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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第26話 明里さんからのお願い

第26話を読みに来ていただきありがとうございます。



 一週間後、もう十一月も後半にさしかかり、いよいよ本格的に寒くなってきた。すれ違う人もコートを着ている人が増えてきている気がする。そのようなことを考えながら僕は先週と同じ喫茶店に向かっている。


 今日は明里さんの番だ。僕が喫茶店に到着したとき彼女は既に来ており「こっちだよ」と手を振って合図してくれた。


「私、入院することになった」

「えっ……」


 到着と同時にかけられた言葉に僕は言葉を失う。


「あ、違う違う。体が悪いとかそういうのではなくて、二重人格の検査があるから入院するだけ」


 僕の驚いた表情を見て察したのか、明里さんは慌ててそう付け加えた。


「あー、びっくりした。そういうことね」


 少しホッとした。いきなり入院すると言われて頭が真っ白になるところだった。


「それでいつから入院するの?」


 僕がそう尋ねたら「十二月の冬休みに入ってから」と言われた。


「最近、ちょっと様子が変なの。意図していないところで勝手に人格が入れ替わったりしたりね」

「ああ、そういえば最近何度もそういうことあったね」


 そうなの、とコーヒーを一口飲みながら明里さんは返答する。


「もうすぐ冬休みにも入るし、一度本格的に検査しておこうってことになったの」

「なるほど」


 僕もコーヒーを一口流し込みながら考える。

 確かに、最近明里さんと彩香さんは頻繁に入れ替わっている。入れ替わり自体に問題はないけど、たまにここで入れ替わるの? という不自然なタイミングで入れ替わっている場面を僕は何度か目撃していた。

 僕が気になっていたくらいだから、それ以上に彼女達もそのことについて気にしていたのだろう。確かにそれなら冬休みを使って検査するのは良いアイディアだ。そのタイミングなら学校を休むこともないし、友達にも最近忙しいからとでも言っておけばやり過ごせる。


「うん、それで?」

「え?」


 僕がそう尋ねると明里さんは不思議そうな表情で返された。


「わざわざ僕だけ呼び出してそれを伝えるということは、何か他にもあるんじゃない?」


 恐らく僕の考えは当たっている。ただ病院で検査を受けるだけなら学校で二人になったときに言えばいいし、何なら事後報告でも問題ないはずだ。だけどあえて僕をこの喫茶店に呼び出し、秘密の話をしたいということは他にも何かしらあるんじゃないかと思ってしまう。そして僕のその予想は当たっていた。


「察しが良いじゃない、話が早くて助かるわ」


 明里さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべてそう言った。


「実はお願いがあるの」

「そうだと思ったよ、でそのお願いって?」


 僕は少し勝ち誇った顔を浮かべてそう尋ねた。


「私十二月二十七日から一月三日までの約一週間入院することになっているの」

「その期間中に何かやってほしいとか?」


 ブーっといって彼女は口を丸くしている。


「そこは年末年始で、英一君もいろいろ忙しいと思うから何も頼まないよ」


 明里さんはそう言っているが、僕は別に大した用事はないから問題ないけど。言おうかと思ったが今は彼女のお願いとやらを黙って聞くことにした。


「冬休みの間ずっと入院してたら、つまらないでしょ?」


 なるほど、大体言いたいことは分かった。彼女の頬が徐々に赤色になっていく。


「だからその、英一君さえよければ入院する前にどっか遊びに行きたいなって…………二人で」


 最後に聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で"二人で"と明里さんは言った。

 まさか、明里さんの方から、こういう誘いがあるとは思っていなかったな。ちょっと嬉しい。


「うん、特に予定もないしいいよ」


 凄く冷静に返答してあげたが、僕の心の中はトランポリンが設置されているのかと疑いたくなるほど飛び跳ねて喜んでいた。

 ん? 待てよ……。これってひょっとしてデートの誘いってことになるのか?

 意識した瞬間僕の顔は真っ赤になっていた。


「あれ~? さっきまで凄いクールに答えてたくせに顔真っ赤だよ? 恥ずかし~」


 僕が顔を隠す前に明里さんに見られてしまった、本当に恥ずかしい……。


「ま、まあともかく退院したら検査の結果教えてね」


 とても恥ずかしかったので、話を強引に本題に戻した。


「はいはい、デート楽しみにしていますね」


 言った! ついに明里さんは『デート』とはっきり言ってしまった! ってそうじゃないだろ僕! いったん落ち着け。そうだ、コーヒーを飲んで落ち着こう。

 僕がカップに手を伸ばしたところで彼女に「さっき全部飲んでたじゃない」と言われてしまった。


「ちょっと流石に動揺しすぎじゃない?」


 明里さんは僕の方を見て、げらげらと笑っている。もう、僕の方は混乱してまともな判断が出来なくなってしまった。


「冗談よ、そこまで露骨に面白い反応を見せてくれるとは思ってもいなかったわ」


 明里さんはまだ笑っている。僕は不覚にもむっとした表情を浮かべてしまった。


「あれ? もしかして怒ってる?」

「別に」と僕は外の景色を眺めながら返す。


 そこから彼女は急に真剣な表情に変わり、話始める。


「まあ、冗談はともかく、人格が少しでも安定しているうちにいろいろ思い出作りしておきたいんだよね……」


 そっか、人格が安定しないってそういう不都合も起こるのか。たしかに二人きりで思い出作りしているときにいきなり彩香さんが出てきたりすると、想像しただけでもお互い気まずい。

 今後この不自然な入れ替わりの頻度が増える可能性があることを考えると、確かに思い出作り出来るうちにしておいた方がいいかもしれない。それに不自然な入れ替わりがなかったとしても、そのうち明里さんか彩香さんのどちらかが間違いなく消えることになる。するなら確かに早い方がいい。


「わかった。思い出作りに協力するよ」


 そういうことなら協力しないわけにはいかない。それに、恐らく明里さんがデートの気分でいるのは本当なんだろう。明里さんが明里さんでいられるうちに僕とデートしたいと思ったんじゃないかと思う。まあ、僕の考えすぎかもしれないけど。

第26話を読んでいただきありがとうございました。


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