019 不吉な魔女の店
商業ギルドと言うところで商会を立ち上げる申請をし、その日のうちに会頭になった私。
その時ちょっとした衝撃の事実が判明した。
ギルドカードという、身分の証明証を発行する際、自分の情報を明確化する為に血の一滴程度を特殊な機器に垂らして身分に偽りが無いかを判じるんだけど、その時に私を示す情報が出た。
いわゆるステータスというやつだ。
そこに出ていたのは
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ファリエル=レオンドール=ロキシス
年齢:5
種族:ザシキワラシ
恩恵:--
称号:--
RANK:商業ギルド G
―――――
となっていた。
ん?
んんっ?!
種族、人間とか人族とか、ヒューマンとかじゃないの?!
妖怪?!
こちら的にいうと、妖精とかそんなやつなの?!
一緒に来た両親も不思議に思ったようで、「書類と違う」とか「聞いた事の無い種族だ」という言葉をこぼすも、数秒後には「魔力があってきちんと受け答えが出来ているんだからなんの問題もない」という判断になった。
ウチの両親はマジおおらか。
私でさえまだ動揺してるんですけどね!
そんな動揺を抑え、ギルドで受けた説明は、この証明証は現段階ではあくまで商業ギルドのみで適応されるもの。
その他ギルドに登録する際はギルド証に適宜追加される。
一番下のRANKとは、業業ギルドへの貢献度によって上がる。
ギルドへの貢献は納税やギルドのクエストを達成する事により上がる。
と言うものだった。
ちなみに「恩恵」や「称号」というのは、7歳になったとき、教会で受ける洗礼で得るものなので今は空欄だ。
同時にその時に自分で自分の状態がわかるようにステータスがわかるらしい。
なんと、私が今まで試行錯誤してステータスを知ることが出来ないかとしていたのが、きたる年齢であっさり出来るようになるとは…。
ちょっとしたがっかり感は否めないけど、それでもステータスがわかるようになるのは今から楽しみで仕方ない。
あとはその7歳からは貴族の子供は学園に入れるし、冒険者ギルドに登録できる年齢だ。
学園は正直どうでもいいけど、ステータスを知れるし冒険者ギルドに入れるかもしれないのは素敵だよね!7歳って!
冒険者になって魔石がたくさん得られれば今以上にたくさんいろんなモノがつくれる!同時に素材をえられればさらに研究は広がる!
今でも欲しいものは自由に手に入れることはできるけど、両親が許可を出したモノだけだし、すごい素材は市場には出回らず、オークションにかけられる。私には手の届かないものなのだ。
でも現段階で手に入れるもので全部研究したわけじゃないからまだまだ楽しい盛りなのだけれどね!
と、かなり脱線しましたが、自分の種族に衝撃を受けたことと、私の種族に両親がほぼ動じなかったこと以外はすんなりと商業ギルドに登録できましたよ。
そしてその足でこぢんまりとした空き店舗を侯爵家のカネとチカラでサクッと購入し、仮の店舗とした。
小さな店舗と言ってもそれは”貴族視点で言えば”であって、私からしたら立派な店舗だ。コンビニくらいの広さがあるんだから結構広いと思わない?
「ま、とりあえずはこんなもんでいいとして、と。…てか流石侯爵家。こんな街の中の空き店舗を即日一括購入とかエグイよね」
今朝からの話で流れるようにその日のうちに店舗を得たことに、アレクシス先生がぽつりと漏らす。
「こんな小さな店を買ったところでなんになる?まともに商売をするならもっと大きなものでも良かっただろう」
先生のそのつぶやきに、生粋の上位貴族のアレンがこともなげに帰す。ちょっと呆れ顔だ。
「いいのいいの。このくらいで。『店がある』という事実があればいいんだから。そう言うもんだと思ってよ。ではファルちゃん、適当でいいからお店の名前考えてよ。看板だけでも作って掲げておこう。看板は今日中に発注すれば明日朝イチにでも取り付けてもらえるだろうし」
先生は魔術師なのになんでこういうこと詳しそうな感じなんだろう。
詐欺師と言われたほうがよっぽどしっくりくるお人柄だよね。
と思いつつ、直ぐに頭のなかに浮かんだ店名をこたえる。
「不吉な魔女の店」
「えー、それはあんまりじゃない?」
「そうだな。では…”ファリエルの店”でいいんじゃないか?」
「ファルはどうしてそんな店の名前にしようと思うの?」
「商品を買った後に黒髪の私の店だと知ったら騙されたと思うけど、さいしょからそんな名前にしておけば、気にしない人や、あえて買いに来る人しか来なそうだから」
「「「なるほど」」」
「商会を立ち上げたり店舗購入をすすめたのも上位者対策みたいなもんだし、儲けようと思ってないならいいと思うよ。てか、儲かる未来しか見えないけどね。貴族って搾取が基本だからね!」
「アレクシス、ファルに変な事教えないでくれるかな?」
「すみません、エリオット様。良い子のファルちゃんは速やかに今の忘れてねー」
あ、うん。
私、良い子なので。
「じゃぁあとは、出来る対策はしたし、戻って料理長殿に報告して点数稼ぐかなー。また軽食用意してもらえるように!」
そう言ってさっさと消えるアレクシス先生。
なんだかんだいい人で世話を焼いてくれるあたりが憎めないよね。
今日、こうして私が商会を立ち上げ店を持ったことで、その料理長と言う人に対しても、エリオットや私に対してもどちらにとっても損にはならないし。
「さて、そうしたらこの店舗にも1人くらいは人を置かないといけないのかな」
ただの空き家状態のここに人を置いてなんになるんだ?
