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020 門外不出とお願いと大市と

 


「え、これすごくない?すごい通り越して事件だよね?」


 私の全自動お菓子製造魔道具を見てアレクシス先生が失礼なことを言う。


「このボタンを押せばプリンが出来て、こっちのボタンを押せばゼリーが出来るの?」


「そう。設定を変えて魔石を多めにセットすれば各種ポーションも作れる」


「やっぱ事件じゃん!普通こんなの無防備にこんなとこ置いておけないよ?!」


「普通の人はこんなところに来ないから平気」


 今日も暇を持て余したらしいアレクシス先生がウチに来た。

 そして私の調合室を見てみたいというから連れて来たわけだけど、さっきからこんな感じで私の魔道具の大半を事件扱いにする。

 魔道具が事件って意味が分からないんですけど。


「そうだよね、普通、こんな暗い地下室に前代未聞の恐ろしく高等な魔道具無いよね。なにこの明るさ、なにこの快適な温度に湿度に調度品に魔道具の数々!」


「便利だよ?」


「便利だけども!便利すぎるけども!…この温度調節できるソファー、売ってくれない?」


「ダメ。それは双子のお気に入り」


「ん?あの双子ちゃんもここに出入りするの?危なくない?」


「この部屋の魔道具は個体登録しないと使えないから大丈夫」


「なにその革命?!」


 そう、それはギルド証から発想を得た。


 この世界のギルド証は不思議なもので、個人の情報色々入っている。

 冒険者ギルドのギルド証はどんな魔物をどのくらい倒したかわかるみたいだし、ギルドに預金しておけば、デビットカードとして使える優れモノ。


 私が持っている商業ギルド証も似たようなもので、さらには商売に特化した機能が付いている。

 まだ小売ばかりで商人として取引はしていないのでイマイチ分からないけど、レシピや権利の売り買いとかに便利だという噂だ。


 けど何より、商業ギルドカードでも冒険者としてイケることに驚いたなー。

 冒険者は一応誰でもなれるみたいだけど、買い取りは余程酷い状態のものでなければいくらいい状態のものでも普通の値段でしか買い取ってもらえない。


 けど商業ギルドではいいものはいい値段で買ってもらえる。

 そのかわり、いいものじゃなければ買い叩かれる。

 それに商業ギルド証を得るには読み書きや簡単な四則演算能力と保証人がいないとダメみたい。儲けることには特化しているけど、識字率の低いこの世界でその敷居はなかなかに高い。


 と、脱線しましたが、そうなのよ。

 どんな原理で個人が倒した魔物の種類や数がわかるの?

 と言うところから、個人識別機能があるからだよね。って行きついた。

 ギルドではその不思議証の詳しい原理はわからず、昔からの魔道具で、個人のギルド証を発行するという以外わからないけど、便利だから使っているようだった。


 そう、その便利にはわけがあるハズ!と、前にアレンジークが昔作った事があるという冒険者ギルド証を見せてもらった時に色々「視て」着想を得るに至ったのですよ。


 と言うのをざっくりとアレクシス先生に説明した。


「え、あの原理わかっちゃったの?それ、世界3大不思議と言われている謎だよ?今まで誰も解明できなかった大昔の遺産だよ?あ、でも教えてくれなくていいからね、怖いから。大きな陰謀に巻き込まれる未来しか見えないから」


 アレクシス先生は未来視のスキルでも持っているのかな?


 未来の陰謀が見えたらしいアレクシス先生は、そのあと私の魔道具の事をとやかく考えるのはやめて「便利なものは便利なんだからそれでいいよね!」と、思考を放棄し、「じゃ、ついでだから双子ちゃん達に魔法の基本座学でも教えてあげよっかなー?でもまだ年齢的に早いかなー?でも小遣い稼ぎになるから教えてみよーっと」と言って調合室を出て行った。


