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015 婚姻の真実

 


「なんでこんなとこにまで近衛騎士共が」


 誰かがボソリと呟くのが聞こえた。


 近衛騎士。

 エリオットの所属だよね。


 それに前に鎧姿で家に戻ってきたエリオットを見たことがある。

 その時エリオットが着ていた鎧とお揃いの鎧を着た人達。


 その中にエリオットの姿も見える。


 でもちょっと表情がかたい? 無表情というか。

 仕事中だからかな?


 私が不思議そうにしていると、いつの間にか隣にいたガイズがコソッと教えてくれた。


「王国騎士団と近衛騎士団って仲悪いんですよ。それはもう絶望的に。数年前にガチの衝突があって、それで前の王国騎士団総長と近衛騎士団長が退任。かわりに今の総長と近衛騎士団長に代がわりしたんだけど、それでも険悪さは変わらず、仕方なく王が現総長のアレンジーク様と現近衛騎士団長のエリオット様にある種見せしめ的に婚姻するように王命を下したんですよ。これでも一応両騎士団の関係は柔らかくなった方なんですよ」


 と言って私に同情的な視線を向ける。

 なんだかんだ説明あざッす!


 てか、エリオットが近衛騎士団長!?

 アレンジークに続いてのまさかの衝撃的事実。


 結婚の理由然り!

 マジかーーーー!


 でもなんでガイズは私に同情的な視線を向けるのよ?


「?」


「逆になんでそんなに不思議そうな顔をしているかわかりませんが…って、そうか。5歳児に人間関係を説いてもアレですよね。ファリエル様のご両親は、家では優しいですか?」


「うん」


「……なら、良かったです。家でもあんなんじゃキツイですからねぇ」


 そうなの?

 家じゃ彼ら、控え目に言ってラブラブだけど。


 でもなんかここじゃあ、めっちゃピリピリしてるねー。


 なんで?


 近づいてくるエリオットの顔は、違う人みたいに冷たい感じ。

 初めて見る表情だ。うん。団長っぽい。いいね。職人だね。


 アレンジークはどうなんだろうと思ったけど、彼の斜め後ろにいる私からはその表情は見えない。

 でも雰囲気がギスギスしたものであることは感じ取れる。


 なぁに?

 どういうこと?

 なんでみんなそんなにピリピリしてるの?


 あわあわオロオロする私に気付いたガイズが


「総長」


 とアレンジークの傍に行き、声を掛ける。


 それに気付いたアレンジークが、ガイズを見て、それから私に視線を向けてハッとした顔をする。


 自覚はある。

 私、半泣きしてる。


「ファル…」


 アレンジークが私に声を掛けたところで、別の声にかき消される。


「姫様! 走ってはいけませんっ!」


 女性の声だ。

 声のする方を見ると、どうやら女性騎士。

 そしてその彼女の視線の先には満面の笑みでこちらに向かって走ってくる、少女が。


「あなた! あなたね! あなたがファリエル! 想像していたよりもっとずっとたくさんかわいい! すっごくかわいい! こんなに可愛い女の子だったなんて!! んうーっ、可愛すぎるーっ」


 なんて言いながら両手を広げて駆けてくる。

 そしてそのまま私に抱きついた。


 てか私を抱きあげた。

 お姫様物凄い力だな!?


 されるがままの私。

 きつく抱きすくめられたままブンブン振り回される。


 これ、普通の幼女だったらただじゃすまないですからね!?


「あ、姉上! そのこ…ファリエルがつぶれてしまいますから!」


 別な子の声もする。

 状況から言ってこの少女がお姫様で、「姉上」と声を掛けた方がお姫様の弟で王子様の人なんだろう。


 ブンブンされながら一瞬確認出来たけど、同い年くらいの男の子だ。


 ブンブンしてる方は12歳くらいの女の子。


 あ、あたまがぐわんぐわんしてきたよ?



 ・・・・・・・・・・



 どうやら私は全身をシェイクされて一瞬気を失ったらしい。

 耳元で大声で泣いている少女が。


「ごめんなさいっ! あまりにも可愛くて、大好きって思って、ぎゅーってして、そしたら、そしたら、どおしよおぉぉ、この子死んじゃうーーーっ、ううっ、うぅぅぅっ」


「…気が付いたみたいだな。…殿下、ファリエルは大丈夫です。ご安心ください」


 エリオットが私の状態に気付いてお姫様に報告。


 周囲を確認すると、未だ訓練場にいると言うことは気を失ってそんなに時間が経っていないのだろう。


 数十秒か1~2分ぐらいかな?


