攻城戦 2
「ご主人様、馬車の迎えが来ました」
会議室で四人でエリス特製の紅茶とクッキーを楽しんでいると時間になった様だ。
「分かった、エリス達も準備をしてきていいよ」
「分かりました」
そう言ってエリスは部屋を出て行く。ここにいる四人はすでに準備が出来ている為あとはメイド待ちだ。
「マリー!」
最後に楓はマリーを呼ぶ。
「はい!どうしました?」
すると元気な妖精が出てきた。マリーの存在をまだ他に知られるのは得策では無い為今回はお留守番だ。
「マリー連れて行ってやれなくてごめんな。お詫びといったらなんだが…」
そう言って楓はポケットから小さい杖をとりだす。
「あの、ご主人様。これは?」
「せめてものお詫びだ。マリー専用の杖を作ってみた。受け取ってくれるか?」
「勿論です!ありがとうございます!!!」
マリーは嬉しそうである。まぁ、楓からの贈り物ならなんでも喜ぶだろうが今回の杖は日向達と同じ逸話級で作ってある。喜んでもらえて何よりだ。
「じゃあエリス達の準備も出来た様だし行ってくる。マリー屋敷を頼んだぞ」
「はい!任せて下さい!」
まぁ、この屋敷に侵入してくるバカはいないと思うがマリーがいれば安心だ。
ちなみに今回は馬車を二台用意してもらってる。
2週間前勇者達が帰ってからちゃっかりお願いしておいたのだ。
前を走る馬車にエリスを除くメイドたち五人、後ろを走る馬車に楓達とエリスを入れた五人が乗っている。
「マリーにもちゃんと武器をあげたんだ。優しいね」
日向の護衛として召喚した事もあって一番マリーと長くいるのは日向だろう。マリーが喜んでいたのを見て日向も嬉しかった。
マリーも小さいだけで普通に可愛いからな。楓はマリーが喜んでくれる様に真心を込めて杖を作った。
「カエデは妖精にも優しいからね」
「ん?どういうことだ?」
「普通妖精なんて見たら愛玩用にするか売り飛ばす人が多くてね。マリーは強いから大丈夫だけど普通妖精って戦うすべがないから肩身の狭い思いをしながらいきているんだよ」
なんか、悲しいな。種族が違うだけで道具や売り物の様に扱うなんて。
「私達はこの世界に来てまだ半年とそこらしか経ってないからそこらへんの偏見が無いしね」
「それでも、勇者達は違うと思うよ。マリーもカエデに召喚されて、ヒナタと友達になれて幸せだろうね」
この世界では、人間種以外の種族に対していい感情を持たれないみたいだ。それこそ、奴隷になったり。
「俺達はそういった偏見はしない様にしないとな。人間も悪い奴は悪いし」
「そうですね。この国では異種族差別は禁止していますが細かい所まで分かりませんし…せめて、私達だけでもそういうのは無くしていきましょう」
王城に着くまで楓達五人はこの世界の異種族差別について語り合うのであった。
「あれ?君たちコアを買うお金あったんだ」
城の訓練場についた瞬間佐助から煽りの頂戴する。
まぁ、当然無視だが。
「あれ、君達。今回の戦いって助っ人なしだよね?」
まぁ、案の定そこに突っ込みがきた。
「しかも、メイドって…楠木くん、流石に趣味が悪いよ」
そんな羨ましそうな顔をしながら言われても全く説得力無いですよーだ。
「こいつらは俺のクランメンバーなので問題ない」
「はっ!メイドをも戦場に狩り出そうなんてやっぱり君に佐倉さんやミルテイラ王女はふさわしくないね!」
「カエデに嫉妬してるみたいだよ、彼」
「なんだと!」
いつもの優等生面が剥がれているな。若干女子達が引いている。まぁ、男子は今にも飛びかかって来そうな剣幕だが…
「両者共その辺にしておけ」
バルバトスはこのまま放っておくと攻城戦の前に勇者達が壊滅するのが目に見えていたので止めに入る。
こんなくだらない事でこの訓練場が壊されてはたまったものではない。
「彼、弱いね」
「単純に揺さぶりとかの経験が足りてないだけだろ。まぁ、俺も言う程経験を積んでいるわけではないが…」
楓の言うこの経験とは対人戦の時。いや、それにかかわらず何かと戦う時には常に冷静でいなければいけない。
今楓が訓練場に入って来てから佐助との一連のやり取りで大体相手の力量が分かる。
楓やアルの挑発に簡単に引っかかり冷静さを失う様であれば日向どころかミルにも勝てないだろう。
ちなみに二人ともしっかりとアルに訓練をしてもらっている。
戦う前に楓と婚約した事をからかったり楓のベッドに侵入しているのを知っていると脅したりして割と容赦なく鍛えてある。
まぁ、そのおかげで二人はよっぽどの事がない限り揺さぶりは効かなくなったのだが。
ちなみに楓には初めから揺さぶりが効かなかった。戦闘時に自分の弱点を晒さないとあらかじめ心得ていたのだ。
「では、これよりクラン『無限の伝説』対『2ー4』の攻城戦を始める。準備が出来たクランからこの異界につながる門をくぐりコアを使い準備をする様に」
おい、2ー4って俺達の日本にいた時のクラスじゃないか。
勇者達のネーミングセンスが安直すぎて思わず楓と日向はうわーみたいな表情をする。
「凄いね、まんまカエデの作った訓練場の門だ」
アルは面白そうにそう言った。
「まぁ、作りは簡単だからな」
「転移門を作っておいて簡単はないよ」
アルは呆れた様にそう言う。この時楓達にとって幸いだったのはこの会話が他の誰かに聞こえていなかった事だろう。
勇者達も楓を潰すのが楽しみなのか妙に浮き足立っているので注意力散漫だ。
「よくこんなんで攻城戦を挑んで来たな」
楓は割と本気でそう思うのであった。




