013 親の職場見学
ははははは。
来ちまったぜ、王 城!
お姫様からのお手紙で、お城に招待されたので、ホイホイ来ましたよ。
お城スゲーよ。
うちも大概城っぽかったけど、王城はウチの数十倍大きかった。
どうりでエリオットもアレンジークも、うちを屋敷呼びしてるわけだ。
お城ってこんなにもダイナミックな建物だったんだね!
お呼ばれした時間よりかなり早く登城したよ。
両親の出勤に合わせて一緒に来た形だ。
城についてからはエリオットとは別れ、私はアレンジーク預かりとなり、彼の片腕に抱っこされている。
ちなみに双子はお留守番だ。
お姫様と会うのはお昼前のお茶の時間。
現在8時前くらい。
3時間弱くらい暇だよね!
アレンジークに抱き抱えられながら向かった先は王国騎士団の詰め所みたいなとこ。
訓練場もあってめちゃくちゃ広い。
あと、アレンジークがまさかの騎士団長だった。
しかも総団長とか言う団長達の取りまとめ出来ちゃう偉い人。
総長ってやつ。
マジか……。
城内の騎士達がアレンジークを見るとピシッと直立して礼をし、アレンジークが過ぎ去るのを待つ姿とかもうね、異世界のなかの異世界だったね。
アレンジークに気付いて反射的に礼をする瞬間に私の存在に気付いて一瞬ぎこちない視線を向けられたが、気合いで何事もなかったように礼をとる様はなんだか申し訳ない気持ちになったけど。
言いたいよね、「黒髪だー! 不吉だー! 出ていけー!」って。
でも総長が抱えてるし、何か言うわけにもいかないし…っていう心境だと思うんだよ。
騎士団総長の執務室と言うところに入り、アレンジークの腕から下ろされて椅子に座らされた。
「書類を確認したらまたその辺りを案内しよう。それまで少し待っていなさい」
ここでは勝手がわからないので、私と一緒に来たロティルはそっと私の後ろに控え、かわりにここの事を知っているらしいリヒトがお茶の用意に動く。
その間にぐるっと室内を見てみるも、武骨で機能性重視の部屋って以外、なんの面白みもない。
装飾品の類も一切なく、それでも思った以上に書類がいっぱいな感じだ。
リヒトに出してもらったお茶を一杯飲み終わってもアレンジークの書類仕事が終わる気配がない。
「手伝う?」
お伺い、立てましょう。
「…そうだな。ファルは計算も得意だったな。ではこれを」
そう言って10枚くらいの紙を渡された。
手書きのレシピみたいな、文章に埋もれる数字を追って計算をして、合計を出す。
見づらいけど、ただ足したり引いたりすればいいだけなら問題ない。
いつか使うだろうと思って作ってて良かった。
じゃじゃーん。
でーんーたーくー。
甲虫系の魔物の素材で作りましたよ。
電卓の魔道具。
「……ファル、それは?」
私の手中にあるものを目ざとく見つけたアレンジーク。
ちょっと期待してる感じの視線だね。
いいよいいよ。
期待してくれて。
そろばんと迷ったんだけどね。
せっかく魔道具作れるようになったんだから、電卓を選んでみた。
魔術式や錬金術ってすごいなって思いました。
異世界魔法万歳ッスね。
「計算の魔道具」
「それは…! …どうなんだ?」
「う?でもこのくらいなら暗算の方が早い」
「いや、この量を暗算て。ファルはすごいな」
ふわっと優しく微笑まれましたが。
それどんな感情ですかね。
家にいるアレンジークより表情がかたいけど、それでも精一杯私に優しくしてくれようとしているのは伝わるかな。
とりあえず、計算ね。
電卓に魔力を流し、電卓から出る光に書類をあてる。
すると勝手に数字や言葉を読み取り計算してくれる。簡単だね!
