43 増えて到着
ここまで通ってきた貴族の領地。
そこの貴族に挨拶に行く毎にその地の領主はだいたいにして「もう少し領民を増やしたらどうです? 協力しますよ。こちらも領民が減るのは辛いですが、侯爵様方の領地のためにもいかがでしょうか。今はそれなりに老いてはいますが、もとは腕の良い職人や元騎士なのです。どうぞお連れください、きっとお役に立ちますよ。ニヤニヤ」みたいな感じに老人とついでに「手伝いにでもどうです?」とかいって孤児院であぶれた子供やスラムの子供を押し付けてくる。
言葉の通り元腕の良い職人だし、元頑強なる騎士だった人たち。そして老人のお世話をするのにある程度お手伝いできる年齢の子供がいてくれるのも助かるけども。
断れない。断ったら社交界で「人材を譲ろうとしたら断られた。人に困ってないようだ」みたいな噂がたって後で人を募集しても妨害されるかも知れないので、ありがたく移住者受け入れるしかない。
中には病人まで寄越してくる貴族もいる。
今でも充分妨害じみてるね!
ただ、その中に未亡人で小さな子供を抱えた母親たちも結構いた。
働き場もなく、スラムで生活していた人たちだ。
夫は魔物被害で亡くなったり、冒険者ゆえに命を落としたり、他いろいろな理由があるみたい。
同じ理由で両親を亡くした子供も押し付けつつも恩着せがましく「新しい領地の領民」として受け渡された。
働き盛りの男性は、スラムの人でもなにかあったときに戦力として使えるようで、そっちの人材はくれない。
そんな感じなので出発時よりだいぶ人が増えた旅路。
途中から未亡人方が入ってくれたことで、子供の面倒を見てくれたり、老人のお世話をしてくれたのでだいぶ助かっている。もちろん働いてくれたぶんは報酬が支払われる。
それと、両親を慕って後から合流してくれた人達もいた。働き盛りの若者たちだ。意外にも文官系の人も結構いた。
そうして大所帯となった旅も終わりをむかえる。
王都を出て一ヶ月を過ぎていた。
「ここから先が我らの領地となるのか。……思っていた、というか、地図の表記と違うな」
隣領の端っこ、うちの領地と隣接する境を間借りして陣を張った。ここの領主さんはちょっとクセ強めだったけどいい人だった。
てことで、ここを起点に開拓していくわけだけど。
アレンジークがこぼしたように、なんか思ってたより豊かな感じなんだよね。
地図では草すら生えない不毛の地になっていたんだけど、草原もあるし、森もあった。
所々土がむき出しのとこもあるけど、そんなところにもポツポツと植物が生えていた。
「未開の地にはかわりなさそうだけどね」
エリオットの言う通り、人が入った形跡はほとんどない。
目の前に広がる草原の草も私の肩の高さほどあるので安易に分け入ったら危険そう。蛇とか小型の魔物とか。
道なんてないし、予定では草の1本も生えてないような土地なので馬に乗って魔物の分布を調べるはずだったんだけど、これでは馬は無理そうだね。
両親も、その部下さんたちもうんざりというよりガッカリしている。
そんな両親たちには悪いけど、私はワクワクしている。
リヒトに頼んで抱っこしてもらっているので視線は高め。
そんな高めの視線の目の前に広がるのは宝の山。
いや、宝の草原。
新鮮な薬草がある!
自生してる野菜もある!
深そうな森がある!
私はリヒトの腕からジャンプして喜び勇んで草原に駆けて行……こうとしたら途中でエリオットに捕まった。
「ファル? 危ないでしょ」
くっ! さすが元護衛のスペシャリスト。
難なく、しかもスマートに取っ捕まえてきやがる。
捕まえついでにがっちりめに抱っこされた。
「申し訳ございません」
私を追いかけてきたリヒトがエリオットの前に片膝をついて謝る。
ああ。リヒト、ごめん。謝らせてしまった。
私の護衛なのに護衛しきれないで私が安全確認されてない草原に飛び込もうとしたばっかりに。
「わかった? ファル。ファルの行動ひとつでファルの周りの人に迷惑がかかる。よく覚えておきなさい」
「はい」
こりゃマジ反省っすね。
前より立場について厳しく言われるのも訳がある。
両親が、というよりエリオットが領地を賜り、領主となったことで、私や弟妹はアレンジーク籍の伯爵家の子からエリオットの爵位に合わせた侯爵家の子となった。
アレンジークも平時は侯爵夫という扱いになるそうだ。
個人的王様とかから呼び出されたり、召集がかかる際はアレンジークが持つ伯爵としての立場になるみたい。
「まずは俺達が様子を見てくる。お前たちはエリオットたちとどんな村を作るか考えてみたらどうだ? 想定と違った景色だし、予定していた村作りと変わってくるんじゃないか?」
た し か に !
予定では植物の一切ない土地に村を作る計画を立てていた。
けど、ここは見渡す限りでは植物まみれ。
森もあるから地図上で村を作る予定地では都合が悪い場合もあるもんね!
話題をすり替えられたことで私の意識は別のことに行ってしまう。
アレンジークの手のひらの上で上手いこと転がされた感は否めないけど、確かに旅の間の計画と大きく変わったよね!
「うん!」
「よし、では行ってくる。魔物や地形の変化、できれば川などの水場の確認もしてこよう」
アレンジークは私の頭をぐりぐりと撫でながら、私の頭越しにエリオットと言葉をかわす。
「ああ。頼んだ。気を付けて」
エリオットは私たちの護衛、もしくはお守りとして残るようだ。
いや、有事の際の指揮を取る領主として残るのか。
アレンジークと騎士、冒険者数名でまずは近場を調べに行った。
それを見送り、エリオットはゴードンを呼び寄せた。
その間に私はまたリヒトに預けられた。今度こそじっとしてよう。
しばらくして、杖をつき、ヨボヨボな足取りでやって来たゴードン。
なんとかエリオットの前までたどり着き、杖にしがみつきながら片膝をついて頭を垂れる。
「御呼びでございましょうか」
馬車内のプライベートのスペースではこんなことしなくてもいいんだけど、人目があるところではこういうこともしなくちゃならない。
ほんとは杖にしがみつくのもダメみたいなんだけど。
でも杖がないと1人で歩けないのでこればっかりは許しを与えられている。
「ああ。話はまとまったか?」
「……はい。皆、希望する、と」
若返りポーションの話だ。
たぶんもうみんなにバレてるんだけどね。
みんな黙っててくれてるんだよ。
「そうか」
エリオットとしては複雑な心境のようだ。
難しい顔をしている。
それから1分近く考え込んでからまた口を開いた。
「次の野営地に移り、安全がある程度確保されたら実行する」
「っ! ありがとうございます……!」
あれからずっとこちらがわからは若返りポーションの話は出していなかった。
そのぶん不安はあっただろう。
ゴードンは目に涙を浮かべて喜んでいる。
ゴードンが何度もエリオットに感謝しつつこの場を辞したあと、私はエリオットに若返りのポーションを人数分用意するようにと言われたので、もう準備できてるよと答えると、そこでもまたなんか呆れられた。
「……300人以上はいるんだけど」
「だいじょぶ」
「はあ……伝説のポーションのはずなんだけどね」
たくさん誤字報告、方言修正ありがとうございました!




