018 軽いよねー
心を開いた双子が侯爵家に馴染むのは早かった。
自分たちに何が出来て何が出来ないのかをきちんと自分たちのメイドや護衛に話し、周囲に助けてもらうことを覚えて毎日勉強をしている。
私が率先して両親に可愛がられる姿を見せ、この人達は大丈夫な人達だよと視覚的に教え込んだ。
その甲斐あって今では二人とも両親に撫でられるのに何の構えや怯えもなく、大人しく、嬉しそうに撫でられたり抱っこされたりしている。
あとは食事。まだぎこちないながらも普通にカトラリーを使った食事が出来るようになった。
子供って覚えが早いって言うけど、ホントだねー。
「ねえさま。これはなんていうおかしですか?」
「あまくてフワフワでモフモフです」
「マシュマロ」
「「まちゅみゃりょ」」
「ま」と「ゅ」しか合ってないけども。
「……マシュマロ」
「ふふふ。これは面白い甘味だね。不思議な食感だよ。ファルが作る甘味はどれも不思議な食感だけどね」
「そうだな。これはいったいどんなもので作ったんだ?最近は変わった素材を買った様子はないようだが」
両親ともに男だけど、別に甘いものは苦手じゃないみたい。
でも濃かったり甘過ぎるものよりあっさりした甘さが好みの様。
なので、イタリアン風味なプリンよりも、簡単な方のプリンや甘さ控えめのフルーツゼリーを好んで食べている。
あとはひとくちサイズの片手でつまんで食べるお菓子も好きみたいだったから、今日はマシュマロを作ってみたんだよ。
もちろん甘さ控えめでね。
「ゼリーの素材」
「ああ、あれね」
「牛や豚の皮だったか。何度見ても不思議なものだな。アレがゼリーやこの様な菓子になるのだからな」
ふふふ、ははは、と笑い合う両親。
なにが面白いのか。
いや、違うな。
見つめ合う口実が欲しいだけだね。
はいはい。甘さ控えめのマシュマロ甘い甘い。
「ねえさま、これはぶたなのですか?」
「おにくからおかしができるのですか?」
「魔法があれば何でもできる」
「「ねえさますごいです!」」
「いや、違うからね?魔法でも出来ないものは出来ないからね?」
一応当家ではエリオットがツッコミ役的なポジションにはいるけど、雰囲気の甘ったるさのせいでツッコミにキレも説得力もない。
そんな家族でお茶をしていると、エリオットの執事が来客を知らせる。
エリオットが許可すると、程なくして客がきた。
「よっ! ご両人。家族サービスしてるか?」
やってきたのはアレクシス先生だった。
「仕事を頼んだ覚えはないが、何しに来たんだ?」
「うわ、イトコ殿冷たいなー。冷血が感染ったんじゃない? 一緒に暮らすと似るもんだって良く聞くけど、政略結婚でも似るんだねー」
「ほざけ」
「で? アレクシス、今日はどうした?」
「あぁ、そうそう。昨日小腹がすいて中央大調理場になにかつまめるもの無いかなーと行った訳よ」
さっさと要件を言わずにもったいつけるように語り始めるところが妙に貴族っぽいと思ってしまう。
「なぜわざわざ中央に行くんだ。魔術師宿舎や騎士宿舎でいつでも食べられるような物が用意されているだろう」
「いやいや、あんな味もそっけもないものをわざわざ小腹を満たすためだけに食べないよ。中央なら王族の皆さんに作ったあまりものでもあるかなーって。やっぱおいしいじゃん、王族のたべるものって」
「なんと不敬な……」
「おっと、近衛騎士団長サマの前で言うことじゃなかったな。でまぁ、行った訳だが、たまたま料理長が居たからちょっと残り物を貰えないかお願いしたわけよ。そしたら料理長、僕がこの家に出入りしているのを知ってたみたいで、軽食を作るからエリオット様に聞いてきてくれないかって頼まれたんだよね。ってことで、今回はエリオット様に用ってわけ」
「私に何の用だ?」
微妙にお仕事モードになるエリオット。
それにちょっとビビる双子。
大丈夫だよって、こっそり言ってあげる私と、自分には関係なさそうだと判断し、私と一緒に双子のフォローにまわるアレンジーク。
それを物凄い意外そうに驚くアレクシス先生。
「……なんだ?」
そんなアレクシス先生に気付いてアレンジークは胡乱げな視線を送る。
「いや、普通に家族してるなーって」
「当り前だろう?」
「そうか? 城ではお前達犬猿の仲だし、一緒になってファルちゃん引き取ってから、多少はファルちゃんを介して会話をする程度だっただろう? 全員集まってるのを見るのは今日初めてだけど、僕は物凄く驚いているよ。あぁ、そうだよね。子供の前じゃあの感じ出すと大泣きされるか嫌われるか怖がられるから隠した方がいいのはわかるけど、それにしたって完璧に和やかな雰囲気出してない?すごいね!」
それを子供の前で言うのはどうなの、アレクシス先生。
双子は良くわかってなさそうな顔してるからセーフだけど、私はしっかり理解してますからね?
