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37 帰り道

 

 いろいろあったロキシス領には予定より長く滞在することになった。

 ロキシス子爵家に滞在中、なに不自由なく過ごさせてもらえたし、双子も元気にのびのびとしていられた様子だった。


 しかしずっとここに居られるわけではないわけで。


「ファリエル、また遊びにくるのですよ? 絶対ですよ?」


 別れの朝、ロキシス子爵家の皆様が見送ってくれる。

 滞在中私たち兄弟を気にかけてくれていたアウリーゼちゃんが目に涙をためながら笑顔で送ってくれる。


「うん」


「シオル、シアラも息災にな」


「「はい、アロイスにいさま」」


 アロイスくんは双子に「にいさま」呼びされてずっと嬉しそうにしていたので、本気で今日の別れを惜しんでくれている。


 あと私、やっぱり双子より語彙力なかったわ……。


 その後、順番にお別れの挨拶をして、最後にロキシス子爵となったんだけど、めっちゃ泣いてる。

 男泣きってたぶんこんな感じ……ではない気がする。


「うわおおお、うぐ、ぐおおお、ふぁるたん、しおるん、しあたんっん゛ん゛ん゛」


 慣れてるみたいなロキシス子爵家の面々は苦笑い。

 双子は心配そうにロキシス子爵に声をかけ、さらにロキシス子爵の涙を誘っている。

 私とエリオットは微妙に引いている。

 そもそもロキシス子爵なら王都に行く機会が多いはずだから年に数回は会えるはずなんだけど。

 でも今で会う機会がなかったから王都にいっても自由になる時間がないのかも。お茶会とかパーティーとか。

 エリオットもアレンジークも最低限しかお茶会とかパーティーに出てないのは王都在住だからだよね。あと警備関係者だからそんな余裕ないとか、貴族の繋がり云々とか他にも理由はありそうだけど。

 うん。たぶん地方貴族は王都に行くと多忙なのかも。


 そんなことを考えて気をまぎらわす程度にはロキシス子爵の号泣はなかなかだった。

 そんなグダグダをなだめるアレンジークは慣れたもので、適当にざっくりと別れを言ってさっさと私たちを馬車に乗せて多少無理に引き剥がしてではまたさよならとなった。


 スマートな別れではなかったけど、最後の最後でしんみりとした別れでもなかったので、次にまた会える時がちょっと楽しみになる別れだった。



 ・・・・・・・・・・


 帰りの馬車は特に急ぐわけでなく、予定通りの速度で進む。

 つまるところ、帰り道でも各貴族の領地で領主にご挨拶しつつ宿泊費やお土産でお金をおとしつつ帰路につく感じだね。ついでにロキシス領での騒ぎを話題に出しつつも注意喚起、並びに予定より遅れての領地到着の説明かな。王都に戻ったときの根回しにもなるみたい。


 ロキシス子爵領での滞在が長引いた理由と、それにともない王都に帰還するのが遅くなる旨をしたためた文書は既に早馬で王都の関係各所に予備も含めていくつか届けてもらっている。念には念を入れて伝書鳥も使ったようだった。


 滞在が長引いた分は、理由が理由だけに仕事扱いになるだろうとは両親とロキシス子爵家の見立てだ。


 貴族って大変だね。

 私は成人したら家を出るつもりだから、双子は今回のことをよく勉強するんだよ。と心の中で応援しとく。


 帰り道は伝令がひっきりなしに行ったり来たりしている。1回の通信で高額の魔石を使い捨てる事になる通信の魔道具も何度か使われているのを見た。


 帰りは行きほどまったりとした旅にはなっていない。

 なんかちょっとピリリとしている。

 王都でもなんかあるみたいだ。

 両親はそれを私たちが不安がらないように、表面上穏やかに過ごして隠してるみたいだけど。


 でもあえて聞いちゃう。


「なにかあったの?」


 私の一言にビクッとする両親。

 子供の一言に狼狽してどうすんのさ。

 どちらも団長階級なんだからもっとなんかこう腹芸とかさ。生まれながらの貴族なんだからさ。


「ファルたちはなんの心配もないからな。不安になることはない。俺とエリオットがなんとかする」


 という、なんとも心配と不安しかないお言葉を、ぎこちない笑顔とともにいただいた。

 マジかよ。普段のかっこよさどこいったよ。急なポンコツ臭だな。


 ということはだ。

 かなりヤバイこと、もしくは面倒なことが王都でおきているのかな?

 それも近衛騎士団長であるエリオットと王国騎士団総長であるアレンジークでも手に余る何かが。


「わかった。……家族みんなでいられるなら、わたしはなんの心配も不安もない」


 私はアレンジーク、それからエリオットの目を見てなるべくしっかりとそう伝えた。

 じゃないと二人とも無理をしそうだし。


「そ、そうか?」


「うん」


 私の返事に涙目の双子も頷く。

 双子も双子なりに周囲の空気感やアレンジークのいつもと違う態度に不安を感じたようだった。


「はあ。そうだね。わざわざ隠すことでもないね。王都に戻ったらすぐにわかることだからここで言ってしまったほうがいいのかもね」


 観念した様子でエリオットが肩の力を抜く。


 いや別に私、そこまで問い詰めてもないですが。

 話したくないなら隠したままでもいいんだよ?


 これ聞いたら孤児院戻れとか言わないよね!?

 わ、不安! すっごく不安! 心配!


「え、あ、ファル? どうした? 何で泣いてる!?」


「ど、どうしたのファル?」


「「ねえさま」」


 私の涙目に両親オロオロ、双子はついにメソメソと泣き始めてしまった。

 私もなんだか目から水分がポロポロと滴り落ちる。


「わ、わたしが鳥につれてかれたからっ、帰るのおそくなったからっ、リオとジークの仕事の立場があぁぁ」


「あー、ファル? 鳥につれてかれたのも帰るの遅くなったのもファルのせいじゃないだろう? あれは魔物を引き寄せる香をあんな場所で使った他領貴族が悪い。ファルはそれに巻き込まれた。怒りこそすれ自分せいだなんて思うことはない。あと、微妙に冷静に俺達の立場とか分析してたんだな……」


 力強く話してくれつつ最後ちょっと呆れた口調となるアレンジーク。


「そうだよ。アレンジークの言う通り。それにファルが鳥の魔物に連れていかれなくたって俺達はロキシス子爵領都で足止めはされていたよ。稚拙なやり方だけど、確実に足止めできる手段だったからね。あそこで他領の事だからと予定通りに馬車を進めたとしても騎士としての道義を問われることになるだろうしね」


 穏やかに、私が言葉の意味をきちんと理解しているか確認しながら話すエリオット。


「だよな」


 エリオットの話にうんうんとアレンジークは同意。

 貴族ってやっぱり面倒な人が多そうだね。


「うん。だったらあとから何を言われることになったとしてもロキシス子爵の手伝いをするのは当然だよ。それは俺達が決めたことだよ」


 二人とも、私の目をしっかり見て諭すように話してくれる。

 ちくしょう、私の両親イケメン過ぎる!


 あと不安も心配もないと言ったそばから不安に押しつぶされてごめん。ネガティブ方面では結構チョロいんだよ私。それをごまかす特技として空元気がある。

 きっとそのうちスキル化するんじゃないかな。



 で、私が落ち着いたあと両親がこの帰り道で忙しく情報のやり取りしているわけを話してくれた。


 どうやらうち、両親の左遷によるお引っ越しの運びとなりそうです。


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