 静かになった調合室で、私はやっと落ち着いて作業できる。



 その日の夜、私は両親に調合室の魔道具は滅多なことで人に言わないようにと約束させられた。

 アレクシス先生が一応心配して両親に報告したようだ。

 両親も心配してアレクシス先生に私の魔道具がどんなものか見てもらった感じだった。

 結果、ヤバいものだから門外不出で扱うならたぶん大丈夫だろうという話になったみたいだ。


 アレクシス先生が暇を持て余して私の調合室の見学をしたわけではなかったみたいで私も安心した。


 後日、門外不出の情報なのに、何故か王家から温度調節できるソファーの発注があった事に、両親はため息をつきつつ頭を抱えていた。



 ・・・・・・・・・・



 いつもの、朝食後の穏やかなお茶の時間。

 意を決して私はエリオットに切り出す。


「リオ、お願いがある」


 私には最近、やってみたいことがあった。


「なんだい?」


「ダンジョンに行きたい」


「ダメ」


 即答だった。

 まぁ、わかってましたけどね。


 プロでも油断したらあっさりと死んでしまうダンジョンに、こんな幼女放り込むわけにはいかないよね。

 侯爵家の体面もあるし。


「…残念」


 しょんぼり。


「アレンジークに言ってもダメだからね」


 先手を打たれた。

 くそぅ。


「…はい」


 アレンジークなら護衛を付けるとかの条件付きなら許してくれそうだったのに。


「何が欲しいの?」


「変わった魔物の素材。あと普通に魔石の原石」


「普通は魔石の原石そのものを欲しがることはないと思うんだけど。変わった魔物の素材と言うのはどういうモノ?」


 確かに普通は魔石の原石よりも魔石を加工したものを使うからね。

 でも私には使いづらいんだもの!

 自分のさじ加減で微調整できる魔石の原石が欲しいんです!

 微調整できる加工の魔道具も作ったしね。

 おかげで他の魔具や魔道具作成が進む進む。


「店に無いものなら何でも。何かに使えるかは見てから考える」


「店、ねぇ。だったら市に行ってみたら?雑多なものがいろいろあるから見ごたえもあるし、物珍しいものも売っているよ。確か来週、商業街で大市が開催されるはずだから、行ってみるといいよ」



 ・・・・・・・・・・



 やってきました大市。

 この数日、長かったぁ~!

 この日が楽しみでしかたなかった。


 楽しみが抑えきれなくて、ここ数日、私の芸術が爆発したよ。

 専門的な知識はないけど、フォルムだけは覚えていたので、それを魔法と魔術式と錬金術を組み合わせて車を作ったよ。

 エンジンの代わりに魔術式、起動に魔法、燃料に魔石、フォルムは錬金術で金属や魔物素材を加工した。


 タイヤは思うような素材が見つからないのでいっそのことなくして、地面から30センチ程度浮かせることで問題解決。

 馬車よりコスパいいし、早いし、音もないし、振動もないし。


 最悪燃料が切れたら自前の魔力でも動かせるし、それも切れたら鍵型魔具に内蔵された【アイテムボックス】に収納すれば持ち運びにも便利。


 いいものが出来た!未来カーみたい!と自画自賛しておいた。

 じゃないとあまりに見た目が馬車とかけ離れ過ぎていて誰も褒めてくれないので。


 おっと、脱線脱線。


「お嬢様、わたくしたちから離れないようにしてくださいませね」


 私はロティルに手を引かれ、人ごみの中を歩いている。

 リヒトは周囲を警戒し、きちんと護衛してる。


 両親は仕事で、双子は留守番。なので私達だけだ。

 双子はまだ知らない人や人が多いところは怖いみたいだったからね。かわりにお土産を買ってくることを約束したよ。


 人ごみにまぎれながら、それでもなんとかたくさんの店をめぐることが出来た。

 変なトラブルにも巻き込まれていない。

 これもひとえに私の黒髪のおかげだね。スリですら近づかない。人ごみも微妙に私を避けてくれるし。ひゃっほぅ!不吉を呼ぶ黒髪様のお通りだぜ!


 そんなこんながありまして、大量の戦利品をゲット出来ました。

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