39 待機のとき
館はまだ住める状態ではなかったので、せっかく帰ってきたのに王都にいる間は宿に泊まった。
エリオットの家格に合わせた高級なとこだ。
雰囲気だけはやたら凄かった、とだけ言っておこうかな。
日本の旅館やホテルの偉大さがよくわかった。
王都に戻ってからの数日間、両親も使用人も忙しそうにしていた。私たち子供組は宿の部屋から出ずおとなしくしていた。
外に出るのもなんとなく危険みたいだったので、部屋で出きることをしていた。
弟妹は主にお勉強だね。私はとくにすることもなかったので、暇にあかせて執筆していた。
タイトルは『少年騎士の大冒険』。メインターゲットはある程度文字の読み書きができるようになったけど勉強に飽きはじめた子供たち。
つまりあと数年後の弟妹たちの為。
今の私の暇も潰せるし、将来的に弟妹の娯楽になるならこの暇潰しも無駄じゃない。
それにこの世界は子供用の本って教科書などの勉強用がほとんどだ。児童向け小説なんてものはないと思う。ロキシス子爵家でもさりげなく聞いてみたからやっぱりないと思う。
ある程度紙が普及している世界なんだからそういうのあってもよさそうなのに。
というわけで、挿し絵多めで書いてみたよ。
主人公はなんとなくリヒトに寄せて、先日のロキシス子爵領での体験をなるべくライトにマイルドにぼかし、ソフトなコメディータッチで書いてみた。
落ち着いたらきちんと製本するんだ。それまではアイテムボックスの肥やしだね。
他にも宿の部屋で出来そうなものを細々と。
ほとんど妄想をノートに書き連ねただけだけどね。
自分だったらこんな宿をつくるとか、館をリフォームするならこんな感じがいいんじゃないかとか。
うん、自分でも知らず知らずに結構宿に対してとか、館の惨状にストレスを受けていたみたいだ。ノートに書いてちょっとでも鬱憤は晴れたかも。
あとはまた男女双子コーデのデザインとか両親向けのラフだけどしっかりしてみえる服のデザインとか、食べたい料理のざっくりとしたレシピなど、思いついたのを気の向くままに描いたり書いたり。
でもやっぱり数日で飽きる。
弟妹も部屋の中だけの生活に飽きはじめている。
幼児なのにずいぶん持った方だよ?
そろそろ宿の裏庭でも借りて剣の稽古でも……そう、仮にでもご令嬢な幼女な私が剣の稽古でもしようかなと、ちょっと他のご令嬢と違った考えが過りはじめた頃合いで両親が揃って戻ってきた。
既に周囲の主だった部下や使用人に話は済んでいるようで、私たち子供組とそのお世話係にきちんと話すために戻ってきたようだ。
「これから少し難しい話をする。俺たちはそれぞれ正式に近衛騎士団長と王国騎士団総長の任を解かれることになった」
はじめにざっくりとした事実の報告をするのはアレンジーク。
任を解かれた割には思い詰めた様子もない。
それからなるべく子供にも分かりやすく噛み砕いた説明をエリオットがしてくれた。
団長とかの任は解かれたものの、それなりの功績はあるので地方に土地を与えるので領主になって、そこでまた新たに国に尽くしてほしいと言われた。これは王様からのお言葉だったので二人は了承した。
以降は今後についての説明を別室で担当の貴族から受けた。王様は多忙なのでその場にはいなかった。
その貴族からの説明なんだけど……
与えられる土地は魔物も多く、今はまだ人の住める環境じゃないけど、元近衛騎士団長と元王国騎士団総長何だから余裕で魔物倒しながら開墾出来るよね。
そのための人員出すよ。
一線を退いて暇してる人材結構居るんだよね。騎士や兵としては歳いってて使えないけど、開墾し、畑とかするならそれなりに使えるんじゃない? そんなのが結構いるから君たちに新しく与えた土地に村人としてまとめて送ってあげるよ。
ああ、それと君たちの子供女の子二人いるでしょ? その子達のために王国騎士団から女性の騎士の半数以上譲ってあげるよ。元部下なんだし受けいれられるよね? じゃあ最低限の開拓支援金も出しといてあげるから頑張ってね。
そうそう、君たちの貯金の類いの半分と王都にある店は帰還遅延のペナルティーに没収。館はそのまま王都の館として使っていいからね。
みたいなことを人事担当の貴族となぜか外務担当の貴族に言われたんだって。
おうおう、めちゃくちゃ怪しいじゃねえか。
本当に王様がそんな危険な土地を下賜したのかな?
