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029 リヒト 2

 


 そんな旅の途中だった。

 あと2日で総長のご実家に着くというところで魔物に襲われ、高難易度のダンジョンに入りこむことになってしまった。


 僕たちが入った入り口はダンジョンが人を誘い込む為の罠で、正規の出入口ではない。

 飢えたダンジョンが外から無理矢理人を招き入れるためのものだ。

 お嬢様は光が見えたからそこに転移したと言っていたので間違いない。

 普段のお嬢様の正常な判断なら王都の屋敷に転移していたはず。


 ダンジョンの説明は必要最低限にした。

 罠に引っ掛かったなど言おうものならお嬢様は絶対気になさる。

 自分が前に出てダンジョンを進むと言いかねないので、黙っておいた。

 それでも最悪の事態になった時の行動を説明しなければならない。


 その結果、お嬢様が張り切りだした。ダンジョンという言葉の響きに興奮したらしい。

 相変わらずの無表情ではあるけど、目をキラキラさせて、その場で嬉しさを表現するかのようにぴょんぴょん跳ねている。


 そのあとはお嬢様の【アイテムボックス】から出る魔道具や魔具の数々に絶句。

 ずっと護衛していたはずなのに、こんなに作りこんでいるとは知らなかった。


 あと、お嬢様は物凄く「おにく」にこだわっていた。

 魔物=肉だと思いこんでいたらしく、ダンジョン産の魔物であるために魔物を倒した際、魔石以外消えてしまったのを見た時のお嬢様の落胆ぶりは可哀想になるほどだった。


 しかしそこからたまにドロップ品として魔石と一緒に「おにく」もでますよと説明すると、きららかな瞳が戻ってきた。


 けどどうしよう。

 この階層、肉が出そうな魔物が全然出てこない。


 夜だし、疲れと眠気でうとうとしてきたお嬢様も心配だ。

 ここでお嬢様が眠ってしまったら、眠ったお嬢様を抱えるためにロティルの手がふさがり、警戒がおろそかになってしまう。


 今はなんとか魔力を消費して一撃で魔物を倒すことが出来ているが、魔力が切れたらそうはいかない。

 剣数を増やせば魔力無しでも戦える。けどそうしたら体力が削られてしまう。

 僕が倒れたらロティルだけでお嬢様をお守りすることになる。

 せめて僕が動けるうちに階層主を倒したい。


 それにしてもお嬢様から渡された魔具や魔道具は素晴らしかった。

 結界を発生させるペンダントは思った以上に優秀だ。

 不意の遠距離攻撃も難なくはじいた。C級の魔物の攻撃を軽々と弾いて、なお壊れることなく存在する結界に、物理的にも精神的にも救われた。

 これが無かったらもっと心に余裕がなく、そうそうに切羽詰まってつぶれていたかもしれないと思うとゾッとする。

 それほどこのダンジョンは今の僕には脅威だ。


 魔剣もそうだ。

 はじめは慣れない剣を慣れない場所で使うのは不安。

 もう少し様子をみてから使いたい。



 ふと気になり、このダンジョンに入るきっかけになったとも言える魔物の襲撃で負った怪我の治療にいただいたポーションの事をお嬢様にたずねた。


 思っていたのと違う答えが返ってきた。


「マイルド…? ……エリクサー!?」


 エリクサー? でもマイルドが付いている。

 でもエリクサー…? あまりのパワーワードにしばし混乱してしまう。


 エリクサーと言えば、どんな病気や怪我をも瞬時に治し、そのうえ不老不死にもなるという、伝説の薬酒と言われているアレだろうか。


「ん。えりくさーからふろーふしこーかをはぶいた、ひとにやさしいえりくさー。…煮つめてあるこーるせいぶんトバして、魔水できょくげんまでうすめるとできる」


 情熱的に語るお嬢様。

 お嬢様にしては長く説明をしてくれたが、さっぱりわからなかった。


 そもそもエリクサーの作り方がわからないし、マスイもわからない。極限の程度も定かではない。

 結局はエリクサーであることには変わりないらしい。

 それを増血ポーション代わりに使った、と。


 増血ポーションは古くからある。

 気休め程度だが、それでも血を多く失ったときは重宝すると聞いていた。


 僕はあのとき、多くの血を失った自覚がある。

 しかし今もこうして普段と変わりなく…いや、むしろ普段以上に力がわく状態の体になっている事に気付いて、何の気なしに聞いてみたら、寿命が縮む答えが返ってきてしまった。


 なんか…大丈夫な気がして来た。

 さっきお嬢様から渡されたポーション類もきっととんでもない効果を発揮するんだろうなと、漠然と確信めいた思いがわきあがる。


 残存魔力を気にしながら魔物を倒していたが、お嬢様から渡された魔力回復ポーションは、市販されている最大魔力回復50パーセントの高級品よりかなり色が濃かった。

 たぶんあの伝説とされている魔力全回復ポーションだろう。


 残存魔力も乏しくなってきたので試しにひとくち飲んでみた。

 すると、たったひとくちで魔力が全回復した。

 してしまった。


「………」


「リヒト、どうしたのです?」


 僕がポーションをひとくち飲み、その効果のすごさに一瞬硬直してしまっていると、ロティルが不安げに声をかけてきた。


「あ、いや…。このポーション、たったひとくちで魔力が全回復してしまった」


「……あと数口分は残ってそうですけど」


「これは、気をつけて飲んだ方がいいな」


「そうですね。わたくしも気をつけて使用したいと思います」


 そして僕たちは頷きあった。

 それをお嬢様は不思議そうに見上げ…


「リト、わたしもまもの、たおしたい」


 僕たちの会話を聞いて不思議がっていたわけではなく、魔石拾いに飽きて魔物を倒したくなってきてしまったらしい。

 さきほどより眠そうな顔もしている。


 まずいな…。


 お嬢様の眠気を散らす意味でもお嬢様の提案を受ける事にした。

 お嬢様ならすぐに魔物の対応も出来るだろう。


 はじめの何体かはサポートしたが、すぐに僕のサポートの必要もなく、魔法でガンガン魔物を屠っていく。

 ロティルもお嬢様から渡されたナイフ形の魔剣効果で一撃必殺で倒して行った。


 なんともいえない気持ちになった。

 何度か魔物を倒しても刃こぼれひとつないナイフを見て、自分の剣にこだわっていた自分がバカらしくなり、僕も魔剣に切り替えた。


 すると、今までの3パーセント程度の魔力でもC級の魔物を倒せることがわかってしまった。


 あとはもう吹っ切れた。

 どんどん進む。

 お嬢様の眠気も限界だ。


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