無事検査が終わって退院したら一緒に初詣に行こうよ」
「ほんとに?」
明里さんの表情がパッと明るくなる。あれ、明里さんてこんなに単純なひとだったっけ?
「うん、明里さんも思い出作りしたいって言ってたし、年明けて一つ目の思い出作りをしよう」
「わかった! 約束したからね。約束破ったらただじゃ済まさないから!」
「うん、その代わりちゃんと検査受けてよ」
それじゃあまた来るよと言って帰ろうとしたところで病室のドアがノックされた。
「はーい」
明里さんが返答すると誰かが病室に入ってくる。
「彩香いる? あ、今は明里か。お母さんそろそろ帰るから……あら、ごめんなさい。お客さんかしら?」
どうやら明里さんのお母さんのようだ。何か連絡があったのだろうけど僕がいることに気づいて言うのをやめたらしい。
「うん、同じクラスの佐々岡英一君」
明里さんに紹介されたので僕は軽く頭を下げる。
「あら、そうなのね。もしかしてお母さんお邪魔だったかしら?」
明里さんの母親はニタニタしながら話している。
「あの、僕丁度帰るところだったので。あとは家族で楽しく会話してください!」
もともと帰るつもりだったし、病院にも面会時間というのが決まっているだろうから、残りの時間は明里さんのお母さんに譲ることにした。
「あ、待って佐々岡くん」
帰ろうとドアを開けたところで呼び止められた。
「彩香、自分が二重人格だということは学校では隠していると言っていたから。今回の入院のことは誰にも話してないと思っていたの。でも佐々岡くんがお見舞いに来ているってことは佐々岡くんは彩香たちの事情を知っているのでしょう?」
なるほど、ばれたら問題があるわけではないけど、ここに来たら確かにそのことはすぐに分かってしまうな。
「二人を支えてくれてありがとうね。よければこれからも彩香と明里のことを支えてあげて」
彼女の母親は、柔らかな微笑みを見せてそう言った。
僕は心からのやさしい感謝の言葉に泣きそうになり、顔を見られたくなかったので「また来ます」とだけ言い残して病院を後にした。
その日の夜、僕はまた夢を見た。
例にもよって、ほとんど夢の内容は覚えていないが、女の子が何かを必死に訴えていたことだけは微かに覚えている。でも毎回のことだがその何かの部分が起きたらいつも忘れている。
今日は十二月二十九日。世間は年明けが近づいてきたせいか慌ただしく感じる。
僕は昨日病院で彩香さんに言われたころを頭の中で整理している。本当は昨日のうちにやっておきたかったが、あまりにも頭が混乱していたので諦めて寝ることにしたのだ。
昨日彩香さんに言われたことをひとつずつ思い出していき、午前中の時間を全て使ってようやく少しずつ整理出来始めた。
まず、昨日の話で一番大事だったところは、彼女たち自身も自分たちの二重人格について正確に把握しきれていないという点だろう。
本来なら主人格がいて、それを支える副人格がいる。大体は副人格が主人格のサポートをするなどして主人格の精神を壊さないように丁重に扱っていることが多い。僕と真二も正にこのケースだ。
しかし、彼女たちの場合はどっちが主人格でどっちが副人格なのかすらもわかっていないらしい。たまたま医者に二重人格と診断されたとき、メインで出ていたのが彩香さんだったから、とりあえず主人格は彩香さんということになっているらしい。しかし実際は明里さんかもしれないし、僕がまだ会ったこともない第三の人格の人ということもあり得るとか。
この部分の詳細がわからないとはっきり言って手詰まりだろう。明里さん彩香さんだってどっちが残るべきかはどちらが主人格なのかによっても考え方は変わってくるだろうし。
人格が一つに戻るとき、主人格と副人格がはっきりわかっているなら恐らくは主人格が残ることになるだろうなと何となく思う。けれど、このままだとまずそこにも辿り着けない。
いずれにしても明日、もう一度見舞いに行ってみよう。もう少し詳しいことも聞いてみたいし。
一瞬今から行こうかと考えたが今から準備して行ったら病院に着く頃は夕方になり、ほとんど話せないだろうということでやめにした。
第32話を読んでくださりありがとうございました。
実は今日でちょうど連載一か月になります。体感ではそんなにやっているイメージがないんですが月日が流れるのってあっという間なんですね(笑)




