勇者達との初対面 3
明日も二本投稿なので楽しみにしておいてくださいね。
「皆、面をあげよ」
ミルのお父さんが入室して来た事によって皆一様に頭を垂れていた。
楓達と勇者達以外は。勇者達は言わばこの世界の救世主とされている為貴族達からも特に目立たなかった、が楓達は違う。楓はミルの婚約者であるので別に頭を下げる必要は無かったが他の貴族が下げている中下げないと言うのは結構目立っていた。
「まず、今回は忙しい中集まっていただき感謝する。この度王都デスハイムに遠征に来た勇者一行だ。この者達は魔王を倒すべく勇敢な勇者達だ。我々も人類勝利の為、この勇者達に最大限バックアップをして行く事になるだろう」
王様から勇敢な勇者と言われ満更でもない勇者達御一行。
「何が勇敢な勇者ですか、勇敢な勇者(笑)ですよ」
ミルは先程からすこぶる機嫌が悪い。拗ねているミルも可愛かった。
あ、勇者の一人と目があった。えーっと誰だっけ、谷川だっけ?よくクラスで負け惜しみか知らないがよく絡んでくるウザい奴だったな。
何故か今は憎しみの篭った視線を楓に向けている。
「あれー?なんかアイツにめっちゃ睨まれてるんだけど…」
「あれって確か谷川って人だよね。そう言えばよく楓くんにちょっかいかけてたよね。ことごとく楓くん、流してたけど。」
「あんなのと誰が真剣に語り合えって言うんだよ。まず言葉が通じるか分からない」
楓も日向も酷い言い様であるがあながち間違っていない。
それから学級委員長、須藤 佐助が勇者代表で挨拶をする。
「皆さん、僕達の為にわざわざこんな素晴らしいパーティーを開いていただきありがとうございます。僕達は魔王を討伐する為に今後とも頑張っていきますのでご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします」
どこに勇者を指導する貴族がいるのか謎だったがそんな挨拶をしていた。
やはりネームバリューというのは偉大なものだ。中身のないこんな挨拶でさえ勇者の言葉というだけで皆満足げに拍手をしていた。
「さて、勇者一行はしばらくの間自由にしていてもらって構わない。他の貴族達と話をするのも悪くなかろう」
これからしばらく自由時間だと勇者達に告げる。そう、勇者達はだ。
「それからカエデ達はここに来るように」
正直なところ勇者たちなどバルバトスは興味なかった。それよりもここでもう一度楓達の婚約発表を行い馬鹿な真似をする奴を減らす作戦だ。
「あ、はい」
当の楓達は気の抜けた返事をして、勇者達と入れ替えで国王の下まで行く。勇者達は一様に楓達の四人を凝視していたが誰一人としてそれに怯える事なく無視をしていく。谷川 悠人は凄く悔しそうだった。まぁ、男は皆悔しそうだったのであまり他と大差なかったが。
「改めて紹介しよう。ミルテイラの婿であるカエデだ。そしてカエデにはもう一人の嫁がいる。それが隣にいるヒナタと言う女性だ。この婚約には三人とも合意の上なのでなんら問題はない」
勇者達は…と言うよりクラスメイトの男達は日向とも婚約している事を知り更に楓を恨む様な視線を向ける。
まぁ、楓はどこ吹く風で流しているが…
「ご紹介に預かりました。カエデと申します。先日は貴族であるチェカー・アンドルという男から襲撃を受けました。まぁ返り討ちにしましたけど。今後、二人に手を出す奴は容赦するつもりはないのでそのつもりでお願いします」
楓はにっこり笑って貴族達に向かってそう伝える。
この宣言に貴族達は3つの反応に別れた。面白いものを見ているとでも言いたげな人達、恨めしそうにしている人達、そして挑戦的な顔をする人達だ。だいたい4・4・2の割合だ。意外と面白そうな人達が多くてびっくりした。今のは楓からの宣戦布告だ。いい表情をされようと思って放った言葉ではない。なので、殆どの貴族に恨まれる事を覚悟して言ったのにそこまでだった。
そしてこの発言に一番頭を抱えたのは国王であり、ミルの父親であるバルバトスであった。
アルは後ろの方で肩を震わせている。日向とミルも自慢げだった。このクランは誰一人として楓のあの前代未聞の婚約宣言に突っ込まなかった。
『日向さんだけでなくミルさんまで普通の感覚を失いかけてますね…』
ナビちゃんはせめて自分だけでも普通を維持しようと心に誓うのであった。
「ま、まぁそう言うわけだ。こちらも今後ともよろしく頼む。カエデはまだまだこの街の暮らしに慣れていないからな。存分に頼ってくれ」
バルバトスは無理やり笑顔を作ってそう、楓に告げたのであった。
そして、それからは本当に自由な時間が過ごせるようになった。ただ不気味なのが勇者達が全く絡んでこないことだ。視線は向けて来るが誰一人として声をかけてこない。
「カエデ、めっちゃ見られてるね」
「あぁ、気持ち悪いな」
「あ、旦那様。お父様がこのパーティーが終わったらすぐに全員応接室に来て欲しいとのことです。多分メイドに言えば連れて行ってくれる筈です」
なるほど、公の場で暴れられては困るから後で勇者には楓とじっくり話す機会を設けたわけだ。
俺にメリットねぇー。でもミルのお父さんを蔑ろにするわけにも行かないので行くけど…
そんなこんなで待っているとやがて国王様に例の魔導書を献上する時が来た。これは貴族の上の階級から順番に献上していくのが礼儀らしく楓達は最後だったので今まで適当にぶらぶらしながら時間を潰していたのだ?
「今回はこんなに素晴らしいパーティーに招待していただきありがとうございます」
楓はニッコリスマイル(威圧)を乗せながらバルバトスに感謝の言葉を述べる。
「そ、そうか。喜んでもらえて嬉しいよ」
「はい、それとこれをお納め下さい」
そう言い楓はストレージから煌びやかな箱をとりだす。
「ん?何かねこれh…ま、魔導書!?これ、どうしたのかね?」
流石に国王様でも魔導書はレアものだったらしく声を荒げる。これには他の貴族達も驚いている。魔導書の希少さはこの前話したばかりなので割愛する。
「この前、迷宮探索の時に見つけました」
楓はさらっとそう答える。こんなに簡単に魔導書を渡せるという事はまだ何冊かあることを意味する。
それはバルバトスにも伝わりかなり真剣な顔をして楓にしか聞こえない声で忠告する。
「気をつけろよ」
「分かってますよ」
他の人には聞こえないからこそ気軽にそう答えた。
本当に底が知れない。バルバトスは楓の評価を更に一段上げるのであった。




