第31話 明里と彩香
第31話を読みに来ていただきありがとございます。
「それで話って?」
僕が椅子に座りながらそう聞いた。
「前に明里が二重人格でまだ話してないことがあるって言っていたでしょ?」
「あー、うん」
確かにそれは以前明里さんから聞いている。あれは旅行初日の肝試し大会で二人きりになったときだっただろうか。そのときに『別の機会で必ず話す』と言われてそれっきりとなっている。
「ここを逃したらしばらく話す機会がなくなるから話しておこうと思って」
彩香さんは妙に視線をキョロキョロと動かしてそう言った。
「あ、別に明里に代わって直接明里から話してもらうことも出来るけどどうする?」
少し考えたが彩香さん視点で話を聞けたらまた別のことがわかるかもしれないからこのままでいいと言った。
「以前英一さんはこう言ったでしょ」
『たまたま物心がついたときに形成されたのが彩香さんだっただけ。もし、何かしら違う出来事が起きてたら、例えば苦労することなく普通に友達が出来てたりなどしたらきっと主人格は明里さんになっていたはず』
たしかに言った覚えはある。今でもその考えが間違いだとは思っていない。
「あれね、ほとんど正解なの」
「どういうこと?」
僕が聞くと彩香さんはすぐに分かりやすく話してくれた。
「実は人格が別れる直前、確かに性格は私、彩香に限りなく近かった。けれどそれより幼いもっと前の頃、どちらかといえば明里に近かったの」
「え、そうなの?」
これは初耳だ。もし、最初にいた人格が明里さんだったなら本当は明里さんが主人格だった可能性があるのか? それならいろいろ大きく話が変わってくることになるけど……。
僕は少し混乱していたが構わず彩香さんは続ける。
「うん、それで私の記憶にはないんだけど、何か大きな問題が起きて、それが多分原因で今の私みたいな性格に急に変わった。そのあとはずっと前に明里が話していた通り、私が無意識のうちに明里を作りだした感じ」
なるほど、でもそれだと肝心なところが抜けている。
「その大きな問題は二人とも覚えていないの?」
「うん。多分それが私たちの誕生に大きく影響しているのは間違いないんだろうけど、その前後の記憶だけ抜け落ちているの」
部分的な記憶喪失か。それなら彩香さんの言う通りそこが二人の人格に大きな影響を与えたとこにほぼ間違いないだろう。
なぜなら僕は幼い頃に両親を亡くしている。それは今一緒に住んでいる祖母から聞いたことであって僕の記憶ではない。僕も両親が亡くなる前後の記憶が抜け落ちているのだ。つまり二重人格になるきっかけとなった耐えがたい出来事は覚えていない可能性が高い。多分、僕の方は真二が意図的にやったことだと思うけど、彼女たちの場合は無意識にやったのだろう。
「それで話を戻すけど、その大きな問題がなかったら、そのまま明里の性格のまま今ここにいるかもしれないし、何も変わらないまま私が普通に今まで通りいたのかもしれない」
「本当のところどっちが主人格なのかわからないって、お医者さんにも言われているんだ。下手したら私たち以外の人格がいて、その人が主人格なんだけどその大きな問題が原因でずっと殻に閉じこもって出てきてない、というのも一つの可能性としてあり得るんだって」
段々と頭が混乱していた。つまりどういうことなんだ?
「えっと、ちょっと混乱しててよくわからないけどつまり主人格は明里さん、彩香さん、そしてまだ僕が会ったこともない誰かさんの三つの可能性があるってこと?」
「うん、大雑把にまとめたらそういうことになるかな」
「実際のところ私たちも自分自身のことを正確に把握できてないの」
彩香さんが一呼吸挟んでからまた話し出す。
「だから英一さんが言っていた『たまたま物心が付いたときに形成されたのが彩香さんだっただけ』というのはほとんど合ってるし、『明里さんが主人格として残る権利もある』というのも正論なの」
訳がわからず僕が返答出来ずにいると、少し時間が経った後に先に彩香さんが口を開いた。
「混乱させちゃったね、ごめん。もう今日は遅いし一度家に帰ってゆっくり考えてみて?」
そう言われて外を見るといつの間にか太陽は沈んでいて真っ暗だった。その後時計を確認すると時刻は十九時を指している。
「あ、もうこんな時間なんだ。そうだね、ちょっと混乱してるし一度家に帰ってから風呂にでも入りながらゆっくり考えてみるよ」
「うん、そうして。混乱するのは当然だもの。だって私たちでさえはっきりとしたことは分かってないんだから」
彩香さんは苦笑いを浮かべながら僕にそう言った。
第31話をよんでいただきありがとうございました。