ちなみに普通の電卓としても使える優れモノだよ。
書類は一応暗算でも間違いないか確認したけど、うん。大丈夫。
アレンジークから渡された書類は10分程度で終わった。
一応書類仕事は貴族のお勉強に含まれているので、何気に一通りは出来るようになっている私。
終わったものはリヒトに渡し、数メートルしか離れていないアレンジークに渡してもらう。
こういうワンクッションがね、貴族にとって大事らしいですよ?
「もう終わったのか?」
「うん。2重に確認もした」
「そうか。ずいぶん早いな。ファルのおかげでこっちももう少しで終わる。ありがとう」
「手伝えて嬉しい」
親の仕事のお役に立てるのって結構嬉しいもんなんだね。
それからアレンジークは宣言通りに5分で書類仕事を片付けると、また私を抱き抱えて執務室を出た。
「その辺りの案内」どころか直行する形で向かった先は屋外訓練場だった。
訓練場にはたくさんの騎士達が訓練をしている最中だった。
アレンジークの直属の部隊と、第一、第二騎士団が今訓練しているとのこと。
ほう。
男たちの汗が眩しいね。
あ、女の子もいる。彼女たちの汗は尊いね。
拝んどこ。なむなむ。
「ファル、何してるんだ?」
「国を守ってくれてありがとう、って」
「そうか。ファルはいい子だな」
そう言って頭をなでられた。
微妙にウソついてごめんなさい。
そんな親子のスキンシップを取っていると
「その子が噂に名高い総長の娘さんですか?」
ピンク髪の青年が人懐こそうにアレンジークに話しかけ、珍獣でも見るかのような視線を私に向ける。
てか噂に名高いって、私、どんな噂されてるのよ…。
まぁ、不吉とか黒髪とかそれ系だろうけど。
「ああ。美人だろう?」
「ですね。単に親バカかましてるんだとばかり思ってましたが、これはこれはホントにお美しいですね」
総長であるアレンジークに随分気易いな。
それに社交辞令でも私の事美しいといっときながらまだ珍獣を見る目をしていることには変わりない。
「ファル、コイツは第二騎士団団長のガイズだ。ガイズ、この子が私の娘、ファリエルだ」
アレンジークが紹介してくれた。
アレンジークは対外的には「私」って言うんだね。
家では「俺」なのに。
アレか。貴族あるあるってやつかな?
私も「わたくし」って言わなきゃないのかな?
まだ5歳だし、いいよね? 面倒だし。
てか娘かー。
娘って言ってもらっちゃったよ。ふふふ。
そうやって紹介してもらえるのってなんかめっちゃ嬉しいじゃん。
「こんなちっこい子が【強化】アリと言えど平騎士より強いって言うんだから…ちょっと納得できないなー。身内びいきや親フィルターかかってませんか?魔具見た限りでは確かに魔法や魔術の才能はあるかもですけど、体の動かし方は経験積んでコソでしょうに」
「ふむ。ではそんなに納得できないなら試してみるか? ファル、どうする?」
「いいよ」
「だそうだが、どうする?」
私の返事を聞いて少し挑発的にガイズに問うアレンジーク。
ちょっとドヤ顔なんだけど、今の会話の何処でドヤったの?
「へー。んじゃお言葉に甘えて。しっかし、小さな子ども用の防具も模擬剣もいくら王国騎士団といえどさすがにないんですけどねー。それにせっかくのドレスと靴が汚れちゃいますよ」
「へいき。【浄化魔法】使える。防具はいらない。木剣は持ってる」
「うっへえ。舐められたもんですね。これでも自分、第二騎士団背負ってんッスけどねぇ。で? ルールは【強化】のみ魔法の使用可って事でいいですか?」
私の発言にちょっとイラっとしたようで、好戦的な表情になったガイズ。
生意気な幼女を叩きのめす気らしい。
こわいですよ!? 普通の幼女なら泣いてるよ?
きちんと手加減してくださいよ?




