運命の赤い糸……糸?
凄かった……。
何が凄かったって、二菜だ。
二菜 オン ステージ。
流石に彼氏がいるなんて世迷いごとは言わなかったけど、何故か知らないが最初から蕩けた表情で……
散々好きな人がいる、という話をして、二菜の出番は終わった。
えっ、ミスコンってそういう感じでいいの!? なんかアピール間違ってない?
「なんつーか……凄いな、お前」
「え、そうですか?」
「ああ、よくもまぁ、あんだけ話せるもんだ、ってな」
司会の女の子、ちょっと引いてたぞ。
というかもはや、司会としての役割をほぼ放棄していたようにも見える。
「明らかにステージ上がる前より機嫌よかったけど、なんかあったのか?」
「くふふー! ついつい、先輩への愛が溢れてしまっただけなのでお気になさらず!」
「そ、そうか……」
いやお前、絶対何かあっただろ!?
今の二菜の状態は、上中下の機嫌で言うと上も上、絶頂状態だ。
何もないのにここまで機嫌がよくなるなどあるだろうかいやない。
「ま、まぁ……あれだけ暴走して、俺の名前を出さずに終えられたことは褒めるべき点だと思う」
「ですよねですよね! さぁ、もっと褒めて! 私を褒めて頭をなでてください!」
ほらほら、と頭を差し出してくるので、仕方なく頭を撫でてやる。
ただし……。
「ミスコンとしてはどうなんだろうなぁ」
「ん? 先輩?」
「いや、これで二菜に票が入らなくて、俺だけもし1位になったら笑えるなって」
「!?」
いや、ないとは思うけどね?
二菜が1位を逃すようなことより、俺が1位になるほうが可能性低いと思うけどね?
それにステージ上の二菜は、やっぱり可愛かったと思うし。
「そうなったら、二菜との時間はほとんど取れなくなるな」
「先輩……もしそうなったら、私と駆け落ちしてくれますか……?」
「えっ、そんなに深刻な問題に発展しちゃうの?」
「ううう……先輩が他の女の子と仲良くするところを見るくらいなら……!」
「前々から思ってたけどほんっとに愛が重い!」
深刻そうな顔してるけど、そんな事態絶対にないから。
もう一度頭を撫でてやり、大丈夫大丈夫と刷り込んでやる。
「展開的には俺が一人で落ちるほうが確率高いんだから気にするなって」
「それはそれで困ったことになるんで、やっぱり駆け落ち……」
「それもう駆け落ちしたいって言いたいだけですよね?」
「てへっ♡」
はぁ、ほんともうこいつは……。
呆れた目を向けてやると、俺ににへらと笑いかけてきた。
あ、これ今どう思われてるか全く理解してない顔だ。
『――――皆様、大変お待たせいたしました、先ほど、集計が終了いたしました』
「来たか」
「来ましたね」
『今年度もたくさんの投票、ありがとうございました! それでは発表いたします、名前を呼ばれた参加者の方は、ステージへ上がってください!』
あーダメだ、めちゃくちゃ緊張してきた……。
これで懸念したとおり、往面と二菜が二人で1位になってしまった場合、俺はどうすればいいんだろう。
それに、ここまで協力してくれた五百里と音琴にも、なんて詫びればいいのか。
ついついネガティブな想像ばかりしてしまう。
『ではまず、男子・第三位から発表します! 第三位は1年――』
「大丈夫ですよ、先輩」
二菜の小さな手が、俺の緊張で冷たくなった手を包み込んできた。
その手の暖かさが伝わってきて、少し心が軽くなった気がする……。
「……なんで、大丈夫だって思うんだ?」
「くふふ、私と先輩は、運命の赤い糸で結ばれてますからね!」
「えっ、そんなの初耳なんだけど」
「私たちの出会いは偶然でしたけど、あとの糸は私から積極的に結びに行きましたから!」
『そして第二位! 今年の1位と2位は非常に接戦でした! なんとその差わずかに1票!』
「あー……なんつーか……糸っていうか、ロープとかワイヤーでぐるぐる巻きにされた気分だけど……」
「もー! なんでですかー!」
「実際、なんかもうお前からは逃げられない気がするからなぁ……」
『それでは第二位! 2年! 往面隼人!』
わーっという歓声と、えーっ、なんでー!という歓声とが、聞こえてくる。
そうか、あいつは2位だったのか。
まだ、俺の名前は呼ばれていない、一体どうなったんだろう。
「ふっふっふっ……知らなかったのか、天音二菜からは逃げられない!」
「どこの魔王だよ、お前」
「くふふー、私はお義母様の教えも受けていますから、手ごわいですよ?」
「考えうるかぎり最悪の組み合わせだ……!」
「そんな先輩が、こんなイベント程度で私と離れるなんてありません!」
『そして第一位! 本年度のミスターコンテストグランプリは……2年! 藤代一雪!』
「ね、大丈夫だって言ったでしょ?」
「はー……なんつーか、ほんとお前には一生、敵わない気がする」
「くふふ! 一生、って考えてくれてるんですね! 嬉しいです!」
「ばか、そういう意味じゃないし」
つい、二菜とそうなった未来を想像して――
「でもなんか、お前とそうなっても今とあんま変わらない気がするな」
「くふふー、すでに事前の準備はばっちりですね!」
「こわっ! お前、ほんとこわっ!」
『今呼ばれた3名の方は、壇上までお越しください! それでは続きまして、本年度ミス・コンテストグランプリの発表です!』
「先にあがって待ってるな、二菜」
「はいっ、すぐ追いかけます!」
「それと……」
「? はい」
「や、なんでもない、後でな」
「はいっ!」
ステージへ上がる途中、表情の抜け落ちた往面と目があった。
1票。
そのたった1票が、俺と、あいつの差だった。
結果だけ見るとお互い、どちらにどう転んでもおかしくなかった。
でもこの1票が、そのまま二菜がそばにいるかいないかの差だった気がして仕方がない。
……にやけ面をしてるあいつが差、っていうのも凄い微妙な気分だけど……。
お互いに気まずくなったのか、目線を逸らす。
だけど、これでもう、往面が二菜に近寄るようなことも少なくなるだろう。
さて、ここからだ。
言っちゃなんだがコンテストは前座、ここからが本当の俺の目的と言っても言いすぎじゃない。
いやコンテスト前と後にあれだけビビってたくせに前座とかよくいえるな! って突っ込まれるのはわかってるから!
そう、これから俺は、さらにダメ押しをする。
……あ、五百里と音琴がなんか言ってる……わかってるよ、任せとけって。
気合い入れろよ、俺……!





