戦いの後に
「勝者、『無限の伝説』!」
バルバトスの声が訓練場に響き渡る。その瞬間ギャラリーの人達は拍手をして楓達の勝利を祝う。
あの後、楓達は異界から出て来て最初の位置に戻っていた。勇者達も強制的に異界から出て来て意識がはっきりしていた。
そして、今改めて国王であるバルバトスが楓達の勝利を宣伝し、戦いの幕を下ろしたのだった。
終始、勇者達は楓の事を憎らしげに睨んでいた。あれ、絶対に反省してないだろ。
『マスターもだいぶ嫌われてますね』
まぁ、あいつらのご褒美となる筈だったものを全て守ったからな。
女子達もやる気だった所を見ればもし日向達を連れて来られたら良い男を紹介するとでも言われたのだろう。
『それにしても日向さんもミルさんも容赦なかったですね』
だな、あれ結界なかったら数人は死んでるぞ。
最後の日向達対佐助達の戦いを見られなかったのは残念だがまぁ日向達の勝ちだっただろうから特に問題はない。
絶対また絡んで来るだろうし…
「やったね、楓くん!」
「あぁ、改めてお疲れ様みんな」
そう言って勇者達の前で日向達を抱きしめる。
その瞬間勇者達は絶望したような声をあげる。騎士団の人達は素直に祝福してくれたが少し恥ずかしかった。
「おのれ楓…」
「絶対にもっと力を付けて佐倉さん達を振り向かせてやる…」
「なぁ、佐助!」
「あぁ」
佐助はもの凄く不機嫌だった。それは勝負に負けたから不機嫌なのか、素直に楓が日向達とイチャイチャしているのを見たからなのか、あるいは両方か…
「おい、みんな。さっさと帰ろう」
佐助は声を低くしてクラスメイトにそう言い訓練場から姿を消す。
ギャラリーの大人達は勇者達のその態度を見て苦笑いしながら道を開ける。まだ楓達はイチャイチャしている。
「さて、帰るか」
「まぁ待て」
楓がみんなを連れて帰ろうとするとバルバトスが止めに入る。
「せっかく君達の応援にこれだけの人が来てくれたのだ。せっかくだから少しカエデ達が指導してくれないか?」
勝手に戦力を見に来ておいて…流石伊達に国王やっていない。
まぁ、いいけど。
「分かりました、では僕とアルで精鋭十五人ずつ相手をします。日向達は疲れていると思うので残りの二十五人を相手してもらいます」
楓がそう言った瞬間騎士団や宮廷魔術師達からはおぉと嬉しそうな声を出して喜んでいた。
「ありがとう、それでは頼むよ」
そう言ってバルバトスは観戦席へと行く。
「悪いみんな、疲れてるだろうがもう少し頑張ってくれ」
「悪いのはお父様ですよ。ほんとちゃっかりしてまいます…」
ミルは軽く拗ねた様にそう言う。
「じゃあ先にそちらで強い人達を三十人選んで下さい。僕達が一人ずつでも複数人でも相手をするので…」
「感謝する、すでに私達の方は決まっている。先に複数人のやつから相手をしてもらっても構わないかい?」
「良いですよ、アルどっちがやる?」
「僕がやるよ、騎士団長と宮廷魔術師長は譲ってあげるからそれ以外は任せてほしいな」
「あぁ、アルがそれで良いなら任せる」
と言う事で前哨戦のアル対騎士団+宮廷魔術師達の戦いが始まった。
奥の方で日向達は他の人達と模擬戦をしたり指導をしていた。
また、やりすぎてここの訓練場を壊すと不味いので楓は結界を張っておく。
「では、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
軽く挨拶をしてからアルに向かって複数人志望の人達全員で駆け出して行く。
結果から言おう。アルの圧勝だった。自慢の鎌を構えたと思ったら一瞬で全員を気絶に持っていく。
それから、一人一人に的確に指導していきその後の模擬戦もしっかりと瞬殺し指導をしていく。
約15分で28人全員の指導を終える。
騎士団の人たちや宮廷魔術師の人達はみんな楽しそうにアルの話を聞いていた。
「ふぅ、楽しかった」
アルも満足そうだ。
「さて、次は私達の番だな。私達は二人でいかせてもらっていいかな?」
騎士団長のルーナがそう楓に聞くと他の騎士団の人達が皆驚いた様な表情をする。
「あのルーナ様が一人ではなくヒストリア様とタッグを組んで戦うだと?」
「最強タッグじゃないか」
「カエデ様は大丈夫だろうか?」
皆楓の身を心配している様だ。
因みにヒストリアとは宮廷魔術師長の名前だ。どちらも女性だが余裕で男性より強い。
「えぇ、構いませんよ」
楓は全く気負った感じはなかった。
「そうか、ありがとう。ではいかせてもらうよ!」
そう言ってルーナは剣をヒストリアは杖を構えて楓に攻撃を加え様とする。
「おっと」
「何!?」
ルーナの全力の初撃を楓は咄嗟に手で受け止めたのだが勢いあまってその訓練用の剣をへし折ってしまった。
「気合い入れすぎですよ」
その後、何やら大きな魔法を唱え様としていたヒストリアに向かってレジストする。
「魔法をかき消された?」
ヒストリアもまさかかき消されるとは思っていなかったので一瞬面を食らう。
「あー、私達の完敗みたいだな。手も足も出なかったよ」
「うん、楓くん強かった。」
「ありがとうございます、またやりましょう」
楓がそう提案すると二人は嬉しそうに笑って喜んでくれた。
よかったよかった。
それから、しばらくすると日向達の方も終わったのでそのままクランハウスへと帰って楓が全員に夕食をご馳走した。
みんな嬉しそうに食べてくれたのできっと無駄ではなかったのだろう。
こうして忙しかった一日も幕を閉じたのだった。




