42 若返りのポーションの話
誤字報告ありがとうございました!
「あ、おう。ありがとうな、お嬢様」
あ、これ絶対こどものおままごとだと思われてるやつや。
職人たちは苦笑いしているけど、両親は頭痛なのかこめかみをおさえたり、目頭を揉んだりそれぞれだ。
やべ。
そーいや黙っとけって言われていたような。
でもさ、でもさ!
この際だからいいと思うんだ!
どの際だ? とかはいわない。
職人たちの会話の端々(はしばし)に老齢で居場所がなくなったけど、多少のスキルがあるし、僻地だけど誰かの役にたって死にたいみたいな感じなんだもん!
こんなに老人がいるのなら、使い込まれた熟練のスキルを持った人たちがたくさんいるってことだよね?
そんな人たちが若返ったら、この人手不足も解消されると思う!
「若返ったら帰っちゃう?」
「ん? あ、あー、いや。もし若返れたとしても俺達にゃ帰る場所なんてねえですよ。年老いて家族からは邪魔物扱いされて正直腹ただしくもあったさ。後ろの馬車のババアどもだって孫がある程度成長して面倒を見終わったから追い出されるようにして来たんだろうしな。新天地行きに応募した年寄りはみんな行き場がないのさ。こんな老人どもに行き場を求められた侯爵様方には申し訳ねえですがね」
いろいろと諦めた口調で語るゴードンさん。
もう二人の職人も頷くように目を閉じ、顔をうつむけている。
「じゃ若返ってもうちにいてくれる?」
「ああ、もちろん。この身尽きるまで侯爵様や伯爵様にお仕えしますぜ。たとえ若返ることなどなくったってさ」
「ありがとう。これ」
じゃあこれ飲んですぐ飲んで速やかに若返ってバリバリモリモリ働いて下さいませ!
【アイテムボックス】からさっと謎の液体こと若返りのポーションを取り出しゴードン老に差し出す私の手を、くっとアレンジークにおさえられた。
むむ? と不思議に思い、アレンジークを見上げる。
「なにか? みたいな顔してるけどな、これは危険だ。それに信じてない者に騙し討ちのように飲ませて本当に若返ったら、その者の人生に多大な影響が出るだろう? このまま老いて安らかに死ぬ気でいるものだっている。その様な者たちを若返らせてまた長い人生をやり直せとでも? 責任取れるのか?」
若返りのポーションをバラしてしまったことはもうしょうがないと割りきったのか、アレンジークは若返りポーション服用後のしっかりとしたお説教をしてくれた。
責任、とれないや。
そもそも若返ることでまた長い人生やり直しが嫌だとか、考えてもなかった。そんな考え方盲点だった。
若返ってラッキー、もっかい人生やり直しだぜヒャッハー! ……じゃないのか。
そっか。人生に辟易している人もいるのか。
そう考えると長寿種族は大変だなあ。
この世界にもいるからね。長寿代表の精霊種、エルフとかドワーフがさ。
「ごめんなさい」
自分の浅はかさにしょんぼり。
ガチ反省。
「な、なあ、総長さんよ」
「もう総長ではないのだが。なんだ?」
意外に細かいアレンジーク。
「あ、いや、その。もしかして今のやり取りを察するに、ほんとなのですかい?」
若返りのポーション、とはあえて言わないのか。
アレンジークは答えず、エリオットを流しみる。
言っていいのか確認かな?