村人としてよこしてくれる人材も体のいい姥捨山然りで老人派遣かよ。
しかも若い人を派遣といっても女性騎士。
その女性騎士たちも一度王国騎士を解雇され、うちの私騎士として雇うって事らしいし。
これも体のいい厄介払いっぽいね。
アレンジークの補足では、頑張ってるけどなかなか芽のでない、けどやる気だけはある騎士志望の女性たちみたいだ。
……この女性騎士の人事には新しく王国騎士団総長になった人も絡んでそうだよね。
あと開拓支援金だってたぶんちょろまかされてるよね。魔物が蔓延る土地を開拓するのに普通「最低限」とか無理だよね?
それになにがペナルティーで預金半分没収だよ! ふざけんな!
左遷で、しかも未開拓地で十分代償はらってるだろうが! 開拓資金「最低限」な上に資産もふんだくるって開拓させる気ないよね!?
しかも「店」って私の店だよね!?
お菓子の店と服とアクセサリーの店!
……でもお菓子作る魔道具は館から持ち出された先で木っ端微塵になってるっぽいし、服とアクセサリーだってほとんど私が作ってて、これから魔道具に生産ませようかなって感じだったから、店をとられても商品はもうないはず。職人といえるのは服のデザインを売ったあの紳士服の仕立屋さんぐらいなもの。
もしかして商品じゃなくて立地のいい店だからほしかったのかな?
レシピ類の権利は商業ギルドで管理され守られているのでギルドを通したものは取り上げられないはず。
私の不労所得はこれまで通り継続して得られる。
……なんだろ。アレクシス先生、こうなることを予測して私にギルドを勧めたのかな?
まさかね! 気のせいだよ! 気のせい気のせい!
と、いろいろ思うところがある今後だけど、とりあえず明日から移動になるみたい。今日は使用人たち総出で明日からの移動で必要な物を買い出しに。
宿の部屋には両親と私と弟妹のみ。
「こんなことになってごめんね。子供たちには不自由させたくなかったんだけど、これからしばらくは大変だと思う」
「それでもお前たちのことは俺たちが必ず守る。教育も王都にいるのと変わらない、いや、それ以上の教育を受けられるようにする」
「わかった。楽しみ」
「楽しみ?」
私のいいお返事に訝しむ両親。
え、最高の予定だよね。
さっきまでなんだかんだ怪しい左遷に心の中でわーわー言ってましたけど、ぶっちゃけ自由にしていい領地貰えたとか楽しみでしかないんですけど。
「領地の計画は? 土地はどこ?」
ワクワク顔の私にちょっと引く両親だけど、すぐにお互い顔を見合わせて、それからくすりと笑い合う。
「そっか。ファルには楽しいことなんだね」
「うん」
私とエリオットの会話に、ちょっと不安そうにしていた弟妹が興味をしめしだす。
「ファルならわかっているかもしれないけど、俺たちはこの状況を作ったものたちからの当て付けや嫌がらせを受けている状況だ。陛下もこの事はご存知で、苦労をかける、とのお言葉もいただいている。王家でも今は手一杯でこちらの状況までに手が回らない。一部には裏で好き勝手なことをされているが、未開拓地の開拓はいずれしなくてはならないらしく、どうせならこの茶番を使っての開拓もいいなと思われたようだ」
「こんなことになった詳細はきちんと調べ、裏で手を引いているものたちすべてに然るべき裁きを与えると仰られていた。それまでのんびりと開拓もいいなとエリオットと話していたんだが、ファルも開拓を楽しみにしているとは」
と追加の情報。あとはこれから向かう土地や開拓計画も話してくれた。




