014 暇つぶしの模擬戦と言う名のほぼ実戦
いつの間にか周囲にはギャラリーが湧き、私とガイズの模擬戦を観戦しようと集まっている。
私はアレンジークの腕から下ろされ、ガイズと対峙する。
【アイテムボックス】から木剣を取り出し、構える。
「え、ちょ…木の棒じゃないですか!? それを木剣とか言ってたの!?」
「滑らかに削ってある」
木の棒呼ばわりにカチンときて思わず言い返してしまった。
だってこの木剣、お気に入りなんだもん。
木剣と言う名の木刀が。
アレンジークが私とガイズから一定の距離を離れたところで模擬戦開始の合図を入れる。
ガイズははじめに私の出方を見るようで、木の盾と木の剣を構えて防御の姿勢をとる。
それを見て私はすぐに【身体強化】をはじめから全力で使う。
推して参ろうじゃないか!
今回はきちんと【身体強化】のみの魔法でロケットダッシュして力の限り突く。
どこか隙を突くわけでもなく、木盾の真っ向勝負だね。
カチ割って行こう。
【身体強化】を乗せてのトップスピードで木盾にぶつかり、ここでやっと私が地を蹴って出た、ドンッ という衝撃音が鳴り響く。
それからカンッと音がし、木盾が縦にパッカリと割れる。
ふっ、音は遅れてやってくるのさ。
「は? え、今のはどういう…」
一瞬の出来事にポカンとするガイズ。
そのことに生意気にも言葉を返す私。
「まだやる?」
木刀の先をガイズに向けたまま、なるべく胸を張ってドヤって言う。
『……………………。』
…スベったかも。
ガイズ含めギャラリーもみんな無反応なんですけど。
あ、違う。
アレンジークだけニヤついてる!
すみません。調子に乗りました。
今の取り消しです!
いやーー! そんな目で見ないでー!
「…続行だ。こちらも剣のみで打ち合わせてもらう」
あわあわと視線をさまよわせていたら、さっきまでよりも低い声でガイズが宣言。
あれ?
これって殺気ってやつ?
こっわ!
未だ近距離にいたままの私に盾を失って空いた手で木剣を握りって両手で構え、ガイズは身長差を活かした上段から振り被った。
うわっ、危なっ!
慌てて私は木刀を横にして頭上で木剣を受け止める。
と見せかけて、打ち合う瞬間に斜めに構えて木剣をいなしつつ飛びあがり、下に流すように木剣をいなした木刀を素早く逆手に持ちかえる。
飛び上がり先はガイズの肩。
ガイズが剣を引くより早く、小回りの利く体の小ささを活かして肩車の状態になり、そこで木刀をガイズの首にあてた。
ポイントはしっかりワンピースのスカートのすそを整えた形で肩車状態になることだ。
どうだ、淑女だろう?
「そこまで!」
ここまでもまた、はたから見れば一瞬の出来事だったと思う。
剣の打ち合いすらしてないけど、アレンジークによる試合終了のお知らせが掛ったので終わり。
「くっ…!」
すっごく悔しそうな顔をしてガイズがなんとか戦意を内に収め、項垂れる。
ん?
くっころ? くっころ出ちゃう?
騎士だけど、女騎士じゃないのでノーセンキューですよ?
いや、女騎士でもごめんこうむるけども。
「力でも、技術でも押し負けるとは…」
くっころじゃなかった。
よかった。
ですよねー。ただの模擬戦でくっころは出ないですよねー。
ちょっと聞いてみたかった気がしなくもなくなってきたな。
ん? ”ただの”模擬戦?
いやいや、さっきものすごい殺気受けた気がするんですけど!?
模擬戦だったんだよね?
命のやり取りじゃないんだよね?
自分の脳内感想にゾっとする。
ガイズは木剣を握る左手をぼんやりと眺めている。
左手?
はじめは右手に剣、左手に盾を構えていたよね?
そのあと盾が壊れて、剣を両手持ちしてたけど…。
って、なんか右手ぷらーんってなってない?
え、大丈夫?
…じゃないよね!
ヤッチマッターヨ!
「初撃で折れたのか?」
アレンジークもガイズの右腕に気付いたようで声を掛ける。
でもその声のかけ方が「髪切った?」みたいに気軽いんですけど。
骨折ですよ?
