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勇者達との初対面 2

日向とミルのドレス姿を堪能してから10分位すると迎えの馬車がやって来た。


歩いて行きたかったが流石に騒ぎになりそうなので自重する。


『つ、ついにマスターが自重をすr』


まぁ、日向とミルに強制的にそうさせられたんだが…


『私の感動を返して下さい』


いや、そのやりとり見ていただろ?


『そうですがマスター自身が改心したものかと思いました』


ナビちゃん、それは絶対に無理だ。諦めろ。


っとそれで今馬車の中にいるんだがあまり馬車に乗る事が無かったので結構堪能出来た。


「ところで今日ってどのタイミングで帰ったらいいんだろ?」


楓は馬車の中でそう呟く。参加するのはいいが泊まっていけとか言われたら帰ろう。勇者と同じ屋根の下で寝たらミルか日向に夜這いをかけるに違いない。


「多分九の鐘がなる頃に解散になると思います」


「って事は大体4時間位か…」


この世界では3時間刻みにしか時間が分からないが大体は分かる様になってきた。


「そうなりますね。まぁ、お父様にご挨拶して貴族の方々とお話をされていたらすぐ過ぎますよ」


「それが一番の苦行なんだけどなー」


一応この街にクランハウスを構えて拠点としているのであまり上からの圧力をかけられたくない。対処は余裕だしかかってくるのなら容赦はしないが腹の探り合いみたいなのをするのは面倒臭い。


「そろそろ着きますよ」


みんなで話していると御者のお兄さんが教えてくれた。




「ようこそ、パーティー会場はこちらになります」


城に着くとメイドさんがパーティー会場まで案内してくれるそうだ。


ん?結構ざわついている所を見ると既にそこそこの人数が揃っているのかな?


「とりあえず何があるか分からないから皆んな離れない様にしよう」


「わかった!」


「はい」


「りょーかい」


楓の提案に素直に3人共従う。


そして、覚悟を決めてパーティー会場へと入る。入った瞬間その場にいた全ての貴族達がこちらに注目してきた。そして、男性貴族は日向とミルに、女性貴族は楓とアルの姿を見てその頰を緩める。


ここにいる貴族達は美形とはかけ離れた容姿をしている者が多い為四人の容姿が輝いている。


ミルなんかは自分の息子の嫁に…と考えていた人達も多い様で楓を憎む様な顔をしているのがチラホラいた。


あれー?貴族ってポーカーフェイスが大切なんじゃなかったっけ?こんなに感情を出していいの?


『多分マスター達が下に見られているのだと思います』


なるほど、要は舐められてるのか。まぁ一冒険者がこのパーティーに参加する事自体がおかしな話というわけか。


それとさっきから勇者一行の姿が見えない。


「勇者は?もしかしていなかったり…」


「そんなわけないじゃん。多分最後にミルのお父さんと一緒に出てくるんだよ」


楓の希望的観測を日向は笑いながら一蹴する。


むぅ


それから四人はとりあえず端っこの目立たない所に避難する。あまりにも私利私欲にまみれた視線を飛ばしてくる貴族達が多過ぎるので避難してきた。今回は立食形式のパーティーらしく机が縦に並べられていた。まだ食材が運ばれていない所を見るとまだパーティーは始まっていない様だ。


「遅刻したと思ったけどまだ大丈夫そうだな」


「だねー、入った時少し焦ったよ」


「カエデーはめっちゃ注目されてるね。そろそろ誰か絡んで来るんじゃない?」


アルの言う通り一人のポッチャリとした男性が近寄ってくる。


「これはこれは、ミルテイラ様。ご婚約おめでとうございます。いやー私の息子よりもこの男性を選ばれたと言う事はやはり何か惹かれるものがあったのですかな?」


などと抜かしているが実際は「私の息子が本来結婚する筈だった。このまま引かないとどうなるか分かるな?」みたいな脅しをかけてきているのだ。多分


『大体あってますよ。やはり王女との結婚は色々と大変そうですね』


本当に大変だ。でもミルは渡す気は無い。もし力ずくで来るなら容赦はしない。


まず、自分の名前を名乗らない様な輩にとやかく言われる筋合いはないと思う。


「これは、わざわざありがとうございます。僕はカエデと申します。ミルと日向とはこれから『末永く』頑張っていこうと思うので応援の方よろしくお願いします」


楓は優雅に、そして末永くと言う所を強調して名前も知らないポッチャリ貴族に自己紹介を済ます。


「そうですか、それはミルテイラ様もお幸せになられる事でしょう。何かありましたらこのケレスハラ・シンガーにご相談下さい」


最後は殆ど形だけの挨拶となった。相手の頭がピクピク動いていたから相当怒っているのだろうなと簡単に予想がつく。


まぁ言ってしまえば今のはケレスハラの宣戦布告に対して挑発をして一蹴したようなものだ。怒らない道理がない。


「あーあ、一発目からやったねー」


「旦那様、何挑発してるんですか…」


ケレスハラが立ち去ってからミルとアルに呆れられた。まぁ、一冒険者が貴族に対して歯向かったら普通はタダでは済まない。そう、普通では。


あいにく楓達は普通ではないので四人ともまったく心配していない。


「皆さま、国王さまと勇者様御一行の準備が整われました」


少し年のいったおじいさんが会場全体に声が行き届く様な声でそう伝える。


やっとパーティーが始まりそうだ。


まず、ミルのお父さんが入ってきて1席しかない豪華な椅子に座る。その後にゾロゾロと勇者達がやって来る。


「すげぇーな」


「ねー。一体あんな紙みたいな防具で何を倒すのかなー?」


勇者達は見た目はすごく煌びやかな防具で身を纏っている。だが、楓の作る武器や防具を知る日向達からすればあれは紙は言い過ぎだが防御面ではほぼ意味なし、かつ動き辛そうな物を装着していた。よっぽど今の楓達の服装の方が頑丈だ。


金属と布の差があろうとも…


「あれで魔王を倒そうとしてるの?嘘でしょ?」


アルも面白い茶番を見ているとでも言いたそうな声のトーンでそう突っ込む。


「あの人達が旦那様と私を引き離そうとしているのですね。殺りましょうか」


ミルはミルで勇者を見ると同時に黒いオーラをその背に醸し出す。


もう、ミルも完全に勇者に対して敵対しているな。


あーあ、これからどうなる事やら。せめて何もない様にとは願わないからそこまで大きな揉め事なくここから立ち去らせてくれ…


そんな淡い願いが叶う筈もないと分かっていながらそう願わずにはいられない楓であった。

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