第30話 お見舞い
第30話を読みに来ていただきありがとうございます。
三十分後、無事病院に着いたが大きな問題が発生してしまった。
よくよく考えたら、僕は明里さんの病室がどこなのか知らない。病院は以前ちらっと彼女が言っていたのをたまたま覚えていたが、病室までは聞いていない。
総合受付に行けば教えてくれるのだろうか。ここで立ち止まっていても仕方がないのでとりあえず総合受付と書いているところへ行ってみることにする。
「すみません、ここに入院している富永さんってどこの病室か教えてもらうことってできますか?」
「富永様ですね、少しお待ちしてください」
どうやら教えてくれるようだ。まあ、だめだったら最終手段として明里さんに直接聞くつもりだったがせっかく来たなら黙って病室まで行って驚かせてやりたいと考えていた。
「申し訳ございません。現在富永様は二名入院されておられてよろしければ下の名前も教えていただけますでしょうか?」
「富永あか……いえ、富永彩香さんです」
危ない危ない。いつもの癖で明里さんと言いそうになったが彼女の本名は彩香さんだった。もし明里さんって言ったらそんな人はいないって言われるところだった。
無事明里さんの病室を教えてもらうことに成功し、病室の前まで来た。
勢いでここまで来てしまったが、来て欲しいとも言われていないのにいきなりお見舞いに来て引かれたりしないだろうか……。
僕は一瞬戸惑ったが、もうここまできて帰るわけにもいかないと決心してノックした。
「はい」
僕はゆっくり扉をあけて中に入った。中には明里さん以外誰もおらず、どうやら個室病棟らしい。
「あれ? 英一君わざわざ来てくれたの?」
明里さんは目を大きく見開き、驚いた表情を浮かべている。
「うん、僕も暇だったし、あのままメッセージでずっとやりとりするのもめんどくさいだろうし来たよ」
「ありがとう。来てくれるなんて思っていなかったから嬉しい」
そう言って、にっこりと笑ってくれた。こうやって見ると、やはり美しい。僕が一目惚れしただけのことはある。それに、僕の勝手なイメージだと、入院してたら身だしなみとか適当になりがちだけど、明里さんはそこもしっかりとしていた。服装こそ病室だからパジャマだけど、それ以外は完璧に決めている。普段からそういうのに気をつけているからこういうところでも出来るんだろうなと思った。
「あ、これお見舞いの花」
僕は手に持っていた赤、白、オレンジのガーベラを明里さんに見せた。
それを見た明里さんは嬉しそうな表情を浮かべた。
「これはガーベラよね? 三本てことは英一君私のこと好きなの?」
???
言っている意味がよくわからない。何でそういうことになるんだ?
「えっと、どういうこと?」
僕が不思議そうに尋ねると明里さんはクスっと笑って答えた。
「ガーベラはね、本数で花言葉の意味が変わるのよ。三本だと『あなたを愛しています』て意味があるの」
「え? そうなの?」
あの店員さん、そんなこと一言も教えてくれなかったじゃないか。いや、まてよ。そういえば会計しているとき不自然なほどニヤニヤしてたな。あの人三本にそういう意味があるって知っていたのにわざと黙ってたな。
「知らずに買ってきたの? ちょっと嬉しかったのに残念」
「あはは、色ごとに花言葉は違うっていうのは花屋で教えてもらったんだけど本数の意味は教えてくれなかったよ」
僕は正直にそう言うことにした。
「ということは赤が『燃える神秘の愛』ということを知ってて買ったってことよね? そんなに直接愛情表現されたら照れちゃうよー」
明里さんはわざとらしくにやけてそう言う。
「違う、違う。僕は『限りなき挑戦』の意味で買ったんだ!」
「えー、ほんとかなー。私に愛を伝えたかったんじゃないの~?」
「はあ、もうそれでいいよ」
だんだん否定するのも疲れてきた。まあ、明里さんに好意があるのは事実だし、別にいいだろう。
「でもありがとう、ありがたく受け取っておくわ」
明里さんは嬉しそうにそう言って三本のガーベラを受け取ってくれた。
「あ、花瓶なら僕が取るよ」
明里さんが立ち上がって花瓶を取ろうとしていたので僕がそれを制止する。
「大丈夫、何か勘違いしているみたいだけど、入院してるからって別に体が悪いわけじゃないのよ?」
「あ、うん」
確かに『入院している=体が悪い』っていうイメージがありすぎてついそう言ってしまったが、よく考えたら明里さんは二重人格の検査をするだけで体は健康だった。
「わかればいいのよ。それに本当にやることなくて暇なのよね」
そう言って明里さんは嬉しそうに鼻歌を歌いながら透明な花瓶に水を入れて僕が持ってきたガーベラをその中に入れた。
「私、ガーベラって結構好きなの」
花瓶に入ったガーベラを日当たりの良い窓際に置いて明里さんはそう言った。
「花自体も綺麗だし。花言葉も『希望』とか『前進』という意味があるでしょ? だからこれをプレゼントされると幸せだろうなとか密かに思っていたの」
「また英一君は私の望みを叶えてくれた。英一君はいつも私が欲しいものを欲しいときにくれるね。ほんといつもありがとう」
照れているのか、明里さんはそのままガーベラを見つめたままそう言った。
「たまには私もお返ししたいな」
明里さんがこちらに向き直してそう言う。
「別にいいよ、明里さんが残ってくれるだけできっと僕にとっては最高のプレゼントになるし」
僕は本気でそう思っていた。お返しなんていらない。彼女から何かをしてほしいわけでもない。ただ一つ、最後に明里さんが残ってくれればそれだけで良いと僕は思っている。
「……うん、それは保証出来ないけど出来るだけ頑張ってみるよ!」
途中不自然な間が空いたが明里さんは元気にそう答えた。
「でも、明里さんがこんなに花のこと詳しいとは知らなかったよ」
普段過ごしていてもあまり花に興味のある仕草なんて全然なかったから予想外だった。
「……」
「ん? 明里さん?」
急に明里さんは喋らなくなった。今の一言で怒らせてしまっただろうか。
「あ、ごめん。入れ替わった」
次に口を開いたのは明里さんではなく彩香さんだった。
また不自然な入れ替わりか。一ヵ月くらい前は週に数回程度だったが、最近は一日に一回くらいのペースで見かけている気がする。
「また不自然な入れ替わり? 最近特に増えてない?」
「ええ、まあそのための検査だしね」
それもそうかと僕は思う。
「どうする? また明里に代わることも出来るけど」
「いや、そのままでいいよ」
何となく用事もないのに何度も入れ替わるのは良くない気がしたからそう答えた。
「そっちこそ真二と話す?」
多分彩香さんは僕と話すより真二と話せた方が嬉しいだろう。しかし意外にもその提案は断られた。
「いや、いいわ。それより話したいことがあるの」
彩香さんは一度病室のベッドに腰掛けてそう言いだす。
「あ、その前にそこに椅子があるから座って。結構長話になると思うし」
促されるまま僕はその椅子に腰掛けた。
第30話を読んでいただきありがとうございました。
『私の中に私たちはいる』を読んでくれている皆様のおかげで、無事30話も迎えることが出来ました! この前PVも1000を突破し、徐々にブックマーク数も増えてきて嬉しい限りです。本当にいつもありがとうございます。感謝してもしきれません。
今後のモチベにもなりますのでまだブックマークや評価をしてないよって方は是非よろしくお願いします!




