勇者達との初対面 1
「はぁ、憂鬱だ」
「楓くん、さっきからずっとため息ついてるよ」
「旦那様、大丈夫ですか?」
勇者達のパーティーがあるその日のお昼頃、楓はずっとため息をついていた。
「だって、絶対面倒臭い」
「まぁ、僕はともかくカエデ達は貴族からも勇者一行からも目をつけられてるからね。いいじゃんあの礼儀スキルを使っとけば」
「はぁ」
「あ、これはダメだね」
「珍しいねー、楓くんがこんなになるって」
「ですね、少し珍しい旦那様が見られて嬉しい私がいます」
「あ、私も!」
常に楓は堂々としているのでこんなにナーバスになってる楓は3人共見た事がない。
「はぁ、まぁいいか。成るように成るだろ。それより何を持っていけばいいかな?」
楓は諦めて話題を変える。と言っても今夜のパーティーの事については変わらないのだが。
流石に手ぶらで行くと言うのは失礼なのと相手に舐められる事がある。今回はミルの父親なので舐められる事はないだろうが周りが何を言ってくるかは分からない。
という事もあり何を準備すればいいかみんなで決める事にした。
「俺が適当に何か作ろうか?」
「この国に、いやこの世界にとって逸話級や伝説級の武器がどれほど貴重な物だと思ってますか?そんな物を渡したら周りから狙われますよ…」
ミルはこの中では一応この世界の常識が『人間レベル』でわかる唯一の人間なので楓の提案を一蹴する。
「あ、じゃあ宝石とかは?」
「いいと思うけどありきたりじゃないかな?僕は楓の意見に賛成だけどねー」
日向の提案にアルが突っ込む。アルはやはりこのクランらしい規格外のなにかを成し遂げたいみたいだ。
「あ、じゃあこの前迷宮で手に入れた魔導書とかスクロールとかは?」
この魔導書とは自分の適性の魔法の一つが詳しく書かれていたりその発動条件はアドバイス、魔法理論などがとても詳しく書かれているものだ。
人によって内容が変わる為使い捨てとなっておりとても貴重な物となっている。
今この世界に魔導書は楓の元以外にはほとんど物が無く下手すると楓の作った逸話級の武器と同じ位の価値があるかもしれない。
まぁ、楓はこの魔導書を迷宮で大量に手に入れている為そこまで本人は貴重視してないしそもそも楓には無用の長物となってしまっている。
ちなみに楓の部屋にある本はほとんど魔導書である。この魔導書は一冊毎に厚みがそこそこあり結構オシャレだったりカッコいいデザインの物が多いので本棚に映える物だった。
楓が一番気に入っているデザインは禁忌魔法専門の魔導書で、本に鎖が巻きつかれている物だ。
禍々しくてカッコよかった。
そして、この魔導書だが、既に楓は自分で自作出来る様になっている為、他人にいくら渡そうが痛くも痒くもなかった。
「いーねー!僕は賛成だよ。いいプレゼントになりそうだ」
「魔導書とスクロールって前に迷宮で腐る程見つけた奴だよね?あんなので大丈夫?」
「ま、魔導書にスクロール!?旦那様そんな物を持っていらしたのですか?」
アルは賛成、日向はそもそも魔導書の価値を分かっていない為逆にあんなに簡単に手に入った物でいいのか心配。ミルは魔導書が城の中でどれだけ貴重な物かを教えてもらっていた為とてもびっくりしている。
城にも一冊だけあったのだ。そう、この国のトップですら『一冊』しか持っていなかったのだ。
今更楓の常識外に驚くつもりはなかったミルだがそれはステータスの事であって武器やアイテムの事ではない。まさか武器はともかくアイテム面までここまで潤っているとは思いもよらなかった。
「本当に、私達はその気になれば世界征服も余裕で出来そうですね」
「そんな気ないぞ…面倒臭い」
ミルが真剣な表情でそんな事を言いだすものだから楓は本心から面倒臭そうにそう言い放った。
「まぁ、多分これ以上妥協しているともっと凄い物が出てくる気がするので魔導書でいいでしょう」
ミルは疲れ切った表情で王様への献上品を魔導書に決める。
「だね、これを渡された時の王様の顔が楽しみだよ」
「これってそのまま渡すの?何か箱に入れて渡す?」
「あ、そうだな。それはこっちで作っとくわ。どうせまだ迎えも来ないだろうし…」
と、話もだんだん決まっていき気が付けば迎えが来る時間となっていた。
「なんでこんな格好を…」
「結構似合ってるねー僕もどうかな?」
今、いつもの会議室には楓とアルしかいない。女性二人組はドレスを着るらしくメイドと一緒に準備をしに行っている。
一方楓達はそのままの格好で行こうとしたのだが流石に他の貴族もいる中で普段着で行くと難癖つけられるとミルから助言を貰ったのでこの世界の礼服を教えてもらってそれを機能重視にして楓が作った。女性陣のドレスも楓の自作の為ナイフや剣で刺されても刺した方が折れる事になるだろう。それでも動き易さや華やかさ、柔軟性も抜群である。
ちなみに楓とアルは二人も黒のタキシードを着ている。
「こんな物を着て行くのは僕達だけだろうね」
「まぁ、何が起こるか分からないしな。勇者が襲って来たら俺とアルは対処出来ても日向とミルが同じ様に出来るとは限らない」
「過保護だねー、その位好きって事か」
「あぁ、自慢の妻だよ」
楓が惚気だしたと同時に会議室の扉が開かれる。
「ど、どうかな?」
「だ、旦那様、変ではないでしょうか?」
二人の天使が召喚された。
日向もミルもめちゃくちゃ可愛くなってる。なんだこの可愛さは…
「二人共、滅茶苦茶可愛いよ。いつも可愛いしとびきりの美人だが今日は更に可愛いよ」
「そうだね、二人共綺麗だよ」
楓とアルは二人のドレス姿を素直に賞賛する。
楓は二人の夫という立場であり、贔屓目になってしまうと思われるかもしれないがまずこんなに可愛い女性はそんじょそこらにはいない。
「あ、ありがとう」
「旦那様もアルもその服、似合ってますよ」
二人共楓達に褒められて恥ずかしい様だ。
勇者のパーティーに出席するにあたって唯一楓が良かったと思ったのがこの二人の可愛い所が見られた事だった。