それに子供の前だから仲良くしてる風に見せているわけじゃなくてガチで仲いいですからね、うちの両親。
でもずっとお城での二人の態度見ればそう思うのも仕方ないか。
先生がこの屋敷に初めて来たのは私が引き取られてからって話だったし。
先生が来る時は両親が揃っていたのって最初だけだったし。
そのときだって二人が会話をしているのは見て無かったのかも。
幼女の私が魔法を使っている姿に驚いてそれどころじゃなかったからね。
「はぁ……。それを子供の前で言うのか、お前は」
心の底から呆れた風に言うアレンジークに、ハッとして口元を抑えるアレクシス先生。
「あ、ごめん。アレンジーク。それにエリオット様も。……ファルちゃん、本当にごめんね。僕に出来る事だったら何でもするから! 許して!」
と言うので、一応両親に視線を向けたら頷いたので、早速要求する。
「たくさんの魔石とたくさんのお砂糖が欲しい」
「……うん。堅実でえげつない要求だね。頑張れば僕に揃えられるってのがまたギリギリを攻められた気がする」
魔石も砂糖も高いからね!
でも魔石はそのうち自分で用意出来るようになりたいな。
冒険者ギルドに登録してダンジョン行って魔物倒せば手に入るって話だったからね。
ダンジョン。
いい響きだよねえ。
冒険者登録できるようになったら絶対行かなきゃ!
ふんすっ。
「で? 私に用とは?」
脱線しまくったところで再度エリオットの口から出る同じ質問。
それにハッとして「そうそうそれでですね」と気持ちを切り替えるアレクシス先生。
先生のメンタルはきっとアダマンタイト製だと思う。
「前に料理長経由で王女殿下にお渡しした甘味を売っている店か、料理人を紹介して欲しいらしい」
「それは……」
察するに……私ですかね?
もしかしてお城に御奉公に行かなくてはならない感じですかね?
黒眼黒髪の不吉を呼ぶ宮廷料理人の爆誕の瞬間ですかね?
「あの料理長が素直に絶賛していたらしいんですが、一体どんな甘味ですか? あなたから預かって、味見や毒見も兼ねて少し食べたけど、どう作ったのかわからないし、あの味や食感が忘れられないって。話を聞こうにもあなたは手短に用件だけ言ってモノを渡してさっさと職務に戻るし、事情を知ってそうな王女殿下に折をみて聞こうにそうにも、ニマニマしながら『ひみつですわ』って教えてもらえないしで、ほとほと困ってましたよ。ってこれウマ!なんですかコレ!?」
ズラズラとしゃべりながら席に座って出されたお茶を飲み、流れるようにマシュマロを頬張って驚きの声を上げる先生。
この人ものすごく残念な人だけど、同時に物凄く器用な人だよなーって、いつも感心しております。
「先日の甘味もその菓子もファルが作ったものだよ」
「え!? マジで!? けどファルちゃんなら納得か!」
納得しちゃった!?
ウソでしょ信じられない!
とか言うんだと思ったけど、驚いたのは一瞬で、すぐにスンって感じに納得されてしまった。
それから
「そっかー。だったら商会でも立ち上げて甘味売ったら大儲けできるんじゃない? あの料理長の様子からすると間違いないね。うんうん。それに最近のファルちゃんの服やエリオット様、さらにはアレンの私服が洒落はじめたのもファルちゃんの影響でしょ、たぶん。だからやっぱり商会立ち上げて利益守った方がいいよ」
と先生はつなげた。
その話に両親は納得してしまい、そしてフットワークも軽く、その日のうちに私は商会を立ち上げることになった。




