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046 勇者のユウくん

 

「精霊村に住みたい精霊を募集して、その精霊達にこの土地の開拓のついでに魔物も何とかしてもらえばいいのよ」


 なんのこともないように言われた。


「精霊がそこまでしてくださると?」


 そんな椀飯振舞いいの? と言いたげにエリオットがドラさんに確認をとる。


「ファルちゃんが望めばね」


 と、ドラさんが私にウインクする。

 すると大人たちの視線が私に集中。

 コソ聞きしてたのが完全に発覚してしまった。


 もちろん私はうんうんと何度か首を縦にふる。

 それを見て


「うふふ」


 とドラさんは楽しそうだ。


 そんなドラさんと私を見て大人たちの緊張はほんの少しだけ解けたようで、そのあとは冷静に話し合いを進めることができたみたい。

 どんな精霊に呼び掛けるか、精霊は人間サイドにどこまで協力してくれるのか、結構込み入ったことまで話してる。


 ダンジョンは周囲の魔物が片付いてから冒険者たちが少しずつ様子を見ながら攻略を進めて行くらしい。

 両親は私を見ながら「子供達が間違っても入り込まないようにダンジョン周辺に囲いをつくる」ことに決めた。


 何てこったい。

 だ、大丈夫よ。

 両親の言い付けはきちんと守るんだから!

 この前のは不可抗力なんだから!


 ダンジョン入るまでは怖かったけど、入ってみればちょっとワクワクして楽しかったかもなんて思ってないんだからね!

 また近い内どっかのダンジョン行きたいなーなんて思ってないんだからね!


「ところでファルちゃん」


 ビクッ


 いろいろ言い訳じみたことを考えていたら急にドラさんに呼ばれでびくついてしまった。



「あらなあに? いたずらでも考えていたのかしら? うふふ」


 図星とも言えないことを言い当てられた気分。


「な、なに?」


「うふふ、かわいいんだから。まあいいわ。それよりファルちゃん、前に約束してなかったかしら? 数ヶ月後に召喚するって。ユウくん? だったかしら。魔物の討伐に特化したスキルを持った人間、召喚出来たわよね?」


 あ、そういえば……

 忘れてた!


 前に召喚実験してて、ふと思い立って試しに勇者召喚してみたらできちゃったんだ。


 で、その時召喚できちゃったのが日本人のユウくんって中学生くらいの男の子で、その時は少しおしゃべりしたり、ユウくんのスキルを確認したりして2時間ほどいっしょに過ごし、「今忙しいからまた今度ゆっくり喚んでね」って言われて送還したんだった。


 その今度ってのが今くらいの時期じゃなかったかな?

 夏休みだからって言ってたような……。


「思い出したようね?」


「うん」


 ドラさんはユウくんに会った事はないと思うよけど、どうやら私の曖昧な記憶から使えそうなものを読み取ったみたいだ。

 便利な繋がりと前向きに受け取っておこう。深く考えたら地べたに転がりまくって記憶見られるという恥ずかしさのあまり身悶えしたくなるもんね。


 どうかおねしょがばれていませんように。


「喚んであげたら? 彼、またこっちの世界来るの楽しみにしてるみたいなこといってたわよね。勇者だし、即戦力になるのもそうだけど、浄化の力もあるからこういう土地の魔物討伐にもってこいの人材よ」


 そうだったのか! 勇者すごい!


 でも今頃急に呼び出してユウくん困らないかな?

 そもそもいま勇者召喚するの、両親的にはどうなんだろう?


 そう思って両親を見上げる。


 うん、困った顔してる。


「勇者喚んでいい?」


 魔王いなそうだけど。

 そもそも魔王なんてこの世界にいるんだっけ?


「ファルは勇者なんていうおとぎ話に出てくるようなの人までも喚べちゃうんだね」


「魔物討伐に特化していてそのうえ土地を浄化までできるとは、勇者とはすごいのだな」


 エリオットは苦笑いで、アレンジークは勇者召喚にポジティブ。


 否定的ではないからいいのかな?

 じゃあ……召喚しちゃおうかな? 勇者。


「喚ぶ」


 早速召喚の魔力を練り上げる。

 こなれたもので、思ったらすぐに準備万端に魔力が練り上がる。


「え、あっ、またファル待っ」


 タイミング悪くエリオットが何か言ってるけどなんかごめん!


「召喚! ユウくん!」


 練り上げちゃった魔力が弾けてボカンする前に、発動ワードを告げる。

 別に言わなくても心で唱えればいいみたいなんだけどね。様式美的な?


 ややして空間の一部がぱぁぁっと輝き出す。

 するとそこから勇者のユウくんがにゅっと出てきた。


「ユウくん」


「ファリエルちゃん、遅いよー、もー」


 ユウくんがちょっとプンスカしている。


「ごめん」


「まあ、いいよ。約束守ってくれたし。こっちも夏休み前半で課題やレポート全部終わらせられたし……って、はっ!? なにここ、人がたくさん!? え、顔面偏差値高い空間とか一周まわって怖いんだけど!?」


 ユウくんがかなりパニックしている。


「あなだが勇者のユウくんね。こんにちは、はじめまして。精霊のドライアドよ。わたくしのことはドラさんって呼んでね。早速だけれど、あなたの勇者としての力が必要なの。協力してくれないかしら?」


「ドライアドってあのドライアド!? 精霊の!? 異世界すご! って、すみません、驚いてばかりで。ファリエルちゃんに勇者として喚ばれた森山(もりやま)(ゆう)です。今回は夏休みの間だけになってしまいますが、よろしくお願いします!」


 混乱はしているものの、ユウくんは速やかに順応したっぽい。さすが勇者だと思う。


 その後、つつがなくユウくんと両親たちの挨拶も済んだ。

 大人達もすんなり勇者を受け入れた。

 急に目の前で勇者召喚されて最初はビックリして呆然としていたけど、立ち直りは早かった。


 なんかすごい度量を見せられたよ。

 大人ってすごい。

 もしくは急に現れた勇者の手を借りたいほど貰った領地の魔物がすごいことなってるかだね。

 精霊のドラさんがわざわざ私の記憶浚って使える手札探し出したくらいだし。


 私が思った以上に今のうちの領地、危険みたいだね。


 あと、エリオットから「あとでお話があるから待っててね」って綺麗な笑顔で言われた。


 私は何の話がわからなくて素直に「うん」て返事をしたけど、エリオットの隣でそのやり取りを見ていたアレンジークが私に同情的な眼差しを向けたあとでエリオットに「ほどほどにな」と、なんかフォローしてくれた。


 なんでだろ、なんだかわからないけどこのあと私はエリオットにガチめの説教される未来がみえるんだけど、たぶんきっと気のせいだよね?

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