 私は地べたに座ってしまったお姫様に抱きかかえられている。

 簡易的ではあるけれど、お姫様によるお姫様だっこ状態。


 まさかこんな形で初お姫様だっこをされるなんて。人生何があるかわからないね。

 それを言ったら貴族家に貴族の娘として引き取られることもそうだけど。


 でもおかしいな。

 黒髪黒眼って嫌われてるんじゃなかったっけ?

 なんでこんなに熱烈歓迎状態なの?


 あ、でも一部視線が気味悪がっているものがあるからこのお姫様達がアレなのかな。


 気持ち悪そうにこちらを見ているのは服装から言って文官や侍女侍従の人か。


 騎士団員の人達からは私が感じ取れるほど嫌な視線は向けられなかった。

 好敵手的な獰猛な視線、あるいは珍獣視されるくらいなもの。


 お姫様からは本当に心配な気持ちだったり、好意的な感情を向けられているっぽい。


 好意的な感情と言うが正しのかわからないけど、少なくとも悪意には敏感な私なので、お姫様や王子様、近衛騎士や王国騎士からは否定的な感情は感じ取れない。


 感情と言えば、近衛騎士と王国騎士の互いへの感情がおかしなことになっているな。


 妙に殺気立っていると言うか、嫌悪感をあらわにしていると言うか。


 私が気を失っている間にちょっと離れてしまったエリオットとアレンジークがいつもと違う。


 イライラしていたり、本当に嫌なものを見るような。


 家での二人と全然違う。

 これはなんだか不思議な…ふしぎな。


 ふと気になり空を見上げると、薄っすらと膜が張っている様な。

 魔法攻撃や飛翔型の魔物から城を守る結界?

 でもなんか違う。混ぜ物がされている結界と言えばしっくりくるかも。


 気になって視力に集中して【身体強化】と【身体操作】と【魔力視】【魔術式解析】を乗せる。


【魔力視】は、なんとかステータスが見れる魔法を再現できないか思考錯誤している時に偶然開発した魔法だ。

 ステータス確認が出来る魔法やスキルはまだ再現出来てないけど、魔力を目で見る魔法は開発出来たのさ。

【魔術式解析】は魔術式の勉強してたら出来るようになったやつ。

 言ったらアレクシス先生がリアルorzしてた。


 で、スキル盛で結界見たらヤバそうなのが見えた。


「あ。」


 思わず声が出ちゃった。


 でもアレ、呪いだよね?

 祝福効果があるものも混じっているけども。


 結界に薄く混ぜられてるけど、団結の祝福と、険悪の呪い。

 結界に魔法陣が組み込まれている。

 それと極々風味付け程度に集中力散漫になるデバフ効果が。


 ほうほう。

 団結の祝福は、仲間意識が強い者同士は切磋琢磨出来るけど、険悪の呪いは…魔法陣指定されていて、『王国騎士対近衛騎士』と言う風にされている。

 集中力散漫のデバフは本当に弱い効果だけど、嫌悪の呪いについて気付きそうになると「あれ? いま何か気付きそうだったのになんだっけ? そのうち思い出すだろうからいっか」みたいな効果を狙っている模様。

 と言うことは…


 なんか、仕組まれてません?


 結界に薄く混ぜられていると言ってももともとが結構強めの呪いみたいだ。

 対立し、空気をピリつかせてはいるけど表面上なんともないのはたぶん騎士達の耐性が高いのと慢性化しているからかな?


 でも違う所属の騎士同士、あまり顔を合わせることもなさそうだし、そこまで気にする事もないのかな?



「ファリエル?」


 お姫様がぼんやり空を見つめる私に不安そうに声を掛ける。


「ファル?」


 私の表情と呟きに何かを察したっぽいエリオット。


 でもここではなんか言いづらい。

 きっとこれは誰かが仕組んだであろう現象だから。


「はしたないすがたをさらし、もうしわけございません」


 とりあえず、現状のせいにして取り繕う。

 私がそう言うと、お姫様はハッとし、次に顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。


「ああぁぁ、あの、わたくしが勢い余ってファリエルを締め上げてしまったのです。その、興奮を抑えきれなくて。あなたに会えた感動と、あなたの愛らしい姿に我慢できず、つい」


 なんの告白ですかね?


「姉さま。それでは粗暴者と変わりないのでは?」


 王子様は私と同い年っぽいのに随分と落ち着いていらっしゃる。

 その歳でそんなに落ち着いているってことは。

 5歳児がこんなに落ち着いていしまえるほどに、よっぽど王家はツッコミ役が不足とみえる。


「っ!? とととにかくっ! わたくしはあなたと会えて感動しております。はじめての邂逅がこの様な形になってしまったのは大変残念ではありますが、気を改めまして今日は一日親睦を深めましょう」


 おかしいな。

 お姫様の言っているニュアンスが微妙におかしい。


 私は今日、昼前の小一時間のお茶の時間にお呼ばれされたんだよね?

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