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私の中に私たちはいる  作者: µ(ミュー)
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第16話 ミニ旅行(肝試し開始)

第16話を読みにきていただきありがとうございます。

 さて、ということで明里さんと二人で暗い道を歩くことになった。一応ペアは公平にくじ引きで決めたということになってはいるが、実際は事前に明里さんと相談し、いかさまをして必ず僕と明里さんがペアになるようにしておいた。


「それにしても暗いわね」


 手渡された懐中電灯を足元に照らしながら転ばないように歩いているが、それだけだとまだ暗い。


「これ、企画している人がお化けに変装して驚かしに来るとかあるのかしら?」

「どうだろ、周りから悲鳴が聞こえてきてないし現時点ではなさそうだけど」

 

 ペアを組んだ人は前の組が出発してから五分後に出発するというルールがある。けれどそれだと先に進んでいる人から悲鳴が聞こえてきそうだが、今のところそのような気配はない。

 でも、どこかで何かの仕掛けが用意されている可能性は十分にありうる。懐中電灯がなかったら真っ暗で何も見えないし、足元ばかりを照らしてたらいきなり両サイドから驚かしにくるとか普通にありそう。

 僕も明里さんもしばらく緊張しながら歩いていたが、何も出てこないので少しずつ緊張が解けてきた。そんなタイミングでちょうど明里さんが話しかけてきた。


「あのさ、ちょっと彩香について話があるんだ」


 いつもより緊張しているのか、の声のトーンが少し低い。


「うん、わかってる。僕もその話をしようと思ってた」

「この前話した、彩香さんとも仲良くなって欲しいというやつ、僕でいいなら協力するよ」

「え? 本当にいいの?」


 予想外の返答だったのか彼女は目を丸くして僕の方を見ている。

 そもそもあのときは取り乱して変な態度をとってしまったけど、もともとはそのお願いを受けるつもりではいたんだ。


「うん、明里さんが言いたいこともわかるし。それで彩香さんの友達が増えるなら喜んで協力するよ」

「ありがとう!」


 明里さんが声をあげて歓喜している。

 その姿を見て僕はそこまで喜ぶことかな、と思ってしまった。


「その代わり、約束してほしいことがあるんだ」


 言うかどうか迷ったけど、ここで言い逃したら二度と伝えるチャンスがなくなるんじゃないかと思い自分の考えを伝えることにした。


「人格が一つになるまでは明里さんも今まで通り過ごして欲しい」


 明里さんは何を言いたいのか分かってなさそうな反応をいている。


「最終的に彩香さんが残るべきだという明里さんの意見は分かるよ。でも、だからといって明里さんが消えるべきだと僕は思わない」

「彩香さんが主人格だから本物として、じゃあ今の明里さんは何なの? 彩香さんが本物だから残るべきというなら、明里さんは偽物なの?」


 明里さんは目を伏せたまま口を開こうとしないので僕はそのまま言葉を繋げる。


「僕はそれも違うと思ってる。あれからずっと一人で考えていたけど、やっぱり明里さんも本物だよ。こんなに喜怒哀楽がある明里さんが偽物のはずがない。もともと彩香さんが主人格だったからとか、後から明里さんが出たから副人格だとか、そんなの関係ないよ。たまたま物心がついたときに形成されたのが彩香さんだっただけ。もし、何かしら違う出来事が起きてたら、例えば苦労することなく普通に友達が出来てたりなどしたら、きっと主人格は明里さんになっていたはず。」


 明里さんは口を開こうとしない。僕が一通り話し終わるまで待ってくれる気なんだろう。


「だから、そこには本物とか偽物だとかはないよ。更に言うならここから一つの人格に戻るなら明里さんにだって主人格になる権利が絶対にあるはずだよ」


 そうさ、明里さんだって残る権利はある。副人格だからというだけで、残る争いのスタートラインにすら立てないなんておかしいさ。

 これは決して僕が明里さんのことを好いているからという理由だけではない。もちろんそれもあるけど、それ以上に明里さんと彩香さん両方に自分自身が残りたいと思って欲しいし、どちらが残っても納得のいく形にしてほしい。だから明里さんにも今まで通り過ごして欲しいし、彩香さんも残りたいと思ってもらえるように協力する。これが今の僕の考えだ、こうなるためなら何だってする。

 そのとき僕の隣から一滴の水滴が落ちた。ついに肝試しのアトラクションが始まったのかと思ったが、それがすぐに仕掛けではなく明里さんの涙だということに気づいた。


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ。だって私自身が私のことを偽物だなんて到底思えなかった。生まれてから今までの記憶も全部ある。もちろん幼すぎる記憶は皆がないように私もないけどそれでも皆が断片的に持っている程度の記憶は私にもある。そこまで記憶があるのに副人格なのは何でだろう、私は本当に副人格なのかなってずっと考えてた」


 今度は僕が明里さんの話を黙って聞いてあげた。

 きっと、彼女は相談する人がいなくて、ずっと一人で悩み、抱え込んできたのだろう。

 悩みに悩み、悩みぬいた末、わからなくなって自分自身に自分が副人格だから消えるべきだと言い聞かせるしかなかったんじゃないかなと思う。

 あのとき、明里さんが、彩香さんのことをお願いした時に、少し違和感を覚えたのは多分そういうところだったんだろう。

 それなら、今まで一人で抱え込んでいて辛かった分、ここで全部吐き出させてあげたい。

 僕は明里さんが話し終わるまで相槌を打ちながらずっと聞いてあげることにした。

第16話を読んでいただきありがとうございました。

最後の方に出てきた、明里さんが彩香さんのことをお願いした時に感じた違和感については第8話の『二重人格』のところに書いてありますので気になる人は戻って読んでみてください。



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