もっと心配したげてよ!?
「いや。最初にヒビで、次に剣をいなされた時に受け流しついでにインパクト入れられた時、引っ張られるように折れた…です」
何それこわい!
ひびが入った骨を無理矢理引っ張って引き伸ばして折った感じ?
それ拷問じゃん!?
って、それやったの私かよ!?
あわわわ、どうしよ、どうしよ!?
「ファル、落ち着きなさい。大丈夫だから。騎士団には専属の回復術師がいる」
「う、うん。ガイズ、ごめんなさい」
「ぷっ、くくくっ。その感じは幼女のようだな。ああ、大丈夫ですよ。騎士たるもの骨折は日常茶飯事なんで。毎日誰かしら折ってるんで大したことないですよ」
それはそれでなにかしら問題ですよね!?
「まあ、そのとおりだな。それよりファル。団の備品をわざわざ壊したのは良くないぞ。壊さなくてもファルなら対応出来ただろうに」
「ごめんなさい」
木刀を木の棒呼ばわりされてついムキになってしまいまして。
私は壊してしまった盾の所に行って、壊れた木の盾を手で抑えながら【付与魔法】で【修復】を付与した。
これでこの木の盾は元通りになるし壊れにくい、やや無敵の盾になる。
直った木の盾を持ちあげ、おずおずとアレンジークに差し出す。
これで許しては貰えないだろうか。
「…え、たかが木の盾にすごいことしてないですか? 総長の娘さん…ファルちゃん、ヤバくないですか?」
「はあ…。きちんと謝ってくれたからそれでよかったんだけどな。ありがとう、ファル。また大事に使うよ」
呆れた口調のガイズ。
それからアレンジークは苦笑いしながらも、謝罪を受け入れ、盾を直したことを褒めてくれた。
頭を優しくなでなでされた。
よし、ガイズも治そう。
たぶん既に誰かが回復術師を呼びに行っただろうけど。
私は【アイテムボックス】から治癒ポーションを出し、ガイズに差し出した。
「これ、使って。…くだたい」
あ、噛んだ。
「くっくっくっ。『ください』ですね。はい。ではありがたく」
愉快そうに笑いながら、ガイズはポーションを受け取ってくれた。
そしてすぐに飲んで、驚いていた。
「これいつもと違くないですか? もう治ったんですけど!?」
「それは正規品だからな。いつものはファルの失敗作だ」
「いつものアレで失敗作!? え、じゃあこれ一体いくらに…うへえ。こわいこわい」
「飲んでおきながら何を言う。ほら、気が済んだなら持ち場へ戻れ」
「いやいや。ここで解散なんてあとで他の団長どもにボコボコにされるんですけど。できれば他の団長達にもファリエル様と手合わせする機会を与えてやってください」
その言葉にハッとし、周囲を見ると、いくつかのギラつく視線が私に。
このあと数人と殺気を伴う模擬戦?手合わせ?いや、アレはもう実践っていってもよくない?という戦闘をした。
最終的に多人数対私というのもやったし。
世が世なら幼女相手に事案ですよ?
・・・・・・・・・・
騎士団の屋外訓練場にはこの小一時間の間に、ちょっとした屍の山が出来ていた。
いや、死んではいないはず。
たぶん。
気付いて焦って急いでポーションを渡して飲んでもらってなんとか事なきを得た。
「5歳の子に数人掛りでも勝てないだなんて…」
「手も足も出ないとはこのことか」
「さすが総長の御息女か」
「いや、でも総長の御息女って確か…」
「あ…でもだったらなんであんなに強いんだよ。英才教育ってやつか?」
「魔法もすごいらしいぞ?」
「剣に魔法の英才教育。あの子寝る時間あるのかな?」
「総長、普通に『娘の寝顔に癒される』とか言ってるから寝てはいるんだろうよ」
などなど、復活した団長達が色々言ってる。
あとは私含めて全員に【浄化魔法】を掛けて汗も汚れもさっぱり。
と言うところで、なんだか訓練場入り口辺りがザワザワ。
全員がそちらの方に視線を向けると、王国騎士団とは少し違う鎧を纏った騎士達がゾロゾロとやってきた。
周囲がピリつく感じを覚えた。




