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025 混乱

 


 野営用の建物は、最初に使った次の日にはエリオットの従者が持ち、管理している。

 今後使うなら一応でもお嬢様な私が手を煩わせることはないだろうということらしいけど。

 全然わずらわしくないよ?

 むしろちょっとでもお手伝い感を醸し出して「野営の建物出しましたけど」とドヤりたい。

 そして褒めてもらいたい。


 ってのはお嬢様のすることではないとロティルに諭された。

 野営の準備や管理は従者にお任せ下さいとのことだった。


 でも今日はそんな建物は出さない。

 すぐにでも逃げられるようにするため、野宿をするっぽい。

 といっても馬車の中で窮屈に休む感じ。

 ちゃんと寝れないやつ。


 食事も作り置きの軽食だ。

 あって良かった【アイテムボックス】の魔具。

 容量は1メートル四方しかないけど、エリオットとアレンジークの従者はみんな持たされているので、軽食の作り置き担当者が皆に【アイテムボックス】にいれておいた軽食を配っている。


 でも私も双子も食がすすまない。


「ファル、シオル、シアラ。きちんと食べられる時に食べなさい。まだ何があるかわからないんだから」


 私達の様子を見たエリオットが困った顔で食事を促す。


「ジークおとうさまがしんぱいです」


「ジークおとうさまにさしあげたいです」


「………」


 双子の想いに感動するあまり、私、無言。

 エリオットも嬉しそうにしている。


「ありがとう。でもそれはシアラ達の分だよ。ジークお父様の分はきちんと別にあるから、食べなさい」


「「はい…」」


 双子はエリオットに言われ、しょんぼりしながらもにもにと食べ始める。


 そんなふたりを私はぼんやりと眺める。

 シオルもシアラも、家族を気遣えるようになったんだなー。

 子供の成長ってやっぱ素晴らしいよね!

 さっきまで心配で食事が喉を通らなかったけど、今は感動で食事が喉を通らないよ。


「ほら、ファルも…」


 エリオットが私にも再度食事を促した時だった。


 グアアアアアァァァオオオ


 上空から魔物が突っ込んで来た。


 周囲は大混乱だ。

 馬車が破壊され、何人かが怪我をした模様。

 馬が一頭やられた。


 エリオットが双子を抱き抱えて退避。

 私もリヒトに抱きかかえられている。


「皆、散れ! 馬車も荷物も捨ておけ! 逃げる事に専念せよ!」


 双子を二人の護衛に任せ、エリオットが魔物に向かう。

 魔物は馬を食らうことに夢中になり、エリオットに気付いていない。

 魔物にゆっくりと近づいていたエリオットは、すぐ近くまで行くと一気に片付けにかかる。


 魔物は図鑑でみたワイバーンだ。

 ドラゴンよりは小柄というだけで、かなり大きい。

 小さめの2階建て住宅くらいはある。


 それをエリオットは一太刀で首を切り捨てた。

 ズシン…とワイバーンの頭が体から離れて落ちる。


 ああ、一瞬で終わったんだ、エリオットまじすげーと感心しかけた時だった。


「お嬢様っ!!」


「んむ!?」


 気付いたら私は地面にいなかった。

 なんだかスマキ状に何かにつつまれ上空へと運ばれている。


「…?」


「大丈夫です、私がお守りいたします」


 耳元でリヒトの声がした。

 私はリヒトに優しく抱きしめられた状態だった。

 わけがわからず、必死に視線を巡らした。

 リヒトは飛行する巨鳥の魔物の足に、腕と胴体をきつく鷲掴みされているようで、リヒトから流れ出るあたたかな血がじんわりと服越しに伝わってくる。


「お嬢様! リヒト!」


 ちょっと離れたところからロティルの声も聞こえる。

 声の方にも視線を向けると、ロティルが巨鳥の魔物の、私たちとは反対側の足に自らつかまる形でこちらに声をかけていた。

 私と視線が合うとほっとした様子だったが、リヒトを見て顔を蒼褪めさせた。


 どうしよう、リヒトの脇腹に食い込んでいる魔物の足の爪を引っこ抜かないと治療できない。

 でも上空にいる間に魔物の足に攻撃したら地面に落とされ、リヒトもロティルも無事ではなくなる。

 かといってこの状況で転移魔法なんて使えない。魔物も転移魔法の範囲に入ってしまうし、暴れられたらリヒトの脇腹をさらに抉ることになってしまう。


「リト……ロッテ…」


 じわりと涙があふれる。

 なんて無力な自分なんだろう。

 たくさん魔法を使えたって、たくさんポーションをつくれたって今ここで何の役にも立たない。

 もっと頭が良ければこんな時でもなんらかの打開策が思いつけたのかもしれないけど、あいにく私は今こうして目に涙をためてなされるがままとなっている。


「大丈夫です。…お嬢様、お手伝いをお願いできますか?」


 痛みを堪える声で優しく、丁寧に私に話しかけるリヒト。


「な、に?」


 もう私は泣いている。鼻水だって出てる。

 しゃくりあげのせいでうまく声が出せない。


「今からロティルがこの魔物の足を切り離しますので、その際、落下の速度を軽減させる魔法を使ってほしいのです。使えましたよね?風魔法の応用だと以前披露していただいたかと」


「う゛ん゛、でぎる゛」


 必死に痛ましい感じを出さないように私に言葉をかけるリヒトにさらに泣けてくる。


 私が返事をすると、リヒトはロティルと目配せをした。

 すると魔物の反対側の足にしがみついていたロティルが勢いをつけて私とリヒトがいるほうの足へ大ジャンプ…からの短剣で魔物の足を何度も何度も切りつける。


 その間、魔物が暴れてリヒトを掴む足にも力が入り、いよいよリヒトの顔が痛みにゆがむ。


 私はボロボロと涙を流し、必死に声を殺して成り行きに任せる。

 どのくらい経ったかわからなけど、体感的にしばらくして、ようやくロティルが魔物の足を切り落とすことが出来た。

 当然、私達は3人が重力に従い落下。


 既にかなり上空にいたのを知っていたので、私は落ち着いて魔法を発動させる。

 絶対失敗しない! けどなるべく急ぐ。


 もうすっかり夜になっているけど、夜でも見えるように視力を強化。

 あたりまえだけど昼ほど視界が開けるわけじゃない。

 でも月明かりが味方してくれた。

 満月だった。

 おかげで遥か下にある地面を視界に捕らえる事が出来た。

 なんだか地面がほんのり光ってさえ見える。

 これはラッキー。


 片手をリヒトの腕から出して、ロティルに向けると、ロティルはそれに気付いて私の手を握ってくれた。

 それを合図に私は魔法を発動。


 落下ポイントの地面すれすれに向かって転移!


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