031 ダンジョンでできること
「昨日は気が急いていて私の意見を押しつけるばかりで申し訳ありませんでした。本日はもう少し余裕を持って行動を心がけてまいります」
ええんやで。
私も緊張と興奮そして自作アイテムのお披露目が出来た満足感でそれどころじゃなかった。
むしろ暴走する私を抑えつけてくれてありがとうよ。
私もよく眠ったおかげでちょっと冷静になれたし。
昨日は自分の事でいっぱいいっぱいだったけど、両親や双子、家の人達の事ももっときちんと考えなきゃだったんだ。
あのあとどうなったのか。
といっても両親たちのことは然程心配していない。
だって王国騎士団総長サマと近衛騎士団長サマがいるんだよ?
そんな両親の側近達だって老齢に見えたけどかなりの腕を持った人たちだ。たぶん元騎士とかそんな感じの人達。
馬車内でも一緒になることが無かったからあまり話す機会はなかったからどういう感じの人達かは分からないけど、両親が旅の共に選んだ人たちなんだからたぶんきっとすごい人達なんだと思う。
冒険者の人達だってアレンジークと親しそうだったからそれなりに腕はたちそうだったし。
うん。あちらは全然問題ないね。
なにかあるとしたら、みんなやさしいからきっと私を心配してくれてるだろうな、と。
両親も双子もきっと私を心配してくれていると思うと、なんかこう、心臓のあたりがきゅーっとして、ごめんねって悲しくなってくる。
悲しいっていうか、さみしいっていうか、会いたいっていうか。
ダンジョンにはしゃいでいた自分がひとでなしに思える程度には罪悪感と不安感と後悔でいっぱいだ。
早く出よう。
早く出て、家族に会って、無事でよかったねって言い合って、一緒にご飯食べて、おやすみなさいして、次の日きちんとおはようって言うんだ。
そして7歳になったらまた改めて、今度は何の心配ごともなくダンジョンに来ればいいんだ。
だから今回は、ダンジョンを早く出る目的でダンジョン探索しよう。
昨日は落ち着いて周囲を眺める余裕はなかったけど、よく見るとダンジョンは壁面全体的に淡く発光しているので暗くて周囲が見えないと言うことはない。
ただ、そのせいで時間の感覚が狂う。体感に頼るしかない。
リヒトの話では時計もあてにならないって事だったし。
洞窟型のダンジョンで、見る限りでは広大で、ところどころに入り組んだ脇道がある。
それをいまのところしらみつぶしに入って行って出口並びに階層主を探している。
現状ではここが何階層なのか、そもそも階層があるダンジョンなのかすらわからない。
「本日はきちんとこまめに休憩をはさみながら進みましょう」
リヒトに続いてロティルも私を気遣ってくれる。
こんな状況なのに、二人とも優しすぎるだろ。
大好きだ!
「だいじょぶ。がんばる」
ふんすと気合いを込めてお返事を。
今日こそ足手まといにはならないよ!
昨日も二人は私の歩幅に合わせてくれていた。
2人だったらもっと早く移動できていたのに。
だから私は思うのさ。
歩幅が短いなら、ながくすりゃあいいのさ! と。
「しょうかんっ!」
言葉とともに派手な魔法陣が2枚浮かび上がる。
魔法陣を出すといつの間にか手におさまっている魔法で出来たペン。
それで魔法陣にここぞとばかりに細長い穴開きに書き込む。
1枚目魔法陣には【美亀乃】、もう片方には【瞬獺】と。
するとそれぞれの魔法陣が完成し、中央から大型犬サイズの綺麗系の亀と、金色のコツメカワウソが出てきた。
それをあんぐりと口をあけ、驚きをあらわに見ているロティルとリヒト。
また二人の新しい表情が見れたよ。
『あらあら、ずいぶんとお久しぶりじゃないかしら?』
おっとりとこちらに話しかけてくる亀。
『わーい、ファルちゃんだー』
するすると私によじ登って襟巻よろしく首周りにおさまるコツメカワウソ。
召喚して契約するとしゃべれるようになるらしい。
アレクシス先生は首をひねっていたけどね?
でもよかった! 転移魔法は使えないけど、召喚魔法は使えたよ!
私は結構前に覚えた召喚術を行使し、亀とコツメカワウソを召喚した。
私と召喚契約してくれたこの亀は、見た目はもちろん綺麗だが、亀ではまず見ないほどの美脚の持ち主だ。足も速いし、甲羅に隠れてしまえば結構な防御力を誇る。
本人いわく、属性ドラゴン程度になら踏まれても痛くもかゆくもないらしい。
ちょっとよくわからない。
契約した時に名前をつけていいと本人から言われたので、お上品なイメージで美亀乃と名付けた。
コツメカワウソの方は黄金色の毛皮が美しく、短距離転移魔法とちょっとした水の魔法が使える程度のほぼコツメカワウソだ。
あ、いや、会話できるし、きちんとお願い聞いてくれるから「程度」というのは失礼か。
それに私が心の中でコツメカワウソと呼んでるだけで、種族的にはゴールデンシーフオッターと言うらし…いや、ほぼコツメカワウソか!
こちらもスキルと見た目、それから『カッコいい名前がいいな!』とのリクエストを受け、瞬獺と名付けた。
お坊さんみたいでかっこいい名前になったと思うよ。
「ダンジョンに迷いこんだ。乗せてほしい」
『まあ、それは大変! 子供がこんな悪路を歩くのは危ないわ。さあ早くお乗りなさい』
そう言って美亀乃さんは一度手足を甲羅に収めて私が登りやすいようにしてくれた。
身体強化を使って登り、座りの良い場所に座らせてもらう。
私が落ち着いたのを確認し、美亀乃さんはまた手足を出して立ち上がった。
『うん。大丈夫そうね。それで…この人間たちと一緒に行動するのかしら?』
瞬獺は私の襟巻になって、私のほっぺに自分のほっぺをすりすりして甘えている。これするとクッキーもらえると思っているだよなあ…。…あげるんだけどね。
「うん」
「お、お嬢様っ、これは…!?」
「召喚術を使えるのは知っておりましたが、亀が…しゃべるのですか? それにその細長い…猫??」
驚くリヒトとロティルに私は後出しになってしまったがきちんと説明する。
「美亀乃さんがいれば早くいどうできる。瞬獺がいればドロップ拾ってくれる」
「「…………」」
説明してもまだちょっとポカンとする二人。
『相変わらず口下手ねえ。あなた達も大変ね』
何故か亀に同情されていた。
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美亀乃さんと瞬獺のおかげで随分はやく移動出来ている。
主にリヒトと私が攻撃し、美亀乃さんは私を乗せての回避行動、瞬獺に【アイテムボックス】の魔具を装備してもらって魔石などのドロップ品回収してもらい、ロティルが戦闘時の全体の指示出しやサポートをしてくれている。
昨日は興奮で気付かなかったけど、リヒトはマッピングというのもしていてくれたみたいで、今日はその作業をロティルに任せる事になった。マッピング…いい響きだ。
探索は順調。
先頭の役割が美味く行っているのと、私の機動力アップのおかげだね。
それとリヒトとロティルが魔道具の使い方にかなり慣れたのもある。
最初はおっかなびっくり使っていたからなー。
私が作るものはかなり丈夫に作っているから壊れづらいから大丈夫だよー。
休憩もきちんととっている。
おやつもしっかりもぐもぐ。
魔法をたくさん使うからいつも以上にお腹が減る。
みんなで一緒にカロリー摂取。
ダンジョンで食べるシュークリームが身にしみるぜ。