私も一緒になってエリオットを見る。
「残念ながら本当だよ。人に知られては危険だと思うんだけどね。娘にはもう少し一般常識の教育が必要かな」
ため息混じりにエリオットが答えた。
「なんとまあ」
エリオットの返事を聞いて、驚いたあと、同じ馬車内にいた老職人が三人ともそれっきりしばらく放心。
それから何か考えるような仕草をして口を開いた。
「ほんとの話なら俺は若返らせてもらいてえ。新天地でもう一花咲かせてみてえ」
色々言いたいことはもっとあるんだろう。
余計な言葉をたくさん省いて、ゴードンはそれだけを真摯な眼差しで答えた。
他二人の職人はまだ考えている風だ。
「ゴードン。答えを急ぐな」
「しかしっ……!」
「ポーションを渡すことをやめると言っているわけではない。よく考えてから答えを出せ。周囲への説明も必要だ。それも極秘裏に」
極秘裏というのは無理だと思うよ。
同道するご老人方のほとんどが耳が遠いんだもの。
もちろんゴードン達もそうなわけで、今の会話は結構声張ってるから御者はもちろん外にも丸聞こえなんじゃないかな。
私騎士になった女性騎士や冒険者とか。
まあ、女性騎士たちはともかく、その冒険者達もこれを期に引退するって話しの人たちだった。
うちの領地に定住してくれるんだって。
自力で開墾したぶんだけ土地をもらえるみたいだし。
もらえるといっても広さに比例した税金をエリオット達に払わなきゃならないみたいだけど、畑を頑張れば余裕をもって暮らせるからいいのかな? たぶん。
「領地に着いたら改めて希望者には渡そう。それまでにお前達の方から今回の移住者の中でアレを必要とする者達に説明を」
「こちらから言うことでもないしな。それに俺達から言われたとしても更に荒唐無稽な話に聞こえるだろうな。それでも他領の町村内や此度の移住者以外がいるようなところでは話さないでくれ」
そうして今日のお話し合いは私の横やりによって解散となってしまった。
もっと開拓についての話を聞きたかった!
自業自得なんだけど!
馬車の旅は半月が過ぎた。
両親が与えられた領地へ向かうなか、他の貴族の館にお世話になったり、館にはご挨拶だけで宿に泊まることになったりしながら旅を行く。
こういう時の貴族達はあっさりしたもので、さっさと出てってくんねーかな? とか、金の無心でもされんじゃねえか? のどちらかな対応がほとんどだった。まともに歓待してくれたのは2家くらいだったような。
塩対応だった貴族の領都(領主が住んでいる、その領地で一番大きな町)では私達が滞在中だけ町の物価が上がっていた。
嫌がらせなのか追い討ちなのか。
端からみれば両親は領地を賜ったといいつつも都落ちみたいなもんだからね。貰った領地も国の果てだもの。
それに財産も半分没収みたいな噂が既に各領に伝えられてるみたいだった。
けど町から離れた村では普通だった。詰が甘いよね。
普通に貴族様御一行の移動だな、程度の対応だった。
なので私はいつものお買い物はそういうような村で行った。
両親の方はいくら物価が高くなろうが貴族の目がある町で買わないといけないみたいだったけど。家具とか無難なものを買ってたな。
ちなみに私はもちろん両親もお金には困ってない。
大半は【アイテムボックス】や【アイテムボックス】の魔具に入れてたから。
王都の館や預貯金していたギルドにはあまり入れてはいなかった。 実家に帰るという体のいい理由で口座からたくさんおろしていたみたいだった。
私はほとんど現金で貰って持っていたし、私たち子供の口座までは没収の対象にはなってなかったようだ。
たぶん、銀貨数枚しか入ってなかったから見逃されたんだと思う。
……っと、没収の件は今更私が心配することではないか。そういうのはあとで王様や貴族がなんやかんや解決してくれるよね。
それほど館や口座にお金は残していなかったと言っても変に思われない程度には入っていたわけだし。少なくない金額ではあったんだから早く解決して取り戻して欲しいし館でわざわざ破壊した家具なんかも弁償して欲しいよね。無骨な館だったけど、高位貴族のそれなりの質の家具だったわけだし。
ってことで私は新しい領地のこと考えよ。
そっちのが楽しいし!
「これも欲しい」
そう、私は今、お買い物中なのだ!
「ああ? こ、こんなもん……あ、いや、このようなものまで買っていただけるので?」
「うん。売っているだけ全部。村が困らない程度に欲しい」
「そりゃマジですかい?」
「マジ」
「とんでもねえ量になるとしても買っていただけるんで?」
「うん」
こうして私の素晴らくも高等な交渉術の成果で大量の作物が手に入った。
どこの村でもイモ類がダブついていた。
小麦がダメになったときに備えてとりあえず植えている感じらしい。
それと飼料用のカブか大根に見えるやつ。
日本のスーパーのお砂糖コーナーにある、お金持ちが買うようなちょっと色の違うお砂糖のパッケージによく使われているあの大根っぽいのによく似ている。てか、そうとしか見えない。違っても何かしらに使えるでしょ。それこそ飼料にでも。
という感じで買えるものは買えるだけ爆買いした。
各村でも行商人より高く買ってくれるし現金化出来るしで喜んで売ってくれたよ。