「そうだな。あの様子では料理長から何らかの連絡が来るだろうしな」
「はぁ、ごめんね。ファル。こんな大げさなことになっちゃって」
「ううん」
第三者がいなくなるといつもの柔らかな雰囲気になるエリオットとアレンジーク。
うん、私、こっちの二人の方が好きだな。
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数日後、私はあの店舗を改装し、きちんとしたお店にしていた。
魔法があれば何でもできるというのを双子に知ってほしくってつい頑張った。
そうして出来上がったのは前世風のアンティークな雰囲気があるケーキ屋さんと服と小物のお店。
店舗を半分にして、きちんと壁を作り、出入口も二つ作った。
大きな窓で、店内が見えるようにもした。
一応バックヤードでは繋がっているので、在庫置き場や休憩室はその空間で足りる仕組みだ。トイレも給湯設備もきちんと作りましたよ。
ケーキ屋さんはガラスのケースに生菓子を入れ、壁にあつらえた棚には日持ちする焼き菓子類を置く。
一応この世界にないタイプの焼き菓子やお菓子を揃えてみた。
レオンドール家ではクッキーやパウンドケーキみたいなのは普通に出てたから、それ以外だね。
服と小物の店は小さなショーウィンドーを作り、その中にマネキンを1体だけ設置してどんな服を売る店なのかわかるようにしてある。
どちらもこの町にはない「見せるお店」なので多少は人目を引くはずだ。
そして何より、この店は出来あがったものを置いているだけなので、販売するだけなら誰でも出来る。
あ、訂正。
文字の読み書きと計算、接客が出来る人だ。
この世界、やっぱりと言うかなんというか、識字率が悪かった。
店も「お売りする」じゃなく「売ってやってる」系なので、私が思うような接客とか無かった。
余程の大店の貴族に対する商売なら接客と言えるけど、一般人が買うようなお店では、接客らしい接客はないように思えた。
なので、エリオットにお願いしてメイド教育されている人材を4人貸してもらった。
生菓子も焼き菓子も家で作ってお店に持っていく。
生菓子は大量に作りやすいものを3種類だけで、1ホールずつ、冷蔵機能付きショーケースに入れる。売れ残ったら店員達で食べても良いし持ち帰っても良い。万が一売れたら【アイテムボックス】の魔具から作り置き分を補充。
日持ちする焼き菓子は種類多めで数は少なく。売れた分だけ補充して、1週間で売れなかったら、同様に処分して新しいものに入れ替える方向で。
服は見本しか置いて無いので店舗で注文を受けるだけ。
小物は現品そのまま買える。服はレオンドール家のあの仕立て屋さんに頼むことになっているけど、小物は私が作っている。
ネックレスやイヤリング、ブレスレットに髪留めや髪飾り、ブローチとかかな。
初期費用や人員以外は私のお金で何とかなった。
このまま続けて赤字になったら閉めるかもだけど、せっかく店舗があるんだからちょっと冒険してみたいじゃん?
まぁ、店の名前がアレなので、まともに商売出来るとは思ってないけど。クレーム来るよりいいよね。わかりやすくて。
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店の開店初日。
両方の店に出している分の商品、サンプル含め全部王家が買って行った。
開店して数分でその日は店を閉めることになった。
王族の手前、あとから【アイテムボックス】から出して売ることが出来なかったみたいだった。
次の日、さすがに服と小物の店はサンプルも無くなってるので開店に間に合わず、休業。サンプルが出来あがり次第また店を開ける予定。
ケーキ屋さんの方は、生菓子を2ホールずつ、焼き菓子を初日の倍出してみるように言っておいた。
でもまた数分で完売。
王城の料理長が全部買って行ってしまったとか。
その次の日はケースギリギリ一杯の3ホールずつ置いて、焼き菓子もカゴいっぱいに盛ってさぁ営業。
でもやっぱり数分で完売となった。
今日は宮廷魔術師長なる人物が全部買って行ったらしい。
あとから聞いた話だけど、その宮廷魔術師長っていうのはアレクシス先生のことだった。
小遣い稼ぎのバイトにはしゃぎ、ホイホイ気安くウチに来てた人が、宮廷魔術師長って…。
私へのお詫びに魔石とお砂糖をくれたから金欠のはずだったんだけどな。もう少し搾りとれたかな?
生菓子や焼き菓子の作りは専用の魔道具を作ったので、大量に作っておくことが出来ている。
材料入れれば魔道具が勝手に作ってくれるようにしたので、私一人で何とかなる。他人にレシピが漏れる心配もない。
出来あがった商品も、梱包は人手を借りるけど、あとは【アイテムボックス】の魔具に入れるだけ。
一週間後には服と小物のお店も再開。
サンプルも多めに作ってもらったけど、またすぐどこかの貴族が無理言ってサンプルごと買って行くんだろうなー。
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予想に反して店は大繁盛となっている。
小さな店舗なのに連日大盛況。
商品も人気らしいけど、上位貴族家に勤めるガチなメイドが店員をしている事でも客が来る理由の一つとなっていた。
店の商品は一般人にはなかなか手が出せない価格だけど、お金持ちの平民はそれなりにいるみたいだからね。そう言う人達は貴族家のメイドってあこがれの対象らしいから。
「ファル、陛下と王女殿下が、新作が出る時は事前に教えてほしいって」
「わかった」
「しかし、調合室でそんなにたくさん菓子を作ることが出来るのか?本格的な調理スペースなど無かったはずだが」
「材料全部魔道具に入れれば勝手に出来あがるから平気」
「…なんかすごい事聞いた気がする」
「奇遇だな、エリオット。俺もだ」
「「ねえさますごいです」」
お店は忙しいみたいだけど、我が家は至って平和だ。




