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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第28話 夜空から舞い降りた雪

第28話を読みに来ていただきありがとうございます。

 あれから十分くらい歩いただろうか。明里さんは足を止めることなく、どこかに向かっているが、それがどこなのか全然わからない。


「ねえ、いったいどこに向かっているの? このままだと入口に着いちゃうよ。もしかして帰るつもり?」

「これから楽しいところなのに帰るわけないじゃない」

「じゃあ、一体どこに向かってるの? この先に何かあったっけ?」

「ふふっ、それは着いてからのお楽しみよ」


 明里さんはずっとこんな調子で、どこに向かっていて、そこに何があるのか一向に教えてくれない。

 まあ、表情を見る限りでは全然面白くないって感じではしていないから、それは良かったけど……。

 僕がそんなことを考えて歩いていると突然明里さんは足を止めた。


「着いたわよ。ほら、あっちの方見てみて」


 明里さんに言われるまま指をさされた方向を見てみる。


「わあ!」


 思わず声が漏れてしまうほど綺麗なクリスマスのイルミネーションがそこにはあった。

 真ん中にあるクリスマスツリーを筆頭に左右にある木が金色に輝いている。しかもここからそのツリーに向かう道が青く光っていて、ところどころにサンタクロースやトナカイ、この遊園地のマスコットキャラクターの置物が赤、青、緑、黄色とそれぞれ違う色で光っている。そして極めつけはメインであるクリスマスツリーだ。雪をイメージさせたいのか青白く光っており、そのてっぺんにある星は赤、青、緑、黄色と交互に光っている。

 もはや、長く見つめていたら目がおかしくなるんじゃないか、というくらいどこを見てもギラギラと綺麗に輝いていた。


「私ね、小さい頃ここに来たことあるの」


 明里さんがクリスマスツリーの方を見ながら話し出す。


「そのときもたまたまクリスマス前で人が大勢いて、今日みたいにほとんどアトラクションも乗れなかったの」

「家族皆がっかりして『帰ろうか』ってなって、たまたま入口付近のこの場所に来たの」

「そのときこの景色をみて、一瞬で悲しい気持ちが吹っ飛んだわ。もうどこを見ても綺麗に光っているイルミネーションを見て、これを見るだけでもこの遊園地に来たかいがあったって当時思った」


 明里さんはイルミネーションを見ながら楽しそうに当時の思い出を話している。

 あまりにも嬉しそうな表情を浮かべているので、僕もイルミネーションを見ながら明里さんの話を聞くことにした。


「その時、またここに来て、この綺麗なイルミネーションを誰かと一緒に見たい。その誰かが私の大切な人だったらいいなとか考えていた記憶があるわ」

「でも、どこの遊園地だったかを忘れてしまってたの。小さい頃に一度行ったっきりだったから。あまり鮮明に覚えている訳じゃないし、親に聞いても『綺麗なイルミネーションがあったのは覚えているけど、それがどこの遊園地だったかまでは覚えていない』って言われてあんなに綺麗な景色だったのにもう二度と見れないのかなってショックを受けたわ」

「今日もね、最初ここに来るって言われたときは『その場所』だってこと知らなかったの」

「でも、入口付近を見た時にピンときた。ここで間違いない。ここがあの綺麗なイルミネーションがあった場所だってね」


 そうか、だからあの時明里さんはあんなに大勢の人がいて、ほとんどアトラクションを回れないことをわかっていたにもかかわらず入りたがっていたのか。もう一度、このイルミネーションを見るために。


「だから、ありがとう英一君。この遊園地を選んでくれて。ここに連れてきてくれて」

「あの時考えた大切なひとが英一君かどうかはわからないけど。またこんなにも綺麗なイルミネーションを見ることが出来た。大切な思い出作りが出来ました」


 明里さんは本気の感謝を僕にしてくれている。僕はそのとき一瞬考えた。ここで想いを伝えてしまおうかと。

 今なら口に出しさえすれば間違いなく僕の想いは伝わるだろう。

 でもなぜだかそんな気分にはなれなかった。彼女に想いを伝えるのは、僕自身の問題が片付いてからと決めていたし、何よりこの空気に水を差したくなかった。

 でも、これくらいのことなら許されるだろう。僕は右手をそっと明里さんの左手に添えた。

 明里さんは驚いた表情をしていたが、すぐに頬を赤らめながらにっこりと笑い、手に力を込めて再びイルミネーションの方へ顔を向けた。

 そのまま僕たちは閉園時間まで手を繋ぎながらイルミネーションを眺めていた。気付いたら白い塊りがふわりふわりと舞い降りていた。


第28話をよんでいただきありがとうございました。


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