第17話 ミニ旅行(肝試し2)
第17話を読んでいただきありがとうございます。
それから数分沈黙が続き、明里さんが小さな声で呟いた。
「私にも残る権利はあるのかな」
「あるよ。一つ疑問に思って、考えていたことがあるんだ。なぜ僕と真二は記憶を共有できないのに明里さんと彩香さんはできるのか」
これは明里さんから記憶を共有できると聞いてからずっと不思議に思っていたことの一つだ。
大体複数の人格を持つ場合、幼い頃の精神的ストレスに耐えきれなくなって形成されるケースが多いと聞く。大人になってから分かれることもあるらしいが、それは極めて稀な事例だそうだ。
かという僕も幼い頃に精神的ストレスに耐えきれなくなって、自分を守るために真二が誕生した部類だ。精神的にきつくなった時、真二に代わってもらい、その後いろいろと処理してくれる。だけどそのとき真二の記憶が僕に流れこんできたら不都合が生じてしまうことがあるだろう。
たとえば僕が見たくない光景を真二に任せたときに記憶を共有してしまったら、結局僕もその光景を見たことと変わらない。しかしまた、僕の記憶が真二にない場合、出てきても何をすれば解決するかもわからなくなる。だから僕の記憶は真二にはあるし、真二の記憶は僕にはない。このことは考えずともなんとなく理解していた。
ではなぜ彼女たちはお互いの記憶を共有しているのか。
「これはあくまでも僕の推測だけど、記憶を共有することで特に不都合がないからじゃないかな」
「どういうこと?」
「例えば僕が真二の記憶を共有してしまったらいろいろ問題が起こるんだ」
明里さんは少し考えたあとに「あっ!」と声を出して答えた。
「もし英一君が真二君の記憶を持っていたら、真二君が英一君の精神を守るために出てきても意味ないから?」
「そう、だから僕は真二の記憶を共有してはならないんだ」
「そして、明里さん達が記憶を共有しているのは、その必要がないから。むしろ彩香さんは友達が欲しいからという理由で明里さんを作り出したなら、共有出来ないと逆に不都合が生じる」
彼女はよくわからないと言いたげにこちらを見ている。
「うーん、一度に話しても混乱するだろうし僕の考えを簡潔に話すよ」
恐らくそろそろ折り返し地点だろうし、ここらでこの話は切り上げた方がいいだろう。
「つまりね、彩香さんは友達が欲しいから明里さんを作り出した。でもこの発想自体がそもそも間違っていて。たまたまそのとき彩香さんが主人格を形成してたから、明里さんが副人格として出てきただけで、本当のところ主人格はどちらでもよかった。だから僕みたいに主人格の精神を助ける目的で誕生したわけではないから記憶を共有しているし、いつでも好きなタイミングで二人は入れ替わることができる。」
「つ、つまり?」
「もし、人格を一つに統合させようとするなら、必ずしも彩香さんが残るとは限らないってことじゃないかな」
「......」
「明里さん?」
そこから明里さんは急に黙ってしまった。もしかして余計なお世話だったかな。二重人格は本人たちの問題だし、やはり僕が横から口にだすことではなかったかもしれない。だとすれば謝っておいた方がいいと思って口を開こうとした瞬間彼女の方を見ると彼女はかすかに笑っていた。
「えっと、なんかおかしかったかな?」
「ふふふ、違うの。おかしいんじゃなくて嬉しいの」
今の話の何が嬉しいのだろう? 理解が追いつかない。
「当たってるよ」
「え?」
「その推測、半分以上当たってるよ」
「そうなの?」
正直驚いた。どちらかというと推測というよりこうであってほしいという願望が半分くらい入っていたんだけど。
「うん、それに一度しか話してない情報をそこまで覚えてくれているなんて、それだけ私のことを気にかけていてくれたんだね。だから嬉しい。」
しまった、僕の明里さんへの好意は出来るだけ伝えないようにしていたけど、こんなに彼女の情報をペラペラ喋っていたら好きですと言っているようなものじゃないか。
しかし、以外にもそのことには一切触れず、明里さんはこれからのことを話し始める。そうだ、これは真面目な話だ。普段は茶化し合ったりしているけど、こんな状況でふざけた言葉を挟むわけがない。
「もうすぐ折り返し地点ね。今この場で答え合わせをしたかったんだけど、そうもいかないみたい。私の二重人格についてはまだ話してない部分があるの。でも今からそれを話している時間はなさそうだからまた別の機会で必ず教えるわ。約束する」
折り返し地点に到着したら真二と彩香さんに交代すると決めていた。まあ、仕方がない。ここまで話せただけでも十分だろう。
「英一君がお願いしたとおり、これから人格が統一されるまでは私も自分が消えるからなんて悲観的なことは言わずに今まで通り過ごすわ」
うん、それがいい。僕の想いが少しでも彼女に伝わってよかった。
「でも、これだけは覚悟しておいて」
「今まで私も彩香もどちらかというと負の感情で動いていた。お互いに私が消えるべきだとか、私が残る必要はないとか」
明里さんの言葉がより一層力を込められており真剣なことがわかる。
「でも、お互いが残りたいと主張し始めたら二重人格の均衡が崩れてほぼ間違いなくどちらかが消えることになるわ。その先は私にもわからない。私が残るのか、彩香が残るのか。どちらが残るのかは運になるかもしれないし、より想いが強いほうが残るのかもしれない。だからいつどうなっても構わない準備と覚悟だけは持っておいて」
今まで見たことがない真剣な眼差しで僕の方を見ながら話している。
準備と覚悟か……。それは僕が一つの人格になるためにも必要なものでもある。これくらい乗り越えられないと僕の人格の統一はまだまだ先になってしまうだろう。
「……わかった。」
それに冷静に考えていれば確かに当たり前のことだ。今まで二人とも残ることに興味がなかったからとくに進展はなかった。だけどお互いが残ると主張しだしたら、もちろん体は一つしかないのだから残れるのは一人だけ。残れなかった方は自動的に排除されるに決まっている。椅子取りゲームで残り一席を二人で争うイメージだろう。
「きゃー!」
そのとき僕らより前を進んでいる人から悲鳴が聞こえた。
「え? 何? 何かあったの?」
「わからないけど、やっぱり脅かし役がいたのかも」
今まで、暗い道を歩いていただけで、不自然なほどに何も出てきていなかった。これでも肝試しだと言い張れば肝試しなんだろうけど流石に物足りなさすぎていた。
「とにかく急に出てきて驚かせてくるかもしれないからここからは少し警戒して進もう」
「そ、そうね」
警戒しながら進んで一分くらいが過ぎたころ、最初の目的にあった札が見えてきた。僕は内心ラッキーだと思った。なぜなら札を取ったところで真二と交代することになっているからだ。まだ何か出てくる様子はないし、悪いけど怖い思いをするのは真二に任せよう。
第17話を読んでいただきありがとうございました。




